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「おーい、急げ!バスが来たぞー!!」

賢治の声が聞こえる。

皆が急いで荷物を担いで階下へと降りて行く中、敦も自分の荷物を肩にかけて廊下へと出て来た。

「おい、敦、具合はどうだ?」

健吾が、声をかけて来た。敦は、頷いて微笑んだ。

「ああ、もうだいぶいいんだ。昨日は面倒を掛けたな。なんか記憶が混乱していたみたいで。」

健吾は、ホッとしたように首を振ると敦の肩を叩いた。

「いいんだ。」と、少し驚いたような顔をした。「あれ、お前こんなに筋肉質だったか?」

健吾は、肩に置いた手で戸惑うようにぽんぽんと叩く。敦は、笑った。

「おいおい、オレだってそんなヤワじゃないぞ?お前も鍛えてるらしいがオレだってそうだ。服で隠れてみえなかっただけだ。」

健吾は、嬉しそうに目を輝かせた。

「おお、お前もか!なあお勧めのジムはあるか?うまいことつけてるなあ、どのプロテイン飲んでるんだ?この硬い感じ、結構実用的な所ばかりつけてるようだが、建設現場でバイトでもしてるみたいな感じじゃないか。あ、おい、敦!」

敦は、やびへびだった、と急いで階下へと足を進める。健吾が筋肉バカでその関連の仲間を探しているのは知っているのだ。

だが、自分のこの筋肉は、自分で努力してつけたものではなかった。

昨日の細胞の激変で、のたうち回った結果、目が覚めたらこうなっていただけなのだ。

腕には、光に研究者の一人だと紹介された要という若い男からもらった腕時計を着けている。一見普通の時計だが、これには数回分の薬品が仕込まれていて、もし敦が人前で変化しそうになった時は、横のネジを引いて押し込めば自動的に投与されるようになっていた。

『そっちの処理が済んだら、迎えに行くから連絡をくれ』

光は、最後にそう言っていた。

処理とは、光達が下界と呼ぶ、自分達が住んでいる一般社会のことだった。

敦は、どうするかと聞かれて、通いで研究所へ行くのではなく、研究所に住み込みで雇われる形で入ることにしたのだ。

仕事も辞めて、住んでいる場所も引き払わなければならない。そういった処理のことを言っているのだ。

それまでは、一見他のヒトと変わらないふりをして、普通に生活することになる。急によく聴こえるようになった耳と、やたらと鋭敏な嗅覚には最初慣れなかったが、それでも落ち着いて来た。

「みんな乗ってるかー?」バスの前の方で、孝浩が叫んでいる。「出発するぞー」

バスの、扉が閉まった。

敦は、五日間を過ごした建物を振り返った。

「いい所だったねー。また来たい。」

どこかから、女子の声が聞こえて来る。

だが、敦は皆がもう二度とここへは来られないことを知っていた。もしかしたら、自分はまた来るのかもしれない。光のように、他の人狼仲間に道を示すために…。

大きな森の中へと飲まれるようにその姿を消した建物の方向を、敦はずっと見つめていたのだった。


帰って行くマイクロバスを隠し窓から見て、光は息をついた。終わった…。いや、これからか…?

後ろから、大きなため息が聞こえた。

「なんだ、ヘリを待たせて私を引き留めたと思ったら、あの男を人狼になど。良かったのか?死んだ方がいいというヤツも居ると聞いているがね。こちらとしては検体が増えることは願ったりだったが、今回は増やすつもりはなかったのだがな。綺麗に安定しているし、幸運だった。」

そのすらりとした姿は、ジョンだった。要が、後ろから言った。

「オレも助かりますよ。優秀な検体になりそうな反応だったじゃないですか。安定したら早速新しい細菌のサンプルを取らせてもらおう。」

光は、顔をしかめて要を見た。

「要、あまり最初から乱暴に扱わないでくれ。まだ慣れないんだ、細胞が暴走したらどうする。」

要は、片眉を上げた。

「彰さんが手ずから人狼にしたのに?光、それはない。光だって彰さんの部下が人狼にしたが、安定したのは結構早かったと聞いてるぞ。彰さんがDNAサンプルを採って調合したのに不具合なんか出るはずないじゃないか。君だってそれを望んだから彰さんに帰るのを待ってくれって頼んだんじゃないのか?」

光は、グッと黙った。人狼にするだけなら、この要にだって出来る。だが、完璧を望むなら、その薬を開発した本人であるジョンがした方が、安全で確実なのは知っていたのだ。

「まあ待て。いいじゃないか、光は今度の件では奔走してくれたんだ。面倒なゲームにも参加してな。だからこそ、私も光の頼みなら聞いてやろうとわざわざ残っていたのだからな。とにかくは、新しいスタッフが増えるのだ。喜ばしいことだよ。」と、伸びをした。「では、いくら何でももう帰るぞ。ヘリを雑木林に隠してあるんだろう。引き上げだ。」

ジョンは、さっさと先に下へと降りて行く。要もそれに続き、光も、敦が来る前に受け入れの準備をしっかりと整えておこうと、その背を追ったのだった。


そうして、山奥のその場所からヘリが飛び立ったが、こんな場所でのことなので、誰もそれを知ることは無かった。




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人狼: 光、利典、敦

狂人 :薫

占い師:学、梨奈

霊能者:孝浩

狩人:健吾

共有者:賢治、貴子

村人:典子、佳代子、真理、留美

妖狐:美津子、美奈


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