1章VIII 『反復』
「よーーし!!訓練だーー」
「元気そうだね、これなら今回も余裕そう」
少し休んで私は完全に回復したので、魔獣討伐訓練へと向かった。場所は校庭。野外で魔獣の討伐を行う。まずは整列し、百鬼先生の前にクラス全員が集合する。訓練の前の準備運動を行い、その後注意と説明が行われる。
「はい、そしたら魔獣討伐の実践の前に座学をしましょう。まず、魔獣とは何か、皆さんお分かりですかね?」
「はい」
挙手したのは七五三さんだ。もちろん私もわかっていたのだが、七五三さんにピッチの差で挙手のスピードに負けてしまった。もちろん分かっている。魔獣はそのーえっと、
「魔獣とは、世界の崩壊の際に繋がった異世界からこちらの世界へ迷い込んできた獣のことです。世界の崩壊時には決壊の対処と並行して、こちらの世界へ迷い込んできた魔獣の対処も行わなければなりません」
そう、これを言おうとしたのだ!世界の崩壊の際、二次災害として発生するのが魔獣。こいつらを倒すのが魔法少女の1,2を争う重要な役割であると教科書に書いてあった…気がする。
「あぁ、その通りだ七五三。よく勉強しているな。今言った通り魔獣を処分することは世界の崩壊から世界を守るために必要な訓練なわけだ。皆真剣に取り組むように」
「「はーい」」
「今回用意した模擬魔獣は犬型だ。サイズとしては大型犬程度で小さめであるが、噛みつかれたら大打撃を食らうので覚悟をしておけ。こいつの魔獣のコアは普通の生物通り心臓だ。では、事前に決めたペアに分かれて討伐を開始しなさい」
魔獣のコアというのは、魔獣を消滅させるために最後の攻撃を入れるべき場所だ。そこに致命傷を負わせればその魔獣を消滅させることが出来る。
クラスメイトが全員散り散りになって自分たちが対処すべき魔獣の元へ向かう。私も愛莉と一緒に魔獣を倒しに行かなきゃ。
「よーーし、じゃあ紗夜ちんサクッと片付けますか」
「うん、お願い愛莉。今日はどうやって倒すの?」
「そうだなー。毎回毎回自害を命令するだけじゃ芸がないしつまらないしなー。なにか工夫したいところではあるけどー」
そう、愛莉の能力は戦闘において最大限効力を発揮する。何せ相手に自害を命令すればその一瞬で勝負が着いてしまうからだ。愛莉は7歳の頃から基本的にその方法で魔獣討伐訓練をクリアしてきたようだが、最近はこの方法に飽き飽きしているようだ。別に私はずっとこの方法で構わないのだけれど。どうせ本番であれば、倒し方に美しさとかを求めている暇などは無くなってしまうのだろうし。
「細胞分割!」
近くで涼風さんの声が聞こえる。涼風さんは七五三さんとペアを組んでいる。これも私と愛莉がいつもペアを組んでいるように昔からの恒例行事だ。2人はやはりなんだかんだ言って仲が良い。見ている感じ涼風さんから委員長への一方通行のような気がするが、真偽は不明だ。何せ委員長はポーカーフェイス&敬語のせいで心情が読み取りにくい。
「よし!これで今回も倒せた!柚葉あっちで休まない?」
「いいえ、『時間遡行』」
七五三さんは紫色のオーラを纏い、魔力を行使する。対象はさっき涼風さんが倒した魔獣だ。先程涼風さんの魔法によって粉々になった魔獣が集まって再生し、再び攻撃を食らう前の姿へと戻る。
「ちょ!?柚葉何してんの!??」
「いえ、いつもいつもこんな感じ簡単に終わってしまうのは少しあっけないかと思いまして。涼風さんももう少し遊びたいでしょう?それに自身の限界を知りたいとは思いませんか?」
「何ふざけたこと言ってんの!さっさと終わらせて休むことが出来る授業なのに!!四肢分割!」
「ではもう一度戻しましょうか」
「柚葉ーーー!!!!」
何やら楽しそうに言い合いをしている。いや、涼風さんからしたら何も楽しくは無いのだろうけど。私があの立場だったらとっくに魔獣そっちのけで委員長との1:1バトルを繰り広げている頃だ。
「やば、いいこと思いついたよ紗夜ちん」
私と同じように2人の同行を見ていた愛莉がニヤリとした表情をこちらに向けている。これは何かロクでもないことを考えている時の表情だ。
「あー、変なスイッチ入っちゃったかなー?こっちも」
「あは、見ててって、対象、犬型魔獣、凛花を襲え」
「え?ちょっと愛莉何してんの!?」
愛莉の取った行動が、私の予想していた行動の遥か斜め上を行って飛んでいってしまった。
愛莉の体がピンクのオーラで覆われる。そして魔力の行使が完了。私たちの対処すべき魔獣が涼風七五三ペアの方へ向かっていく。
「いやー、面倒だし向こうのペアにまとめて対処してもらおうよー」
「えぇ、いいのかなそれ…」
この訓練はそもそも2人で一緒に魔獣を倒すのが目的なわけで…なんか成績評価とかに特段影響がありそうなんだけど…。だってほら、愛莉気づいてないけど今だって百鬼先生めっちゃ細目でこっちみてるし…。
「え、ちょっと待って!?なんか別のグループの魔獣も来たんだけど!細胞分割!」
「おー凛花〜そいつも私たちの代わりに片付けといて〜よろしくー」
「え!?ちょ!は?それ本気なの??」
涼風さんが困惑と憤怒という何が何だか分からないような感情を露わにする。
「どうやら姫野さんは本気のようですね。良かったでは無いですか。いい練習になりますよ涼風さん」
「あぁぁぁもう!!こいつらぁぁあ!」
あぁ、涼風さん本当に可哀想。でもごめんね、魔法がない私にはどうすることも出来ないや。後でなにかパンでも買ってあげようかな。そうすれば多分許して貰えるかもしれない。
「さーて、紗夜ちん向こうの木陰で休憩しよっかー」
「あぁ、うん。涼風さん大丈夫かな」
「大丈夫だってー、今だって実際委員長が時間遡行してなかったら余裕で対処出来てるでしょー?」
確かに、涼風さんが苦戦してるように見えてるのは七五三さんがアホなことをしているからであって、たった二体だけだったら涼風さんは余裕そうだ。さすがこのクラスでも群を抜いて戦闘力の高い涼風さんといったところか。
『服従』や『時間遡行』のような超強力魔法を持つ生徒がクラスメイトにいるせいで霞んでいるが、『分解』もかなり使い勝手がいい。さらに、涼風さんはその2人と違って体力が高い。よって基礎戦闘力が高く、戦闘を得意としているのだ。
「それに、自身の魔法の限界を知るのも大事ってどっかで誰かが言ってたしねー、凛花もそれを知れそうでいいんじゃないー?」
「魔法の限界ね…愛莉の限界はどんな感じなの?」
小鳥遊さんの『瞬間移動』には体力による回数制限があるように、基本的に魔法には限界があるはずだ。でも、私は愛莉が体力切れになってる所を見たことがない。
「んー、融通が聞きすぎて分からないってのが本音かな。実際今のところ聞かないのは先生と七五三さんくらいだし、対抗出来るのは同じ魔力どうしって感じなのかもねー」
本当に強いな愛莉の魔法は。なぜこやつにこんな魔法が与えられてるのか… 神様とは時に意味不明である。
まぁでも悪用するようなひとに渡されなくてよかったのかな。もしも悪人に『服従』なんて効果が渡されていたら、今頃全人類は気にいられた人間以外皆殺しの独裁国家になっていたに違いない。
「おー、凛花終わったんじゃねー?」
委員長が疲れ果てて倒れてしまった涼風さんを背中に抱え、木陰で休んでいる私たちの元へ歩いてくる。私は木陰から出て、涼風さんを私が元座っていた木陰の部分で休ませるように目配せをした。
「ふふ、涼風さんが疲れて倒れてしまいましたからね。どうやら細胞分割は連続50回が体力の限界のようです」
「なるほどねー、私も体力の限界とかあるのかなー?1回命令しても疲れる感じとか無いからなさそうなもんだけどー」
「1度試して見た方が良さそうですね、来週のチャレンジは姫野さんにしましょうか」
「ぐぇぇー、やだなー」
いや、絶対愛莉は自分の限界を知った方がいい。じゃないと魔法に奢ることになると思う…。