8杯目
『カランコロン……』
「いらっしゃい」
「いらっしゃいませ」
「こんばんはマスター。ハナちゃん」
「え……と、こんばんは……勇者……様?」
この優しく微笑みながら挨拶していただいた、勇者様によく似たお方は誰だろう?
「テ、テンチョー。このお客様は誰でしょう?」
「あのクズによく似ていますが、昼過ぎからではなく夜に店にいらっしゃるとは。変ですね」
「やだなマスター。昼間は働いてるから来れないのは当然じゃないですか」
勇者様のような方から衝撃的な一言が!
「はわわわわ。ついにですよ、ようやくですよ、待ちに待ったですよテンチョー!」
「耳を疑いますね。お祝いをするべきでしょうか?」
「どうしましょうテンチョー。嬉しくて涙が出てきました私」
「私は目眩と吐き気もしますよハナさん。ついに彼も働いていただけましたか、たまっていた店のツケを返していただけるかもしれませんね」
「ハハハ……面白いことを言いますね二人とも」
怒らない?
いつもなら怖い顔で怒鳴る勇者様がこの笑顔。やっぱり今日の勇者様は変ですね。
「あの勇者様。熱でもあるのではないですか? 病院へ行ってお医者様にみてもらった方が……」
「……いや、実は僕は」
『カランコロン……』
「いや~勝った勝った大儲け! カジノで勝って今日は運がいいぜ! マスター、ハナちゃん今日はちゃんと酒を飲むぞ!」
ゆ、勇者様が……2人? カジノに行っていて今日は店に来るのが遅れたと。
じゃあこの‘まとも’な勇者様は?
「お、俺がいる? ドッペルゲンガー?」
「もしやあなたは。最近この街に現れたというものまね師の方では?」
テンチョーがまともな勇者様に話しかける。モノマネ?
「いや~ものまね師だなんて、趣味ですよ趣味」
「マジか。しかし俺にそっくりだな本当に。声まで同じだ」
「でもでも似て非なるものですよ。だってカジノに行ってた勇者様はお仕事していませんよね? 無職ですよね?」
「あったりまえだろ! 働いたらゲームオーバーだぜ!」
それでこそ勇者様! 毎日お金に困っているのに生き生きしてます。
「お恥ずかしいですね。趣味のものまねは日々自信をつけてきましたが、さすがに無職を表現するにはまだまだ力不足で」
「失礼だなお前!」
あぁ、これでこそ勇者様ですね。