第41話 『理事停止』
王都は、乾いていなかった。
石畳は朝露に濡れ、人の流れは絶えない。
だが空気は重い。
南部連盟代表団が門をくぐった瞬間、視線が集まった。
「例の悪役令嬢だ」
「市場を乱した」
「干ばつを利用したとか」
噂は都合よく形を変える。
エリシアは足を止めない。
王都議会庁舎へ向かう。
その途中、黒衣の男が現れた。
「久しいですね」
セリオ。
バルドの側近。
「王都は歓迎していません」
「承知しています」
「公開審問は明日」
薄い笑み。
「市場は感情で動きます」
「知っています」
「あなたの連盟は、多くの者を損させた」
「損は均等ではありません」
セリオは一瞬目を細める。
「理事カイルは停止処分」
静かな一撃。
ルナがエリシアの袖を掴む。
「……どういうこと?」
「仕事を外された、ということです」
セリオは続ける。
「彼はあなたを支持した」
「彼の判断です」
「巻き込んだのでは?」
沈黙。
言い返せない。
だが否定もしない。
「責任は私にあります」
セリオは小さく笑う。
「明日、証明を」
去っていく。
議会庁舎前。
カイルが待っていた。
外套姿。
理事章はない。
「……失いましたか」
「一時的に」
穏やかな声。
「後悔は」
「ありません」
短い答え。
「あなたは」
「行きます」
視線が交わる。
王都の喧騒の中で、そこだけ静かだ。
「討論は公開形式」
カイルが言う。
「議会長アルノルトが司会」
「中立ですか」
「国家安定派だ」
つまり、揺れれば切る。
「バルドは数字を出す」
「こちらも出します」
エリシアは言う。
「投機資金の流入経路」
「危険だ」
「隠せば歪む」
カイルはわずかに息を吐く。
「あなたは変わらない」
「あなたも」
一瞬の沈黙。
「……あなたが倒れたら困ります」
口をついて出る。
カイルはわずかに目を細める。
「利益が減るからですか」
王都の雑踏が遠のく。
ほんの一瞬。
「……それだけではありません」
それ以上は言わない。
言えば、揺らぐ。
ルナが二人を見上げる。
「けんか?」
「いいえ」
エリシアは微笑む。
「説明の準備です」
そのとき、議会庁舎の鐘が鳴る。
公開審問、前日準備開始。
広場には既に群衆が集まり始めている。
商人。
市民。
記者。
市場は感情で動く。
そして感情は、言葉で揺れる。
カイルは最後に言う。
「明日、あなたは象徴になる」
「承知しています」
「勝てば国家。負ければ断罪」
重い言葉。
「逃げますか」
「逃げません」
即答。
カイルは小さく頷く。
「なら、賭ける」
背を向け、去る。
理事章のない背中。
王都の空は高い。
だが干ばつの南部より、冷たい。
明日。
制度は、裁かれる。
エリシアは議会庁舎の扉を見上げる。
背負うものは重い。
それでも。
選んだ。
責任だから。
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