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泣き虫な俺たちは  作者: 陽花紫


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5/5

二人の男(完)

第三者視点

 最初に違和感を覚えたのは、晴れやかな学内には似つかわしくない、ある、泣き声だった。


 昼休みの、誰もいないはずの講義棟の非常階段からそれは聞こえてきたんだ。

 不審に思って近づいてみれば、嗚咽が二重に重なって響いていた。


 そこで、俺の足は止まってしまう。

 泣いているのは、一人じゃなかった。


 最初は、喧嘩でもしているのかと思っていた。

 でも耳を澄ますほどに、そこに怒りの声はなく、代わりにあるのは謝罪のようなものばかり。


「ごめん」

「置いていかないで」

「疑わないで」

「嫌いにならないで」


 どちらがどちらの声なのか、もはや区別もつかないほど。

 男でも女でもないような、小さく消え入りそうなほどに弱々しい声だった。


 悪いとは思いながらも、好奇心に勝つことができなくて俺は階段をゆっくりと上がっていった。


 やっとその声を間近に感じた時、俺は再び足を止める。


 そこには、床に座り込んで、互いに縋り合う男同士がいた。

 顔は涙でぐちゃぐちゃで、その呼吸もうまく整っていないみたいだった。


 まるで、世界の終わりが来たみたいな様子だった。


 ——やばいカップルだな。


 素直に、そう思った。


 それでもおかしなことに、その翌日から、二人がやけに目につくようになっていた。

 二人はいつも、一緒だった。

 講義も、食事も、帰り道も。

 それだけなら、仲のいい恋人同士で済むだろう。


 でも問題は、その距離だった。

 片方がトイレに立てば、もう片方が不安そうに目で追っている。

 片方が笑えば、もう片方が少し遅れて同じような表情になる。


 ある日、片方が友人と少し長く話しただけで、もう片方の顔色が変わっていた。

 笑顔が固まり、視線が落ちる。

 心なしか呼吸が浅くなったかのように思えば、その変化に気づいたもう一人が、すぐさま謝っていた。


「ごめん」


 それは、理由のない謝罪だった。


 そして、二人はその場を離れていく。

 後に残るのは、気まずさだけだった。


 周囲は、少しずつ二人と距離を取るようになっていた。

 誰かと話をしようものなら、決まって、どちらかが必ず不安定な状態になっていたから。


 あの二人に巻き込まれると、まるで感情の渦に飲み込まれるように周囲の人も暗い顔をしていた。


 二人の異常性がはっきりしたのは、ある雨の日のことだった。

 片方が、体調を崩して休んでいた。

 たったそれだけのことであるというのに、もう片方は講義中、ずっと机に突っ伏していた。

 涙をこらえているのが、遠目でもわかった。


 休み時間、スマホを握りしめて、何度もメッセージを送っていた。

 返信が来ないたびに、顔が歪む。

 そしてついに、静かに講義を抜け出した。


 翌日、二人揃って欠席していた。


 理由を聞けば、片方が泣き止まなくなったから、もう片方も外に出られなかったという。

 そう、サークルの仲間だという男が大きな声で笑っていた。


「なんだよそれ、やばいな」

「共倒れか?」

「やばすぎるだろ」


***


 ある日、遠くから見た二人は、手を繋いで歩いていた。

 どちらも、その目が赤かった。

 恐らく、また泣いていたのだろう。

 理由は、どうせ些細なことだ。

 それでも、その指は強く絡んでいた。

 離れるという選択肢が、まるで初めから存在しないかのように。

 その姿を見て、はっきりと思った。

 あの二人は、救済と破滅とが、同時進行しているのだと。

 だから、異常なのだ。


 そしてきっと、本人たちがそれを自覚する日はないだろう。


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