2章XVIII 『再臨』
「んぅ……」
私は自分にかけられている布団をどけながら上半身を起こす。どうやら目が覚めてしまったらしい。
「ん〜。まだ日も完全には上っていない、5時くらいかな。せっかくなら海の近くで日の出でも見よう」
海の方へ歩いていくと、ちょうど東の方角だったのか、目の前に大きな太陽が下から現れようとしているところだった。空がリアルタイムで色を取り戻していき、星が青へと隠れていく。
「あ〜風が心地いいけどちょっと寒いな」
私は砂浜に腰を下ろす。特に何もすることがなく、ぼーっと空を眺めていた。かもめが飛んでいるのを目的もなく目で追ってみたり……ん?
「あれ、なんだろう」
カモメの行く末を見ていると、ちょうどそこに何かおかしなものが見えた。なんか、空が少しズレているような…いわば、ヒビのようなものが、目を凝らすと見えてくる。
空中にあるそのヒビのようなものを辿っていくと、どうやら島の向こう側の方へと繋がっていそうだ。ん〜でも実際に向こうまで歩いていく気は起きないな。
「みんなの所まで戻ろう。まだ寝たりな…!?」
突然の轟音、まるで何か爆発が間近で起きたかのような炸裂音に私は驚いて後ろを振り返る。
「なに…あれ…」
目の前に広がっていたのは、さっきまでのきれいな青空とは一転して、禍々しい紫やピンク色の混ざった空間である。まさかこれは…
「世界が…崩壊した…」
嘘でしょ?こんな時に世界の崩壊???なんの準備もできていないのに!
「あすみ!気をつけて!」
寝床の方から沙那の声、あの巨大な音で全員目を覚ましたのかな。みんな一斉に駆け寄ってくる。
「姫野先生…これは…」
「うん。間違いないね〜世界が崩壊した。まさかこんな時に遭遇するなんてついてないな〜」
島のあちこちで睡眠をとっていたであろうクラスメイトたちも、先生という安心材料を求め、続々と集まってくる。
「ぼ、僕たちは一体どうすれば…」
「安心して、世界の崩壊が起きたとなれば〜必ず誰かは空間を修復しにやってくる。みんなは〜魔獣の襲来にだけ気をつけて〜」
姫野先生が私たちの方を向いて、冷静に諭してくる。魔獣……魔獣ってまさか!
「先生!後ろ!」
「!?」
振り向くのも束の間、姫野先生の体は縦に4つへ引き裂かれる。あれは…巨大な猫のようだ。可愛らしいペットのような姿をしているが、その大きさは私たちの身長の4〜5倍はあるように見える。そして、何よりも攻撃性があるのが見て取れる。
「いたたた…。マジか〜もう魔獣が出てきちゃうのね〜全員備えて〜!」
姫野先生は何事もなく自分の体を繋げ、起き上がってくる。まぁそりゃそうか。
「マジックリング起動!」「起動!」「どう!」「う!」
「みんな頑張ってね〜」
私は正直いって文字通り何もすることが出来ない。みんなの後方で邪魔にならないように待機だ。
「来るよ!」
魔獣が再びその大きな腕を私たちに向かって振り下ろしてくる。あれの下敷きになってしまえば一溜りもない。他のクラスメイトは散り散りになって避けているけど…。
「「『反射』」」
たまちゃん…そして葵ちゃんもだ!『反射』で殴りかかってきた勢いをそのまま魔獣へと跳ね返す。魔獣の腕はその場で止まり、砕け散る訳では無いものの、骨は砕けているのだろうか、あらゆる所から皮膚が破れ、血が吹き出しはじめており、雄叫びをあげる。
「ぐおおおおおおおおおおお!!」
「古賀環の魔法、本当に使いやすいな」
「ふふーん。そうにゃろ〜?『同化』してる葵っちも入れば100人力にゃね〜」
「………、沙那は!?」
2人が無事なのは言うまでもないんだけれど、同じく身をもって攻撃を受けた沙那の姿が私には見つけられない。沙那に限ってやられることは無いと思うけど。
「沙那ぽんなら、あれにゃ。腕を滝登りのように泳ぎあがっているにゃよ」
「本当だ、よく見ると、あの魔獣の腕が波立ってる」
「たぁ!やぁ!おりゃ!」
沙那から攻撃時の声が漏れ聞こえてくる。多分、『透過』を使って、内部から魔獣を攻撃しているんだ。内部から生物を壊すのは、沙那の十八番だもんね。ただ、沙那の魔法の致命的な弱点は…
「はぁ…はぁ…」
「ダメそう。やっぱり、沙那の魔法は防御に向いてるけど、攻撃手段が少ないよね」
「分かってる…。こんな小さな包丁じゃ、内臓に傷一つもつけられなかった。」
「ふむ…。僕たちじゃ万事休すと言ったところですね。どうもこの3人の魔法はみんな防御寄りだ」
「みんな!これを使って!」
「姫野先生!」
姫野先生が急いで私たちの元へやってくると、3人へ氷で出来た先の尖った剣のようなものを渡してきた。
「ひゃあ!持ち手が冷たいにゃ!」
「先生…これは?」
「そこら中に広がっている海水を凝固させて作った〜。まぁ私に出来ないことってないからね〜」
「先生…僕たちにこんなことをさせるより、先生が何かしらの手段で直接攻撃すれば…」
「うっ…。なんでも出来るとは言ったけど、死に直接関係する命令は私できないんだよね〜。あと、魔獣は特性で反射を持ってる可能性がある。無闇に攻撃するとまだ回復できない私が致命傷を負う可能性があるからね〜。あと数分で復帰するよ〜」
「にゃ…反射…、まるで私みたいにゃ」
反射か…、確かにそれがあるのは厄介かもしれないけど。
「まぁでも今回の魔獣にはないんじゃない?もし反射があったら、たまちゃんや葵ちゃんの『反射』が反射されて無限ループになっちゃうでしょ」
「そうね〜。今回の魔獣は物理的反射じゃなくて精神的反射なのかも。みんなの魔法には干渉しないから、ガンガンやっちゃえ〜」
「分かりました!」
沙那の一声で、3人とも戦線に復帰する。
「やっつけてやる!」
まずは沙那だ。間髪入れずに魔獣の中へと身を隠す。これは本当に厄介だ。沙那は魔獣の内部へと入り込むことが出来るが、もちろん自分で自分の骨を直接触ることが出来ないように、魔獣自身は魔獣の内部へ干渉することが出来ない。猫型の魔獣も、内部に沙那がいるという気持ち悪さに気づいていながらも、自分ではどうすることも出来ないのだ。
「ぐ、ぐぁぁぁぁぁぁ!」
魔獣が呻き声を放つ。とても大きな爆音で私の耳はおかしくなりそうだけれど、これは進展だ。先程の気持ち悪さから来ているようなただバカでかい音というわけではなく、今度はちゃんと苦しんでいる声を魔獣があげている。内臓を破壊するなどして、沙那がきちんとダメージを与えられているんだ。
「葵っち〜テニスするにゃよ〜。ちゃんと反射じゃなくて、反転の方でレシーブするにゃよ」
「分かった。じゃあ僕から行くよ。えい!」
グサッ
「きたきた〜!反転」
グサッ
「ちょっ、古賀環、コースが乱れすぎだ。反転」
「え〜、どうせ心読めるんだからどこ飛ばしても取れるんにゃろ〜?反転〜」
「ぐ、ぐがぁ」
たまちゃんと葵ちゃんは…テニスをし始めた。ボールの代わりに使っているのはさっき姫野先生から貰った氷の剣。そしてお互いが魔獣の正面と背中側にそれぞれ立ち、魔獣に向かって氷の剣を打つと、貫通したものを向こう側で待ち構えている方が反転させてるって感じね。反射じゃなくて反転なのは、反射だと持ち手の方が魔獣に向いて帰っちゃうからだとおもうんだけど。それにしても…
「よくその氷の剣、貫通するし、壊れないね?」
「まぁ〜私が作ったから丈夫ってのもあるかもしれないけど〜。骨くらいだったらちゃんと砕ける強度してるよ。それに、ほら、あの子たちの打っている場所を見て。ちゃんと、骨が無さそうだったり、肉が薄そうな部分を的確に狙ってる〜。魔獣が登場してからずっと観察してたって証拠だね〜えらいえらい」
「そっか…それは凄いなぁ」
私には適当に打ってるようにしか見えなかった。いや…姫野先生が変に解釈してるだけで普通に適当に打ってないか…?ちょっと壊れそうだし…。
「「見えた!」」
「!」
何十回かのラリーが続いたあと、たまちゃんと葵ちゃんがおもむろに声を上げる。すると、剣が刺さった場所にはまるで水晶体のような物体。いかにも、生物には自然的にあってはいけないような人工物が魔獣の中にある。あれは…いわば普通の猫ならば心臓の位置に値する部分かな。
「コアだ!浦川沙那!魔獣の心臓部を狙え!」
「了解!」
腰付近に居た沙那が体の中を泳いで、心臓部分へと登っていくのが私には見える。そして…
「トドメ!!!」
沙那がコアに氷の剣を突き刺す。すると、コアは硬そうな見た目と裏腹に、案外簡単に砕け散った。
「うがぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「沙那!危ない!」
魔獣が死にそうな声を出す。暴れているから、危険な目に遭いそうな沙那は慌てて、魔獣の体に潜り込むのをやめる。
そして魔獣が暴れること数十秒。魔獣の声はピタリと止んだ。魔獣もピクリとも動かない。おそらく…倒したんだ!
「や、やったにゃ!」
「す、凄いね〜みんな、魔獣をこんな簡単に倒せるなんて〜」
「みんな激強魔法の持ち主にゃからね〜。このくらい余裕にゃ」
姫野先生が驚きの表情を浮かべながら、感心の意を示す。先生もこんな簡単に倒せるとは思ってもいなかったみたい。
「あとは、あの世界の崩壊による空間の傷をどうするかですが…。あれは、僕たちの範疇ではなさそうですね。応援を待つしか」
「そうだね!葵ちゃんもたまちゃんも、沙那も!みんな凄かったよ!」
「ありがとにゃ〜、あすみっちは怪我してないかにゃ?」
「うん大丈夫、沙那も…」
ビシャーン!!!
私が沙那に近づこうとすると、急に私の目の前────私と沙那の間に雷が落とされる。
雷……?なんで?空を見上げるが、空はやはり雲ひとつ無い晴天だ。沙那も同様に驚いたのか、同時に空を見上げる。そして空とかそういう問題ではなかったことに両者気づく。
空には雲の代わりにあるものが見えた。そう、もう見たくなかったもの…いや生物か。白い純白な姿に包まれ、背中には羽を生やしている生き物…。
「『天使』かっ……!!!」
「嘘…なんで…ミケちゃんがなんでこんな目にあってるの…!!ねぇ!お前らなんだろ!お前らのせいなんだろ!」
ミケ…なんだ…どういうこと…まさかこの魔獣って『天使』のせいなんてことがあるのか…?
「ど、どういうことにゃ!?この魔獣は私たちを襲ってきたんだにゃ!だから、退治しただけにゃ!」
「退治しただけですって…!?ミケは私たち姉妹の大事な家族!大事なペットだったのにそれをあなた達は簡単に殺してしまえるの!?そうやって君たちは会話を放棄するんだよね。キモイとか気持ち悪いとかそういう自分の感情だけに従って動いている悪者!気に入らないものをそれらしい理由をつけて排除しようとしているだけなんでしょ!?ミケだって本当はこんな目に遭う理由なんてなかったんでしょう!?それのどこが、「魔獣が襲ってきたから退治しただけ」なんて高尚な言い分に値するわけ?どう考えてもミケを魔獣なんて言って敵視している立場じゃない!もうなんか馬鹿馬鹿しい…バカバカしいよこんなの!もうあなた達とお話出来ることなんてありません!さようなら!正義の鉄槌!」
「あすみっち!危ない!反射」
「きゃぁ!」
私の真上に──たまちゃんに突き飛ばされていなかったら、さっきまで私が立っていたところに雷が落ちてきた。たまちゃんが『反射』で返すけれど、それは『天使』に当たるわけじゃない。空の彼方へと雷は飛んでいってしまう。
「『天使』…。一体どういうこと…?あの魔獣は世界の崩壊によって向こう側からこちら側にやってきた、要するにこちら側には存在しない生物。それがペットってことは、あなた達もそちら側の住人ってことになる…。」
「ん、そうだよ」
「!」
沙那への質問には『天使』ではなく、別の声が答える。この声は…。
「ん、ウチたちもこっちの世界に来てから帰れなくて困ってたのさ。それで、ようやく入口が開いたから、帰ろうとしていたのに、まさかミケが殺されているとは思わなかったよ。論理的に考えて、これは同害報復をするのが最も合理的だよね?君たちには死で償ってもらいたい」
「『悪魔』まで… 」
昨日『天使』を私たちの前から消し去った…『悪魔』が私の目の前を歩いてきた。
「嘘……でしょ…?」
沙那が口に手を当て、現実を受け止めきれてない様相を醸し出す。それもそうだ。私にも見えている。だって、その『悪魔』の後ろには…。
「俺っちもルビルの姉貴に同意ー!さっきまでこいつは生きてたんだ。お前らはその「生」を奪ったことに対してなんの悲しみも持たねぇのか?飯を食う時だって、いただきますって言うだろ?家畜は当然食われることがそれ自体の「生」の役割だ。要するにあいつらは生きることを完遂したとも言っていい素晴らしい存在なんだ。だが、その生の役割を押し付けた側はきちんとそれに対する謝罪を込めねぇといけねぇよな?それがいただきますってやつなんだよ。いいか?生を奪った奴には等しく謝罪の義務がある。謝罪の形は俺っちは別に問わねぇが。まぁ他の姉貴の言いなりになってやるさ」
「あぁ、ミケちゃん。死ねたのね…羨ましい。そっちの世界はどうなのかしら?楽しい?苦しい?どちらにせよこちらとは違うのでしょうね…。でもね、それは自然じゃないの。その死は自然じゃない。世界の理に反した死。ダメよ…ダメダメダメダメ!そんなのあっちゃだめなの!死は生物に等しく訪れる平等なもの!それを人工的に作ろうだなんて…あぁ!なんておこがましいの!あぁ、あなた達。ミケちゃんに会ってきなさい。それがあなた達の今すべきことよ」
「おいおいマジですかこれ…僕たちの手に負える範囲じゃないですよ」
「まさか4姉妹全員集合とはね〜いろいろ聞きたいこともあるんだけど、どうやら、質問に答えてもらえそうなほど素直でもなさそう〜」
『月』『太陽』『天使』『悪魔』…1日1人相手するだけでもかなり大変だったのに、4人一気に相手するのは流石に無理ゲーじゃない…?ゲームのボスラッシュでももう少しクリアできる難易度に設定されてるって…。
「おいルナの姉貴…今なんつった…?」
「どうしたの?フレア。私はミケちゃんが死ねて羨ましいと思っているだけよ?」
「あぁ??羨ましいだ??てめぇ良くも死んだ生物に対してそんな口が聞けるよな?お前と血が繋がってること自体が俺の汚点だわふざけんじゃねぇ」
「え…え、け、喧嘩?」
「この子達の思想的に仲はあんま良くなさそうだとは思ってたにゃけど…。まさか、今喧嘩し始めるほど仲悪いのかにゃ…?」
『太陽』と『月』が目の前で喧嘩を始める。とんでもない言い争いだ。
「あぁ、なんでフレアはいつになっても私の想いを理解することが出来ないのかしら。本当に、そんなに生に囚われていては視野が狭くなってしまいますよ」
「黙れよクソ姉貴。大体いつもなぁ」
「やめてよぉ!!ルナもフレアも!なんで喧嘩なんてするの!いつもいつもさぁ!うるさいんだよ!そうやってさ!私が寝てる時にだって喧嘩して騒がしくしたりして、私が迷惑を被ってるってことが理解できないの?なんで私の姉妹っていつもこうなの??ルビルもそう!昨日私の事滅多刺しにしといて、謝罪の一言もないわけ?そんなんだからお前は無愛想って言われるんだよ!」
「ん、喧嘩をするのは互いの思考をまとめるためには合理的。だけれど、そのいい争いで現在の論点ではなく、過去の出来事を持ち出してくるのは非合理的じゃないか?それをやっていては埒が明かないだろう?」
「は?意味わかんない!屁理屈言うなよ私の妹の癖にさ!妹は姉のことを敬うべきだろ!?怒りってのは積み重ねなの!そりゃ毎日ちょっとずつイライラすることはあるよ?でもそんな事にいちいち突っかかってたら疲れちゃうじゃない。だから仕方なく我慢してあげてるの!わかる?許されてるんじゃなくて、私が我慢してるの!それで、許容量を超えたから、容器の中の水が溢れるかのごとく、怒りが爆発しているだけ!当然のことでしょう?」
うーーん………これは……
「ね、ねぇ。みんな、今のうちに逃げられるんじゃない…?なんか全員言い争いしてるし…」
「七瀬あすみの言う通りだ。わざわざあいつらを相手にする必要は無い」
「そうにゃね…今のうちに…」
「ん、悪魔の眼差し」
「!?全員動くな!!!!!」
「え…?」
姫野先生が突然大声を張り上げる。この場から立ち去ろうとしていた私たちは驚いて怯んでしまい、動きを止めてしまう。ただ1人…沙那を除いて。
沙那は姫野先生の声なぞに怯むことなどなかった。だが、怯んでいた方が良かったのかもしれない。そのまま歩こうとしていた沙那は、その勢いを止めることが出来ず、右足を踏み出す………が、その右足は地面から離れることは無い。太ももから先が削れ、地面からの抗力を失った沙那の体は大きく右側へと傾く。その勢いのまま、左足の太ももから先も上半身との接合をやめてしまう。沙那の体は、右足、左足、上半身と綺麗に3等分される。
「沙那…!!!」
「命令!動くな!!!」
思わず、沙那に駆け寄ろうとする私だったが、姫野先生に今度は『服従』を行使されて、体が動かなくなってしまう。
「先生…なんで!」
「対象、浦川沙那。回復しろ」
姫野先生は沙那に魔法を使って、沙那のことを回復させる。
「今のはおそらく体を固定する類の魔法だね〜。あの『悪魔』が使ってくるから気をつけて〜。皆への魔法行使権は無駄にしたくなかったから、命令しなかったのにさ〜。あと5分死なないでよ?七瀬さん」
「ご、ごめんなさい…」
姫野先生の最強の『服従』魔法を行使するチャンスを1回無駄にした自分を恥じる。そうだ。落ち着こう、こっちには姫野先生が着いてるんだ。多少の怪我は問題ない。
「ん、そういえば2日前くらいに、ウチはあのピンク髪の人間とは会ったことあるな。じゃあこの初見殺しは効かないか。これ、恐怖による固定だから、自分の体が動かないと強く自覚されちゃうと効果ないしね」
そうなんだ…。じゃあからくりに気づいた今なら自由に足を動かせるってわけね。
「な、なんなんですか!そっちで勝手に喧嘩してるんだったら、僕たちを逃がしてくれてもいいでしょう?」
「それはそれ、これはこれっつーな。俺っちの話はまだ終わってないっての。それで逃がすわけないだろ?俺っちの魔法は基本全部あのピンク髪に消されちまう。姉貴頼むわ」
「はぁ…。仕方ないです。ここはフレアの矛になってあげましょう。ルビル、力を貸しなさい。」
「ん、了解」
『月』が『悪魔』と協力する様相を見せる。まずい、合体技か??
「「紅い月!!!」」
「!!」
『月』と『悪魔』が同時に技名を唱える。すると、目の前に幻想の紅く染まった月が現れる。その月はとても眩しい赤色の光を放つ。
「ま、眩しい!」
前が見えない。というより、目を開けていられない。思わず目をつぶってしまうが…みんなは大丈夫かな。
目をつぶってから十数秒立つと、光が弱まったことが閉じた瞼越しに分かったので、目を開ける。
「え……」
目を開けた瞬間視界に入ってきたのは、全員───私以外の全員が、沙那、葵ちゃん、たまちゃん、…白石会長に姫野先生、他のクラスメイトまで全員が倒れている姿だった。
「み、みんな!」
私は思わずみんなの元へ駆け寄る。息は…ある。どうやら死んでは居ないみたいだけど、呼吸が悪い。また、2日前の沙那のように、何かしらの幻覚を見せられているのかもしれない。
「沙那!姫野先生起きて!」
ま、まずい。今意識があるのがまさかの魔法が使えない私一人だけだなんて、せめて姫野先生や沙那は起きてもらわないと、私一人じゃ流石にあいつらになんて立ち向かえない!
「ルビル…どういうことでしょう」
「ん、ルナにも分からないか。おかしいね」
「「なんであれには効いてないんだ?」」




