巨大なるアレVSテイル
下水道を探索するトラスト一行。
先頭に立つ剣士が剣を構えながら背後に立つ男女に話しかける。
「やけに静かだな…みんな、油断するなよ。」
神官の青年が応じる。
「えぇ、もちろん油断などしていません。」
魔法使いの少女も口を開く。
「ここまで静かだと、逆に怖いですね…」
一行は臨戦態勢で下水道の奥へと進む。
剣士が剣を構え、神官は聖杖を構える。
その後ろで、魔法使いがいつでも攻撃魔法を放てるように準備している。
少し歩いて、曲がり角へ差し掛かったその時。
「やぁ新米ちゃんズ!」
暗闇から突然声をかけられ、反射的に剣士が声の主に剣を叩き込む。
それを見た神官は敵の襲来を察知し、支援魔法で仲間達の能力を底上げする。
魔法使いが攻撃魔法を放つと、極太の雷が一直線に声の主を襲う。
声の主はそのまま下水へと落下する。
魔法使いが松明の魔法を強めて周囲を照らすと、そこに倒れていたのは見覚えのある男だった。
声の主はゆっくり立ち上がる。
「ふぅ…いいチームワークだ、確か…トラストだっけ?」
剣士が驚く。
「あなたは…!」
汚水にまみれた男は水から上がりトラストの前に立つ。
「覚えてた?そう、オレの名はミスター出来損ない、またの名をテイル、この国じゃ有名人だぜ。」
一行が反応に困っていると、暗闇からもう一人の人物が現れる。
「そして今日はもう一人ゲストを呼んでおります!クレア・アステイルちゃんです!」
暗闇から姿を現したクレアを目にし、一行は驚く。
クレアは上級魔法使いとして有名だが、彼らが驚く理由は他にあった。
こんな危険な場所にわざわざ身体が不自由な女性を連れてくるテイルのいい加減さに、全員驚いていたのだ。
「何考えてるんですか!ここは低級とはいえ魔物が巣食う危険な場所なんですよ!?」
「おぉ…神よ…やはり彼は気が触れている…」
「そんな…ありえない…正気の沙汰じゃない…」
テイルはクレアの方を見て肩を落とす。
「大体予想通りの反応だな。」
手を叩き、その場を鎮める。
「はいはい!皆さん落ち着いて、彼女はリハビリの途中だ。下水道にだってやってくるさ、日課だし。」
「何をいい加減なことを…彼女はここに居るべきじゃない…」
神官がクレアへと近づく。
その瞬間、空気を切り裂くような殺気が辺りに満ちる。
「おっと、それ以上近づくなよ。」
いつの間にか、神官の喉元にナイフが押し付けられていた。
その場の全員が臨戦態勢をとる。
「この子のパパからの依頼でね、悪い蟲が近づかないようにって頼まれてんだ。」
一触即発の空気の中、クレアに脇腹を殴られる。
気の抜けた声を上げながらナイフを下水に落としてしまう。
「さっき買った掘り出し物だぞ!何すんだ!」
いい加減にしろ、と殺意を込めた瞳で睨んでくるクレア。
その眼を見て直ぐにテイルは速攻怯むが、それを悟らせない為に必死に虚勢を張る。
「オレだってこんな所に長居するつもりはないよ、ただ今日はお礼をしに来ただけだ。」
神官は首を抑えながらテイルから距離を取り、彼を睨みつける。
「これが礼ですか、どうやら噂は本当だったようですね…」
剣士が神官を宥める。
「ウルヘル、失礼な事を言うな。」
「止めないでくださいルーシュ!失礼なのはあっちでしょう!」
「まぁまぁ、二人とも…落ち着いてください…」
一行はそのまま言い合いを始める。
その様子を見ていたテイルは、どこか懐かしさを感じてしまい自然に口角があがる。
それを見た神官は更に激昂する。
「見てください!あの人こっちを見て笑ってますよ!」
「あぁ、ごめん、なんか楽しそうだなって…」
それを聞いた神官は煽りだと感じて物凄い形相でテイルを睨む。
礼も言ったことだし、その場を去ろうとするテイル。
クレアを連れていこうと近寄ると、彼女の表情を見て驚愕する。
クレアはどこか切なそうな笑顔を浮かべながら彼らをじっと見ていた。
きっと彼女も過去の仲間達を連想し、懐かしんでいるのだろう。
その瞳には涙すら浮かんでいた。
帰ろうとしていたテイルだったが、トラストの方へと向き直る。
「やっぱ考えたんだけど、こんな場所で出来損ないと足の無い女の子二人ってのは危険すぎる。」
「依頼手伝うから、一緒に行こう。」
突然の申し出に困惑するトラスト一行。
神官がまた文句を言おうとするが、剣士がそれを静止する。
「確かにあなた方二人では危険ですね、わかりました。一緒に行動しましょう。」
依頼を手伝う代わりに身の安全を保証してもらうという体で、トラストと一緒に行動することになった二人。
歩きながら話す。
「自己紹介がまだでしたね、俺の名前はルーシュ、見ての通り剣士で、トラストのリーダーをやらせてもらってます。」
剣士が自己紹介をするが、神官と魔法使いはあまり気が進まないようだ。
「こっちは神官のウルヘル、支援魔法と回復魔法の使い手です。」
ウルヘルは不機嫌そうに会釈する。
「そして彼女は魔法使いのアリス、電気属性の魔法を得意とします。」
「よ、よろしくお願いします…」
アリスは挨拶こそするが絶対にテイルの目を見ない。
テイルは車椅子を押しながら自慢げに話す。
「電気魔法か、クレアと一緒だ。ところで雷撃喰らったことある?」
アリスに話しかけてるつもりが、返事が返ってこない。
気にせず話を続ける。
「オレも直接喰らったワケじゃないんだけど、知り合いがモロ喰らってるのを見たんだ。上級魔法使い様の雷撃を受けたワケなんだけど、あれがもう酷いのなんのって…」
くだらない話をしていると、目の前から嫌な音が聞こえてくる。
「静かに、何かいる。」
ルーシュが剣を抜き、ゆっくりと音の方に近づく。
「これは…!」
一同は固唾を飲む。
そこにいたのは【クリムゾン・ローチ】という超巨大ゴキブリだった。
それも通常より遥かに大きい、平均男性二人分ほどの全長を持った個体。
そして音の正体は、巨大ゴキブリがネズミの魔物を捕食していた咀嚼音だった。
「うわぁぁぁあ!」
その異様な光景に、ルーシュは思わず剣を振り回し、それに反応するように巨大ゴキブリが一行へと襲いかかる。
ルーシュがソレに対して剣を振り下ろすと、剣と外殻が接触し火花が散る。
「なんて硬度だ…!」
巨大ゴキブリはルーシュを体当たりで吹き飛ばし、そのまま減速せずにアリス達の方へと向かう。
ルーシュは壁に激突し、動けなくなる。
「放電ッ!」
アリスが攻撃魔法を放つが、この蟲の装甲には魔法を遮断する効果があるようで、ダメージは皆無。
そのままの勢いで突っ込んでくる。
「そ、そんな、嫌…!」
膝を着くアリス。
ウルヘルは前衛となる者の攻撃がことごとく無効化され、何も出来ずにいた。
その時、テイルが一歩前に出る。
その表情は、いつもの軽薄なものではなく、鬼気迫るものがあった。
「クレアを守ってろ。」
ウルヘルが命令を理解するより前に、巨大ゴキブリに向かって歩き出す。
拳を構える。
「大掃除の時間だ。」
テイルは固有能力《超加速》を発動させる。
(この固有能力は消耗が激しい…なら、短期決戦!)
巨大ゴキブリとはまだ距離があるにも関わらず、拳を放つ。
その打撃は空気を砕き、目の前の敵を粉砕する──────
はずだった。
「ッ──────!!」
激痛がテイルを襲う。
放った拳に目をやると、それは歪な形になっていた。
(オレの腕が速度に耐えられなかった…!ヤバい…!)
巨大ゴキブリが鼻先まで迫る。
誰もが絶体絶命だと思ったその時、高速で飛来した何かが巨大ゴキブリに突き刺さる。
それは、ルーシュのロングソードだった。
ウルヘルが驚きの声をあげる。
「貫通した…!なぜ!?」
テイルが目を凝らすと、剣には切れ味を上昇させる魔法と、電気属性の効果を付与する魔法が付与されていた。
剣が発射されたであろう地点に目をやると、そこには苦しそうな顔をしたクレアがいた。
「クレア…!」
彼女が剣に魔法を込め、放ってくれたのだ。
このチャンスを無駄にはできない。
巨大ゴキブリに飛び乗り、腹に刺さった剣を抜く、そしてそれを再び突き刺す。
テイルはその動作をひたすら繰り返す。
「痛みを感じないのか?怪物め…!」
ウルヘルが呟いた。
剣を握っている者にも電流が流れるにも関わらず、テイルはその苦痛を無視しているのだ。
そのうち怪物二匹の身体から炎が上がり、その一方が動きを止める。
テイルは巨大ゴキブリの死体から飛び降る。
死体から溢れ出たネバネバした体液を踏み、不快そうな顔をする。
「だから虫は嫌いなんだよ。」




