2章VI (sideA) 『実験』
「とりあえず皆さんにはマジックリングをお配りします。好きな色のやつをこっから取っていってくださいね」
先生が用意した箱の中には様々な色のマジックリングが入っていた。何色にしようかなぁ…ピンクも可愛いし、緑系もクールでいいよね〜。
「マジックリング、起動!」
「え!?沙那?」
後ろから沙那がマジックリングを起動させる声がしたので、驚いて振り返る。
見てみると、もう沙那は眩いほどの光を放って変身バンクに入っていた。ベージュ色の髪は伸び、カールがかかっていたような部分が更にうねってとぐろを巻いたような姿へとなる。服は光を放って姿を変え、淡い青色の装いで至る所にひらひらがくっついている。
「ん、ミニスカはちょっとまだ寒いかもしれない。仕方ないか」
「行動に移すのが速すぎるにゃ…」
「浦川沙那、その突発的な行動が昨日の僕たちを苦しめたのわかってるのか…?」
葵ちゃんとたまちゃんが苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見てくる。でも、そんなことは露知らずといった感じで沙那はもう魔法の『強化』を実践してみようと意気込んでいる。
「うーん?なんかあまり『強化』された感じがしないなぁ。先生みたいな範囲拡大みたいな線は、私はもう全透過があるから違いそうだし…」
「浦川さんは流石、好奇心旺盛ですね。ですが、今回の合宿の目的はお忘れですか?私はちゃんと、マジックリングを使いこなすようにするとお伝えしたはずです」
「そうか…この魔法グッズは使いこなすのに時間を要するわけですね。私に使いこなせるかなぁ。とりあえず変身してみよう」
魔法が使えない人間に魔法グッズが果たして扱えるのかどうか、甚だ疑問ではあるけど、とりあえず左腕にリングをはめてみる。私が選んだのは黄色!。そしてリングに向かって全神経を集中させて……
「マジックリング、起動!!!」
精一杯叫んでみる。これで私の体も光を放って…
「あすみっち…なんも起きてないにゃんよ」
「え、嘘?ほんとに!?」
私の体をくまなく見てみるも、何も変化した様子はない。ここに来た時と同じ服のままだ。なんでぇ…。
「やはり七瀬あすみは魔法が使えないから使え……え?」
「葵ちゃん、どうかした?」
「…………………」
葵ちゃんが私のことバカにしようとしてたっぽいけど、急に言葉が詰まって無言になる。どうしたんだろう。
「七瀬あすみ…今君は何を考えているんだ…?」
「え?何を考えてるかって言われると難しいんだけど、強いて言うならマジックリング使えないのガッカリ〜とか、合宿やってけるかなぁ…とか?」
「おかしい、そんな声は聞こえない…。何だこの音は…」
「葵っちどうかしたのかにゃ?まさか『心読』に不調でもある感じなのかにゃ?」
葵ちゃんが困惑の様子を隠せずにいる。
「いや、なんでもない。ただ、七瀬あすみの声が聞こえなくなって…それで知らない、ここには居ない誰かの声が一瞬聞こえたんだ。ノイズみたいで内容は分からなかったけど…」
ザブーン
「なるほどにゃん。それで驚いたにゃんね」
ジャバジャバ
「もしかしたら、マジックリングの副作用的なものかもしれませんね。如月さんの魔法の『心読』は相手依存の能力。マジックリングを適用させた人間の心が読みにくくなるとかでしょうか。七瀬さんはマジックリングを使えてなさそうですけど」
ピチャピチャ
「余計なお世話です先生。……………で、沙那はさっきから何やってるの!!」
「え、実験」
沙那がさっきから私たちが会話している最中に、私たちの体を『透過』させて通過するものだから、話に集中が出来ない。文字通り目障りだ。
「私の魔法の『強化』のされ方が分かってない。実験して確かめないと」
「それも分かるんだけどさぁ…。ちょっとあっちの海の方で実験してなよ…」
「分かった。人に対する実験は大まか済んだし、自然物を対象にしてみる」
沙那がトボトボと海岸へ歩いていった。なんか今度は海へ潜り始めたぞ…それは『透過』も何も無いでしょ…。
「えっと…何の話してたんだっけ…」
「あすみっちのマジックリングが使えない話と、葵っちの『心読』がバグった話にゃん」
「そうだった。それで…マジックリングが起動しない件なんですが…。私これどうしたらいいでしょうか先生」
恐る恐る先生の方を向く。これでマジックリングが使えるようになるまで帰れません。とか言われたらちょっと苦しい戦いになってしまう。
「そうですね…。やっぱり魔法が使えないとマジックリングも使えないんですか…。さすがに例外処理をしましょうか。本来ならこれを使いこなせないとこの島からは帰さない予定だったんですが、七瀬さんは良いことにしましょう。合宿中は皆さんのサポートに回ってください」
「やったぁぁぁ!!」
一生この無人島で過ごす未来は避けられたらしい。ナイス神回避!。
「先生、少しそれは公平感に欠けませんか?そもそもなんで七瀬あすみの様な魔法の使えない人がこの推薦クラスに?」
「ちょ!葵ちゃん!言い過ぎ言い過ぎ」
葵ちゃんのド正論パンチが私の胸に突き刺さる。いや確かになんで私も推薦クラスに入れたのか知らないけどさぁ。
「うーん。詳しくは説明しないけど、この推薦クラスに入れるかどうかを決めたのは私なんですよ。なので、七瀬さんを入れた私が責任を取るべきですから、こういう処置にさせてください」
「にゃ?あすみっちを推薦クラスに合格させたのは小鳥遊先生だったのかにゃ?」
それは初耳情報だ。まさか、目の前に私を推薦クラスに合格させてくれた張本人がいるなんて。一体なんでなんだろう。
「先生…、私はなんで合格したんですか?」
「うーん。それはあんまり言うべきじゃ…」
「早乙女紗夜、ですか」
「え……?」
葵ちゃんが小鳥遊先生に「早乙女紗夜」という名前を含んだ疑問を呈し、その言葉に驚いたのか、小鳥遊先生は動きが止まる。
「『心読』…ですか。さすが如月さんの前で隠し事は出来ませんね」
「早乙女紗夜という名前。昨日の姫野先生の心の中にも出てきました。一体なんなんですか?魔法が使えないとは聞きましたが」
早乙女紗夜。姫野先生によれば、私と同じ魔法が使えなかった人物のようだ。そのせいで昨日私は酷い目にあったんだけれど。
「そうですね…。心が読まれてしまうのであればいっそ話してしまいましょうか。…姫野さんが首から下げているネックレスを覚えていますか?」
「あ、あの2つの指輪?みたいなのがくっついてるやつですよね。ずっと邪魔じゃないのかなぁって思いながら見てました」
「あの指輪はですね。紗夜さん、そして姫野さんのペアリングだったんです」
「「え?」」「にゃ?」
姫野先生のネックレスに関する新たな情報が出てきて思わず声を上げてしまう。ペアリング…?っていうのはお揃いのアクセサリーってことだよね?
「にゃるほど、姫野先生とその紗夜っちって人は仲が良かったにゃんね」
「その紗夜っちって呼び方、姫野さんの前では絶対にしない方がいいですよ。殺されてもおかしくないです」
「にゃ!?」
小鳥遊先生が鋭い言葉でたまちゃんを制止する。紗夜っちって呼び方がまずいのか…。
「そして仲が良かったことについては正しいです。しかし、普通の親友とかそういうレベルではありません。彼女たちは恋愛的に結ばれていました」
「「!?」」
「ほ、本当ですか?恋愛的にっていうと、あれは婚約指輪のようなものなんですか…?」
「それに近いものでしょう。私は姫野さんやいろんな方と一緒に昔、遊園地に行ったのですが、どうやらそこで付き合い始めたようです。キスも済ませたとか」
「き、キスも!?」
き、キスってち、ちゅうだよね?え、嘘!?あの「私は人間じゃない!」みたいなこと言ってた先生がそんな色恋沙汰を持ってたの!??
「そして、その翌日です。紗夜さんは、亡くなりました」
「っ!!」
「そっか…それであんな…」
「それからについては皆さんの知っている姫野さんを想像していただければ分かるでしょう。彼女は完全に心を閉ざし、そして変わってしまった」
姫野先生にそんな過去があったんだ…。大切な人を亡くすって…。昨日の姫野先生が言っていた、魔法の過信、大切なものをなくす…と言った言葉が繋がる。
「これが早乙女紗夜という人物と姫野さんとの関係性についての全て。とはいえ、第三者から見たものだから、当人達にはもっと深い事情があるのかもしれないけどね」
「ありがとうございます…。姫野先生の見方が僕の中でちょっと変わった気がします」
「それは良かったです。まぁ初日からあんな感じで生徒に対して被害与えてたら、頭のおかしい人だと思いますよね。実際頭はおかしいんですけど」
うん。頭はおかしいと思う。でもそれは言っちゃなんだけど沙那も似たようなもんだしなぁ…。と思い、沙那の方を見ると、なんかでかいものを背負いながらこっちへ向かってくるのが見えた。
「沙那、そのでかい背中に背負ってるの何…?」
なんか私にはどう見ても人型にしか見えないんだけど…。まさか人を見つけた…なんてこと。
「なんか、砂浜で実験してたら、この島に流れ着いてる人が居たから運んでみた」
「あ、あれ!これは生徒会長では無いですか?」
「ほ、本当にゃ!」
え!?生徒会長??本当に?
「七瀬あすみは寝ぼけてたから覚えてないみたいだけど、入学式の時に挨拶してた顔ですよ。間違いない」
「な、失礼な!で、でもなんで生徒会長がこんな所に…」
「ん、あれ…?ここは?」
生徒会長が目を覚まして辺りを見回した。無人島だもんそりゃビックリするよね。
「こ、ここは無人島で、1年の推薦クラスの私たちは連れてこられてるわけですけど…なんで生徒会長が…」
「ん〜、なんか朝廊下を歩いてたら、君たちのクラスが急に光って…それで巻き込まれたのか分からないけど、気づいたら海の上って感じで…」
「え、えぇ!?そ、それはごめんなさい。私の『瞬間移動』が上手く制御できてなかったことに起因してますよね…」
「ははーん。先生もまだ使いたてなんですね」
「うん、でもこの沙那ちゃん?って子が助けてくれたから良かったよ。本当ラッキーだね」
いや、ラッキーなのか…?そもそもここに連れてこられてる時点でアンラッキーな気もするけど…。
「本当に良かったです…。それじゃあ白石さんは学校に戻りますか…」
「え?なんでよー?」
「いや、その3年生は普通に授業とかもありますし…」
「その、みんなが着けてる変な魔法グッズ。私も使ってみたいな〜、この合宿私もまーぜて?」
生徒会長がまさかの発言、魔法グッズ目当てで合宿に参加したいらしい。
「え!?会長?」
「うーん。この魔法グッズは一応国家機密ってことになってはいるんですが…」
「ねぇ〜いいじゃないですか〜」
「まぁ、私の不手際のこともありますし、今回だけは特例ってことにしましょう」
「いいのかにゃ!?」
お、OK出ちゃったよ…。まさか生徒会長が参加するとは…。そういえば生徒会長の魔法ってなんなんだろう。
「あ、あの。すみません」
「ん?どしたー?」
「生徒会長さんって魔法はどんな魔法を使えるんですか?」
「あ〜、みんな知らないよね〜。私の魔法は『幸運』。世界の全ての事象が私にとってラッキーになるように運命づけられる魔法だよ〜」
「……え?」
今なんていった?この人。世界の全ての運命が思い通りみたいなこと言ってない…?
「ち、チート過ぎるにゃ…なんにゃそれ…」
「世界が全て思い通りですか…僕には想像つかない規模の魔法ですが…」
確かに想像がつかない…。でも、こんな強い魔法があるって知っちゃうと、多分あの魔法バカは…。
「会長!」
「はい、どうしたかな?沙那ちゃん」
「私と、戦ってください」
あちゃ〜。まぁそうなるよね〜。沙那さんの宣戦布告ですよ。
「これまた唐突だね〜?どうしたのさいきなり」
「会長の魔法、かなり強い魔法とお見受けしました。私は、もっと強い魔法少女になりたいんです。そのために、たくさん戦闘の経験値を積んでおきたくて…」
「なるほどね〜。いいよ」
そう言って会長が左手を頭上高く上げた瞬間である。私たちの周りを急激な突風が襲った。
「きゃあ!!髪が!」
「な、なんにゃ!!」
突風に驚き、髪を押さえようと私が腕をあげた瞬間である。風は私の腕にハマったものの、その効果を発揮させていない故に腕に固定されてなかったマジックリングを私の体から外し、宙に浮かせた。それが丁度空を飛んでいた鳥にあたって反射し、再びこちらに向かって落ちてくる。
「え、嘘…そんな偶然あるわけ…」
その落ちてきたマジックリングは偶然天に掲げられた会長の腕へ一切のブレも許さずホールインワンでハマっていった。
「ふふ、これでマジックリングも使えるね。ラッキーだ。さぁ、始めようか。沙那ちゃん。バトルスタートだよ!」




