2章XIX『反応』
「葵ちゃん!たまちゃん!起きてってば!何が起きてるのこれ!」
結構揺さぶったり、顔面をビンタしたりしてるけど、誰も一向に起きる気配がない。一体どうなってるの…。
「姉貴たち、どうしたんだ?」
「ん、今の紅い月は、範囲内の動物に悪夢を見させることが出来る技。でも、どうやらあそこで慌てている茶髪には効いてないらしい」
「おかしいわね…私とルビルの合体技なんてそうそう防げるはずがないのに。防がれたことなんて一度も…いや、1回…1回だけある!」
「あんのかよ、それは一体誰なんだ?」
「…………………フィニィ」
「!」「!!!???」
チュドーン!
「な、何!?」
突然あの姉妹がいた方から爆音が聞こえてきた。慌てて振り向くと、どうやら『天使』が地面に着地したらしい。
「え、フィニィの話!?フィニィが見つかったの!?ねぇどこ!!!教えてよ!早く教えなさいよ!なんで教えてくれないの!」
「ん、フィニィが見つかったわけじゃない。フィニィにしか防げなかった技を、あれが防いだって話なだけ」
「おいおい、それは本当かよ。俺っちから見ても、あいつは相当弱い臭いがするぜ?そんな力はねぇと思うんだが」
「そう、力はあるように思えない。でも、それはフィニィもそうだった。であれば…まさかあれが?フィニィそのもの…?いや、見た目が全然違う」
「難しいことはどうでもいいでしょ!あの子がフィニィなのね!フィニィと同じ力を持つんだったらフィニィ以外にありえないじゃない!あの子と同じ力を持つ奴が何匹もいるわけないでしょ!」
すると、『天使』は急に私の方へ超スピードで羽ばたき向かってくる。
「ねぇフィニィ、あなたフィニィなんでしょ?私のこと覚えてるよね?ミリルよミリル」
「え、えっと…」
まさか、私のことを誰かと勘違いしている…?これはなんだか面倒なことになってきたんだけど…。
「まさか、覚えてない訳じゃないでしょ?私のこと忘れてないよね?忘れるってどういうことか分かってるの?それは最大級の冒涜であって失礼に値するって何度も言ってきたよね?その言いつけすらも忘れているなら…」
「ご、ごめんなさい。多分人違いで…私は七瀬あすみって言います。その、フィニィさん…?とは別人で…」
「え…?」
「ん、そうだぞミリル。早とちりすぎだ。ウチらもまだそれがフィニィとは誰も言っていない。」
「嘘だ…!嘘ようそ!フィニィが居るって言ったじゃない!嘘つき!じゃあ貴方はなんなの!フィニィじゃないなら貴方は何!?」
「え、えと…」
な、何?と言われましても…。自己紹介は今したじゃん。七瀬あすみだって。
「フィニィじゃないの?なんなの?じゃあ貴方が今1番フィニィに近い存在ってこと?なんで?そんなの許さない。フィニィの最も傍に居るのは私のはずなの!貴方がフィニィを騙ってフィニィに近づこうだなんて許さない!無間天国!」
「!? 」
『天使』がいきなり至近距離で火炎放射をしてきた。まずい、避けられない!
「熱い!あ、あつ!熱い!」
炎を直接胸元に食らう。熱すぎてじっとしていることは不可能だった。火を止めるため、即座に海へ向かって消化するけど、既に胸元の服は焼け、肌も少し火傷をしている。
「ほら、やっぱ弱ぇーぞあいつ」
「そうね…。フィニィだったら何とでもなると思うんだけれど…」
「フィニィフィニィってさ!そのフィニィってのは何者なの!」
私のことを置いてけぼりにしてさっきから4姉妹で自己完結しすぎだ。それなら私を巻き込まないでほしい。
「フィニィ?そりゃもちろん。私の妹よ」
「妹!」
「ん、フィニィは姉だね」
「フィニィは姉貴だな」
「………え?」
この子達って4姉妹じゃなかったの…?それにその感じってことは…。真ん中にもう一人いるってこと???
「私たちは随分と昔に姿を消したフィニィをずっと探しているのよ。でも、ずっと見つからなかった。だから、こっちの世界にまで探しに来てるってわけなんだけど。あなた、フィニィ探しにおいて、かなり鍵となりそうじゃない?」
「ん、ウチもそう思う。これがフィニィであるかどうかはさておき、フィニィの手がかりにはなり得そう」
「でもどうするよ?こいつはミケを殺した奴らの一部だぜ?俺っち的には野放しにしておきたくねぇんだが」
「そんなの決まってるでしょ!ギタギタに痛めつけて弱らせてから持ち帰ればいい!天使の微笑み!!」
「ぎゃぁ!!」
突風が私を襲う。寸でのところで横に逸れ、直撃は回避したものの、腕や脚の部分に切り傷が生まれ、出血する。
「一理ある。というか、今はあのピンク髪が眠っているから、俺っちの魔法が有効だ。任せろ太陽の裁き」
「嘘…でしょ…?」
目の前に現れたのは、2日前も見た。巨大な擬似太陽だ。でも、今の私にこれを消せる力は無い。暑い…いや、熱い。体が徐々に焼けていく。あぁ、私もここまでなのか。死が近づいていくのを感じる。まさか、まさかこんな所で終わるだなんて…。
私は深く目をつぶった。その瞬間だった。
「!?………な、何?」
急に体が軽くなったような気がした。何か今まで付けていた重りが外れたような。そんな感触がある。何か精神にかかっていた負荷が外れたような…。まさか!
「これで終わりやな。直撃や」
「音刃!」
「!?」
私は太陽に触れずに、目の前で粉々に両断する。私から放たれた音波は、それ自体が鋭い刃となって、太陽を引き裂いた。集合的な熱を失ったその太陽は燃焼を止め、灰となって空を舞う。
「お前、まさかそんな技を隠し持ってたとはな。切り札って所か?」
「そう言えればかっこよかったんだけどね。生憎今使えるようになった」
私の体はグレーのオーラで覆われていた。




