7杯目
『カランコロン……』
「テンチョー。お店の周り、お掃除終わりました」
「はい。お疲れ様」
今日も平和に俺を除いて客はいない。
いつもの酒場で気分よく酒を飲んでいると、ハナちゃんが俺に1枚の色紙を見せてきた。
「見てください勇者様。踊り子のニーナさんのサインです。
先ほどばったりお会いしまして、なんとサインを頂いちゃいました」
世界的に有名なエルフの踊り子ニーナさんの……。
この娘の幸運はいつまで続くのだろうか、少しでいいから分けて欲しい。
『カランコロン……』
「いらっ…………」
俺達3人は、それはそれは驚きましたとさ。
いま来店したお客様が、とんでもない武器を両手に装備していたからだ。
右手には聖剣、左手には魔剣。
冒険者なら誰もが喉から手が出るほど欲しい代物で、国からも宝とされている宝剣クラスの武器だ。
そしてそのおば……女性の勇ましい顔立ち。驚かざるを得ない。
特に驚いていたのはマスターだった。
「あなた……私が来た理由わかるわよね?」
このおば……この人マスターの奥さんだったー!
しかも思い出したぞ。あの武器にあの姿。間違いない。
彼女は初代勇者レイア様ではありませんか!
つまりマスターと奥さん元勇者同士なのかよ!
「お、落ち着きなさいレイア。まずは冷静に……」
「ちょっとマスターなにやらかしたんの? 奥さんものスゴく怒ってますけど」
すごく動揺してるぞ。
そりゃそうだよな、初代勇者と言えば数々の偉業を成してきた人物だ。
とある国の王女だったらしい彼女だが、勇者という職業に就き片っ端からギルドの手配書のモンスターを倒し、装備は最強、使える魔法も多くて、なにより当時は美人で強くて人気者。
「懲りもせずにまた不倫をしているそうね……あなた。これで何十人目かしら?」
あぁもうこれはマスターが完全に悪い!
何十人ってなんだよ外道! よりによってこの最強の奥さんというものがありながら……。
「覚悟は出来ているわね? 今回こそは許しませんよ」
これはダメだな、奥さん本気でキレてるよ。
「まさかテンチョーが不倫していたなんて……」
「驚きだよねハナちゃん」
「……ところで勇者様。“不倫”ってなんですか?」
知らないんかい!
さてはハナちゃん恋愛したことないな、ガードが固そうだとは思っていたけどガードしかしてないんかい!
「説明するのは後日ということで、とりあえず今日はバイトあがっていいと思うよ」
「え……? でもまだお先に失礼する時間じゃありませんけど?」
「いいからいいから、俺も今日は帰るし」
『ガシッ!』
肩が重い、誰かに押さえつけられている。動けん。
「離せよ不倫マスター。俺は浮気どころか恋人もいないもんで、あんたとは違うんだよ。
寄り道せずまっすぐ家に帰るぜ……帰る家は無いがな」
「ももも、もう少しいいんじゃないかい? 一杯おごろうではないか……」
このマスターからそんなセリフを聞く日がくるとは思わなかったぜ。
だが俺は帰らせてもらう。
「ちょっと助けてもらえるかなハナちゃ……」
帰ってるー!
早いよハナちゃん今までそこにいたのに……。
「あなた待ちなさい! その新しい男と逃げようったって、そうはいかないわよ!」
「いや。彼は違うのだよレイア。私の好みではない」
「そうだよ奥さん。だいたい俺は男……お、と……こ?」
「……」
「…………」
「………………」
はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
そっちの気があるのかよマスター!




