2章XXI 『成長』(2章end)
「うっ………」
私は目を覚ます…。一体何が…。そうだ、私は『太陽』と戦ってる最中に『月』に邪魔されて…。みんなは!?
「みんな…」
みんなは、無事だった。目を覚まし、4姉妹と応戦をしている。そうか、あの時『月』は私に対して魔法を使った。その結果として、みんなにかかっていた催眠の類の魔法が効力を失ったってわけか。
「あ、会長!先生!」
しかし、その中でも目覚めてない人が2人居た。白石会長と、姫野先生である。何故だろう。何か催眠がとてつもなく心身にダメージを与えてしまったのだろうか。私の魔法の癒しの音で心身的なダメージは回復できそうだけど…。でも今はそれより…
「沙那たちの方が大変そう!」
そう。沙那や葵ちゃん、たまちゃんの方が大変だ。なんせ、4姉妹のうち3人、『月』、『天使』、『悪魔』を相手にしているからだ。『太陽』は……姿が見えない。どこがで隠れて回復しているとかそういうことかな。
それに…、あの姉妹の後ろ。すごい得体の知れない動物が沢山蠢いている。正体は分からないけれど、何かしらの魔法で作られた生物。敵であることには間違いなさそうだ。
「みんな!手伝うよ!」
「あ、あすみっち。目を覚ましたにゃんか?」
たまちゃんが私に向かって返事を返してくれる。
「何話してるの!早く手伝って!」
「は?」
何故か沙那と敵対している『天使』が私の方を見て、助けを求めてくる。意味がわからん。誰が『天使』の手助けになるかってんだ。
「誰がお前なんか手伝うもんか!音刃!」
私の放った音波による斬撃は、『天使』に向かって飛んでいく。そして命中した!………はずなのにおかしい、『天使』は傷を負っている素振りは無い。それに驚愕の表情を浮かべている。
「きゃあ!」
「気をつけるにゃん!あの『天使』の隠れた能力にゃん!」
混乱していると、何故か私が打ったはずの斬撃が自分の元へと跳ね返ってきていた。くそ、これも『天使』の能力っていうの?この4姉妹の持ってる魔法ってどれもチートが過ぎない?
「なんで……なんで私を助けてくれないの!?どうしちゃったの!!それに魔法って…。あなた魔法が使えたの?」
「さっきからどういうつもり?私には『天使』を手伝うつもりなんて毛頭ない。その意味わからないことを並べまくる性格やめたら?」
『天使』と私が軽く口論をしていると、周りの戦闘も落ち着き始め、『月』や『悪魔』、それに葵ちゃんや沙那も私の方を見てくる。
「七瀬あすみ、そいつと無闇矢鱈に話すのはやめた方がいい。僕からのアドバイス」
「分かってる。流石になんか意味がわかんなすぎて反論しちゃった」
葵ちゃんもいつも通りって感じ。何も変わりは無い。やっぱ変わってるのは…
「貴方、魔法が使えたのですね。てっきり逃げ回っているだけだから、魔法が使えないものかと思っていましたよ」
「ん、でも、魔法が使えるからといって、戦闘中に雑談に励むのは非合理的」
『月』と『悪魔』……。こっちの方が若干おかしい。もう少しこいつらって感情的な奴らじゃなかったか…?それになにか違和感がある…。
「ほら、あすみ。何ぼーっとしてるの。シャキッとして!魔法が使えるようになったんだったら、一緒に戦おう」
「うん!沙那と一緒に戦えるなんて私幸せ」
「幸せ…どういうことかしら、一緒にたたかえることが幸せって」
『月』が私たちとの会話に茶々を入れてくる。
「どういうことも何も、そのまんまの意味だけれど?」
「はぁ?」
『月』が訝しげな表情を浮かべる。一体どうなってるんだ。しかもなんか割と会話が成立している気もするし、それすら若干珍しいような気もしてくる。
「さぁ、あすみ!やっちゃって!私たちにあすみの魔法を見せてよ!」
「うん!」
これ以上の会話は無駄だと判断した。私は手先に魔力を移動させて、呼吸を整える。とは言っても、私自身が自分の使える技をあんまり知らないから、これくらいしか使えないんだけれどね。
「衝撃波!」
「な!?」「うっ!」「え!」
私を中心とした音速を超えた振動による風が敵の方へと飛んでいく。これはあの3姉妹を狙ったものじゃない。後ろにいるその他のザコ敵を一掃するための技だ。
想定通り、『天使』は衝撃波を跳ね返し、『悪魔』や『月』はきちんと攻撃の弾道を見切って、何事も無かったかのように衝撃波を避けている。
ザシュッ!ジュ!バタッ!
そしてこれも想定通り、三姉妹の後ろにいた雑魚モンスターは首がはね、胴が避けるなど、多種多様な形で殲滅出来ている。うわ、ちょっとこれ気持ちいいかも。今まで魔法で攻撃するなんてことしたこと無かったから、内なる虐殺欲が掻き立てられてしまってるのかもしれない。冷静にならないと…。
「ん、お前…自分が今何やってるのか分かってるのか…?」
「分かってるも何も?自分の目の前にいる敵を倒しているだけなんだけど?どうせその後ろにいたヤツらも、『月』が催眠とかで作り上げた魔獣なんでしょ?」
「そんなわけないでしょ!!!」
「うわ、びっくりした」
『月』が急に声を張り上げる。まさかそんな勢いで否定されるとは思ってもいなかった。催眠で作ってるって思われることがよっぽど嫌だったのかな?まぁ別にどっちでもいいんだけど。
「あなた…いい加減にしなさいよ!私が…私が倒す!」
「へぇ、『太陽』と戦った後は次に『月』と戦えるのか。『太陽』は私がトドメを差したようなもんだし、楽しみ」
自分が魔法を使うということが楽しくなってきた。アドレナリンが全身を巡っているのを実感する。やれる…、今ならやれる!!!
「たぁぁぁ!!」
「爆音波!」
『月』との戦闘は催眠にだけ気をつければいい。妖しげな光、あれが催眠をかける時に共通していたポイントだ。あれを出してきた瞬間、その光を目に入れないようにしてカウンターを決める。これで行こう。
「くっ!」
と思っていたが、私が口から発した爆音波の衝撃によって『月』は後ろへと吹き飛ばされる。まさかこんな攻撃が簡単に通じるとは思っていなかった。もしや、基礎戦闘力はかなり低めか?
「どうしたの〜?お得意の催眠は使ってこないんですか〜?」
「……っ!」
私が挑発をすると、『月』が挑発に乗ったのか、苦虫を噛み潰したような表情で私に再び突進してくる。
「衝撃波」
「いやぁ!」
「だーかーら、そういうの、馬鹿の一つ覚えって言うんだよ。なんでさっきから牛みたいに突っ込んでくるだけなのさ!」
「私には…………」
「あ?」
「私には………あなたを殺せない」
「は?」
あなたを殺せないって……どういうこと?『月』が?私を?殺せない?は?何それ意味がわかんない。
「どういうことだって…、同情でも誘おうって話?でもそれなら有り難いよ。私は沙那をあんな酷い目に合わせたような『月』──お前に一切同情も容赦もするつもりはない。覚悟しな!」
「!」
私は立ち尽くしている『月』の腹部に向かって一発打撃を加える。全力パンチだ……。だけど、おかしい。手応えがない。なんなら、私の腕は『月』の体を貫通している。まさか、『月』の体には実体がないとかそういう類の話?なんて厄介な…。
「あすみ…」
「!?なんでお前私の名前を……。って自己紹介はさっきしたか…。」
腹部に私の腕が刺さっている『月』が私の名前を呼んでくる。気味が悪い。
「あすみは……何故……戦うの?」
『月』は涙を流している。涙というのは本当に悪どい。少しでも殺意を抑えさせる役割がある。
「そんなの決まってる」
だけど、交感神経全開の私を止めることはもう既にできない。そして、それと同時にあの時の約束──沙那と初めて会った時のことも思い出した。
「約束したんだ。沙那の前から、私は絶対に居なくなったりしないって!!!」
「ふっ……」
『月』は笑った。『月』の戦意が失われていくのを感じる。そうか、そもそもこいつは死にたがっていたんだ。ここでやられることになんの感情もないんだろう。
私は腕に精一杯の魔力を込める。
「超音波破壊!!!!」
『月』の内臓を私の腕から発される超音波で破壊する。心臓、肝臓、膵臓、胃、脳、全てをだ。『月』は体の形を保てなくなり、皮膚と血液が充満した半液体へと形を変える。やられる時の最後の顔…あいつは笑ってた。本当に薄気味悪い。
「あぁ!!!」「嘘でしょ!!!!!!」
『天使』と『悪魔』が『月』───いや、かつて『月』だったものへと駆け寄る。
「おま……お前!こんなことして許されると思ってるのか!!」
「別にあんたに許してもらう必要なんてない。私は私の正義に従っているだけ」
「そんな………こんなことって!」
「あすみ。じゃあ一旦帰ろうか」
「ん?いいの?」
沙那が私に声をかけてくる。どうやら帰るっぽいけど…。
「もうあいつらには戦う意思がないよ。無闇に戦う必要は無い。さぁ、戻ろう」
「ん〜、確かに。じゃあ帰ろっか」
「こちらでも、会長が目覚めました。彼女も一緒に帰りましょう」
「姫野先生は〜どうせひとりで帰れるから置いて帰ってもいいにゃんね」
戦いが終わったんだ…。ほっと一息安心する。後ろを振り返ると、『天使』と『悪魔』が鬼のような形相でこちらを見つめてくる。
「じゃあね。また会えたら」
私は軽く2人に挨拶して、沙那たちの後をつける。もうみんな向こう側に行ってしまってるみたい。沙那だけが、私を待ってくれていた。
「さぁ、一緒に帰ろう。フィニィ」
「うん」
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2101年6月8日、午前7時。今日も地獄のような生活が始まる。
「おい!早く出てこい!」
「はいはい分かってますよ…」
布団から重い体を上げて、髪を整える。いや別に整えなくてもいいんだけど。
「ようやく起きたか。管理番号179番、夢見しずく。起床確認」
「はいは〜い。あたしは起きてますよ〜。って痛っ!」
あたしが玄関から顔を出すなり、外でまちかまえていた軍人装いの男が、あたしの左腕に注射針を刺してきた。
「いやさぁ。義務なのは分かってるけど、毎朝毎朝注射打たれるのいやなんだよね。飲み薬とか開発してくれないの?」
「黙れ!配給を無しにするぞ!」
「ちっ」
これだから軍人は嫌いだ。相手より自分の方が立場が上だと思うと、すぐに上から目線になる。
配給所に向かい、長蛇の列に並ぶ。はぁ、めんどくさい。
「あっれぇ〜?しずく元気なくなぁ〜い?」
「こんな生活続けてたら、いやでも元気無くなるでしょ。そんだけ元気なあんたがおかしいの」
配給所ではあたしの知り合いと鉢合わせることが多い。今日出くわしたのは、星川綾音。ギャルというかぶりっ子というか…。こんな生活をする前だったら絶対に関わりを持っていないような人種だ。
「でもさぁ〜、ハイテンションじゃないとやってらんなくなぁ〜い?」
「まぁ、それは一理ある」
そう…。ここは魔法少女隔離施設。魔法を使える少女を一般人のいる世界から隔離し、一般人を保護するための施設だ。2年前──ちょうどあたしが11歳だった頃、国魔連の矢野輔とかいうジジイが定めた法律によって、魔法を発現している少女は、否応にもここに収容されることが義務付けられる。もちろん、家族とも離れ離れだ。
「でもさぁ〜しずくは難儀だよね〜。魔法が使えないってのにこんな所連れてこられちゃってさ」
「はぁ…」
そして、あたしは何を隠そう、冤罪なのである。11歳の時まで、いやなんなら今までも魔法とかいうものは1度も使えた試しがない。それにも関わず、強制的に行われた国魔連の鑑定装置が誤作動を起こし、私を魔法少女認定したんだ。そのせいで私は今こんな目に……。
「でも、仕方ないよ。責めるべきはそこら辺にいる軍人とかじゃない」
配給のパンを受け取り、私は近くの建物に埋め込まれた電光掲示板に映し出されている人間の姿を睨みつける。
ピンクの髪を持ち、どうやら最強の魔法とやらを使えるらしい。それ故にこの施設の管理の最高責任者を務めているそうだ。
「姫野愛莉………国魔連の犬が……」




