黒き沼と白き塔
「いい加減に諦めたら?」
寧庵によって倒された、死屍累々の中、
それでもその女は妖しく笑っていた。
「ま、まだ、倒れはせぬ!」
そう言う寧庵ではあるが、法衣は所々切り裂かれ、体も傷だらけ、
太刀を支えに立つ姿はあまりにも痛々しい、
けれど、どうしても、
「ここを通す訳にはいかぬ!!」
「あっ、そう」
美夜はさして興味も無さげに手を振る
それを合図に先程まで倒れていた錯乱者達が立ち上がる。
(最早これまでか)
「煙天 縛牢」
今にも襲いかかろうとしていた錯乱者達に煙がまとわりつくと、瞬く間に煙の牢屋が完成する。
「寧庵さん!遅れてごめん!」
煙の後ろから、錯乱者達を飛び越え寧庵の近くへ着地する。
「春人殿、拙僧より、夜魅殿を!」
簡潔に今までの出来事を話すと、黒川の元へと春人を急かす、
「いや、黒川さんは心配だけどね、
ここで彼女を捕まえないと、もっと傷付く人が増える」
春人も本当は黒川の元へ駆けつけたい、
しかし、突然の乱入者にも笑顔を崩さない美夜を野放しにする訳にもいかない。
「誰だか知らないけど、私達の問題に首を突っ込んでこないでよ?」
「俺の名前は立花 春人
ここまで周りを巻き込んでおいて、今更私達の問題って訳にはいかないでしょ?」
そう言いながら、向かってくる錯乱者達を無力化していく。
「立花 春人…
貴方が、千手の勇者」
美夜は僅かに笑顔を崩す、
「どこでそれを…」
こちらに帰ってきてからその名を口にした事は無かったはず、
「例えそれでも、私のやる事は何も変わらない。」
「私のおねぇちゃんを返して。」
そこまで、言い終わると美夜は何やら唱えだす、
すると周りにいた錯乱者達が次々と倒れていく。
その体から鈍く光る球体が飛び出すと、美夜の体の中へと吸い込まれていく。
更に街のあちこちからも、同じように美夜の体へ吸い込まれていく。
それが終わると、目に見えた変化は無いものの明らかに纏う雰囲気が変わる、
暗く、深い底なし沼のような空気感
「今、迎えに行くよおねぇちゃん。」
「これでも、殺しちゃダメなんだもんね、
でも少し本気出さないと、俺が死んじゃうよ。」
軽口を叩くもその表情に余裕は無い、
「常闇の法・誘いの暗夜」
黒。
春人の目の前を真っ黒に染める黒の波動、
ゆっくりと侵食するように迫ってくる
「空間魔法・空を喰む猛き雲」
白。
空をも喰らう大量の白い煙。
それは空中に浮かぶ多数の白い箱から溢れ出ていた。
「俺のはそれで終わりじゃないよ、
大煙天・雲海の大監獄」
ゆっくりと迫る黒い波動ごと美夜を囲むように煙が渦を巻くと、次の瞬間、天を貫くが如く、
煙で出来た巨大な塔が立ち上がる、
「本来はこいつを崩して圧死させるまででワンセットなんだけどね」
春人は少し疲れた様子で寧庵に話しかける
「拙僧達のためにかたじけない。」
寧庵は一つ春人に礼をいうといてもたってもいられぬ様子で、黒川の元へと向かう、
春人は何も言わず寧庵を見送ると、
煙で出来た塔へと目を向ける
「いやぁ、捕まえるのって本当に難しいね、」
春人が言うやいなや、塔の下からじわじわと黒が侵食していく、そして、天を貫く程にそびえ立っていた塔は見るも無惨に崩れ落ちた、
「私の、
私の愛を、
邪魔するなぁぁぁぁぁぁ!!!!」
空間魔法・空を喰む猛き雲
煙天を使用するのに必要な煙をあらかじめボックスの中に閉じ込めておき使用する、
時間をかけず高威力の煙天を発動できるが、
ボックスを大量に出す魔力が必要で、勿論使用した煙は無くなるため、次に使うには大量の煙を詰め直す必要があり、使いどころの難しい、春人の切り札の一つ




