配信者としての進歩
瀬戸からの辛辣なダメ出しを受けてから数日。悠太は、これまで漫然と浮かべていただけのドローンとの向き合い方を根本から変えていた。
「よし、設定変更。ターゲットを『ロンリータートル』に固定。俺の動きは追わなくていい。敵の挙動と罠の発動ポイントを最優先でフレームに収めてくれ」
ドローンのレンズが青く明滅し、悠太の音声を学習していく。
今までは数百万もする高級機材を壊したくないという恐怖心から、ついつい安全な高高度からの俯瞰撮影ばかりを行っていた。
だが、それは瀬戸が指摘した通り、何をしているか分からない豆粒動画でしかなかった。
悠太は機体のズーム機能をフル活用し、さらにドローンに標準装備されているステルスモードを起動した。これは機体周囲の魔素を歪ませて光学的・知覚的に姿を消す高度な機能で、高価な価格設定の理由の一つでもある。
これにより、警戒心の強い魔物の至近距離まで機体を接近させ、今まさに罠に掛からんとする瞬間の臨場感を的確に捉えることが可能になった。
さらに大きな変更点は撮影対象の優先順位だ。初期設定のAIは、どうしても「利用者(探索者)」を画面の中央に捉えようとする。
物理系のアタッカーや華やかな魔法使いならそれで正解なのだろうが、悠太のような罠使いには不向きだった。息を潜めて隠れる自分や、罠が成功して小さくガッツポーズをする自分を映したところで、動画としてのカタルシスは薄い。
「見せるべきは俺じゃなく、仕掛けた罠にかかって仕留める爽快感だよね」
タイトルやサムネイルも流行りのものを取り入れるよう指示し、撮影スタイルを敵メインに切り替えたことで、ライブ配信の同接数は相変わらず「0」ではあるものの、チャンネル登録者は八人、アーカイブ動画の再生数は目に見えて変化し始めた。
撮影した映像を視聴者が楽しめる部分だけコンパクトに編集したことで、数十回、時には百回を超える動画も現れ、孤独だったKYチャンネルにわずかな熱が宿り始めていた。
◇
今日も悠太は、第六階層の草原で新たなターゲットを物色する。
「いたな。……ドローン、先行。ステルス維持。あの岩場の影から、正面を狙え」
低空を滑るように進むドローンを見送りながら、悠太は手早く『落とし穴』を構築する。レベル4になった擬態性能は優秀で、初夏の陽光が照らす草原の凹凸に完全に溶け込んでいた。
「ギィィ!」
背後から石を投げられ激昂したロンリータートルが、重戦車のような速度で突進を開始する。
ステルスモードで待機するドローンのカメラは、迫りくる巨大な亀の表情――見開かれた赤い目、剥き出しの牙、そして捕食を確信したような獰猛な面構えをド迫力のクローズアップで捉えていた。
ズドォォン!
次の瞬間、画面の中で地面が消失した。
ロンリータートルの足が虚空を蹴り、必死の形相で穴へと飲み込まれていく。『落とし穴』は、一度落ちれば地上から中を覗き込むことも、ドローンが進入することもできない暗黒の奈落だ。
「よし、仕留めた」
穴の底で魔物が消滅する気配を感じ取り、悠太が魔石回収のため落とし穴のあった場所へと歩を進めると、地面の上には主を失った戦利品が残されていた。
「おっ、またドロップしたな」
悠太は歩み寄り、その破片を拾い上げた。それは『ロンリータートルの甲羅片』。静岡ダンジョンに来てから、すでに三つ目の戦利品だ。
この半年間、悠太は自身の成長についても熟考を重ねてきた。
そして、二つのステータスにも少しずつスキルポイントを振り分けることにしたのだ。
それは「敏捷性」と「運」。
敏捷性は、敵から距離を取る回避能力はもちろん、罠の設置から発動までの時間を稼ぐための生命線。
そして『運』は、一見地味なステータスだが、罠使いにとって重要なステータスであるとの確信があった。
罠の成功率は元より、アイテムドロップ率、ひいては敵の行動パターンにも多少の影響を与えている可能性が高いと感じていたからだ。
「運に振ったおかげか、最近目に見えてアイテムが出るようになったな。以前じゃ考えられないペースだ」
貯まってきた甲羅の破片を見つめ、悠太は満足げに頷いた。
これだけ安定して狩れるようになれば、そろそろ第六階層のフロアキーパーにも挑戦できるだろう。
「今週末は東京の実家に帰る予定だし、その時に瀬戸さんの店に寄って、これの換金と動画の報告をしよう。これなら、少しは褒めてくれるだろ」
悠太はタブレットを取り出し、今しがた撮影したばかりの動画をチェックした。
画面の中では、逃げる自分ではなく、捕食するつもりが奈落へ落ちる魔物の断末魔が、最高のアングルで映し出されていた。
初夏の富士の麓、一人の罠使いの背中にはかつてないほどの充実感が漂っていた。




