第11幕
それからのことは何も覚えていないが、目を覚ますと、ベッドの上であった。見覚えがない部屋……いや、段々と記憶が蘇ってくる。そうだ。私たちはこの古いアパートに何年も住み続けているのだ。今度は確かに感じる。魔術によって歴史が変わったのだ。もはや今の私は探偵ではない。その事もわかっていた。
「お腹痛い……」
どうやら何かの食中毒にかかっているようだ。台所でエプロン姿の誰かが料理をしている。「茜?」と私が言うと、魔女である親友がこちらを振り向いた。茜だ。そう、茜なのだが……彼女の左目の眉から頬まで傷跡がハッキリと残っていた。
「茜……その傷……」
「ん? ああ。どうやら防ぎきれなかったみたい。何もかも都合良く事実は変えられないみたいね。でも、あの数日間で亡くなった人たちの命の引き換えになるのなら軽い軽い。それより雪、お腹の調子はどう?」
「うん、なんとか。ちょっとしんどいけど。まさか琉偉君もまたなっているの?」
「うん。“また”ってなんだかちょっと可笑しいけどさ……くくっ!」
「ふふっ……確かに……」
それから私達は大笑いをした。一体何が可笑しかったのかよくわかない。でも二人でこうして馬鹿笑いできるのがたまらなく私にとって幸せだった。私たちに理屈などいらない。きっとこれでいいのだろう。
それから数日して私は復調した。私たちが今いるのは地元山口県の中心地だ。そこのとあるスーパーの店員として3人とも働いている。地元である萩市は割と目と鼻の先にあるので、私と琉偉君は定期的にお世話になった家へ挨拶に行っている。最初は戸惑ったりもしたが、慣れてしまえばこんな日常も愛おしく思えてしまう。茜は相も変わらず他の従業員やお客様などを相手に悪戯を施している。まったく懲りない魔女である。
ときどき茜と「探偵に戻りたいか?」と冗談で話し合うことがあるが、答えは決まって「No」だ。それには茜の立場と本音が交わった深いワケがある。なんとなく察して貰えれば幸いだ。私はただ茜と琉偉君とじゃれ合うだけで幸せなのだから。それに今の私達にはもう一つの仕事がある。皮肉な話だが私と茜の二人はHMO(人類魔術機構)の一員となった。しかもただの所属でなく、茜が会長で私が副会長という待遇だ。日本にいる魔術師・潜在魔術師の把握と管理をするというものだが、その役割のほとんどは東京の剣山たちが担ってくれている。まぁ、今後二度と組織に非人道的な行為をさせない為には最も良い形なのかもしれない。当の会長は毎日のようにスーパーの仕事をしながらケラケラしているが。
新しい生活に慣れて数カ月後。私は新幹線に乗って東京に向かった。
渋谷高層ビルの一室。数年前よりHMOが所有しているスペースがそこにある。そしてそこにはHMOが捕獲した極悪人が収監されている。
ビル最下階で剣山と上野が私を待っていた。挨拶が済むと二人は丁寧に案内を始めてくれた。日本魔術史上最極悪の魔女にして私の姉。歩みを進めるごとに胸の鼓動が高鳴る。私はいったい彼女になんて言えばいいのだろう?
「副会長、大丈夫ですか? 心身に影響を及ぼすようならまた後日でも……」
「だからやめてくださいって! そんな急に敬語使われたら気持ち悪いです!」
「ふふっ。ボスったら真面目なのだから」
「当たり前だ! 我々にとっては命に代えてもお守りせねばならない御方だぞ!」
「もうっ……」
茜と星村によって変革した世界で最も人格が変わったのがこの剣山という男だ。いや、そもそもこういう男なのかもしれないが、私と茜に命を救われたと思っているらしい。確かに一度は死んだはずの身である。上野と杉野も私達に懇切丁寧に謝罪とお詫びをしてくれたものだったが、この男のそれはかなり大袈裟すぎると言っても過言ではなかった。本心を疑う余地はあると思うが、これでも星村と共にHMOの会長・副会長に強く私達を推したというのだから信頼はしときたい。
やがて私は姉の収監されている部屋のドア前に立った。同行してくれた二人とゆっくりアイコンタクトをとってドアを開けた。
そこに彼女がいた。鉄の椅子に座らされていた。彼女の周囲に魔法陣が敷かれてあり、紫色の光を脈打っていた。彼女の身体は剣山が発動したと思われる黒い物体に拘束されており、身動き一つとれない様子だ。
彼女は俯いていたが、私に気がつくと驚いた顔を見せ、その目に涙を浮かべた。私にも自然と涙が溢れた。そして気がつけば私は彼女を抱き寄せていた。
「EVE、もう一人じゃないよ……!」
∀・)最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。魔女同士のバトルが無性に書きたくなって書きました(笑)しっかし我ながら茜がチート級に強いと実感しておりますw
A・)Eveもまぁそれなりに善戦はしましたが…茜の頭脳戦勝ちです。
∀・)続編に関しては…今のところノーコメントしておきます(笑)作品に関しての裏話や詳細な設定のこと云々はTwitterをはじめ、どこでも質問に応じますので気軽に聞いてください(^^)また次回作でお会いしましょう♪