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ハズレと笑われた『罠』スキルの俺、実は超激レアな最強スキルでした  作者: シマリス


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ジャイアントウルフ

自室のベッドに座り、悠太は掌の中にある小さな石をじっと見つめていた。


如月から手渡された三十万円の命綱――帰還石。冷たく硬いその感触が、これから挑む「死」との隣り合わせの現実を嫌というほど突きつけてくる。


(初めてのボス戦)


第四階層での「お試し試験」とはわけが違う。あの時はギルドの試験官が背後に控え、最悪の事態は免れる保証があった。

だが、今回は違う。


扉の向こうには、大輝たちのような実力者パーティーすら屠りかねない、逃げ場のない命のやり取りが待っている。


自分には優秀な仲間も、一撃で戦局をひっくり返す魔法も、魔物の牙を弾き返す重厚な鎧もない。

あるのは瀬戸が作ってくれた一足のシューズと、今となっては心もとない格下のレプリカアーマー、そして地道に積み上げてきた罠スキルだけだ。


(もし、想定外の動きをされたら? もし、一発でも攻撃を食らったら……)


考えれば考えるほど、視界が狭まっていく。膝の上に乗せた拳が、情けないほど小刻みに震えていた。


「お兄ちゃん? 寒いの?」


不意に背後から声がし、悠太の肩が大きく跳ねた。


振り返ると、妹の結衣が心配そうに顔を覗き込んでいる。


「え……ああ、いや、大丈夫だよ」


「嘘だぁ。さっきから震えてるよ? 風邪ひいちゃったのかなぁ」


結衣はトコトコと歩み寄ると、自分のベッドから持ってきたであろう厚手の毛布を、悠太の肩にそっと掛けた。そして、小さな手で悠太の額に触れ、熱がないか確かめるように顔を近づける。


「少し、考え事してただけだよ。ありがとな、結衣」


妹の無垢な優しさが凍りついていた悠太の心を少しずつ溶かしていく。


自分がここで立ち止まれば、この日常も結衣の笑顔も守れない。守るべきものの存在が、恐怖を覚悟へと変えてくれた。


「もう大丈夫。ちょっと元気が出たよ」


悠太が微笑んで頭を撫でると、結衣は「本当? ならいいけど」と少しだけ安心したように部屋を出ていった。



翌日。


第五階層の最深部。そびえ立つ重厚な扉の前に、悠太は一人立っていた。


「……ふぅーっ」


長く、深い呼吸。シミュレーションは数え切れないほど繰り返した。フロアキーパー『ジャイアントウルフ』に関する資料で目を通していないものなど何一つない。


「絶対に勝つ!」


両手で自らの頬を強く叩き、気合を入れる。迷いを振り切るように、悠太はその扉を力一杯押し開いた。


静寂に包まれた広大な円形広場。

その中央にそいつはいた。


体長四メートルを超える巨躯。銀灰色の毛並みは鋼のような光沢を放ち、金色の瞳が侵入者を静かに見据えている。グレーウルフの王

『ジャイアントウルフ』


悠太は一歩踏み込むやいなや、即座に『ウッルの目』の構築を開始した。


相手はボスクラス。通常の威力で致命傷になるわけがない。悠太は迷わず、一発あたりの魔素消費を二倍の『160』に設定し、術式を編み上げていく。


(勝てない場合は帰還石を使う。でも、ただで帰るつもりはない。もし敗北するにしても、次の挑戦を必勝に変えるためのデータは全て持ち帰る)


悠太は構築を進めながら、残った魔素を使い、持っているスキルを全て広場に配置していった。


「構築――『スネア』、『落とし穴』、『バネ床』『キューブ』」


足止めの蔦、奈落への入り口、そして防御と捕獲の檻。


これで魔素量はすでに半分を失った。ジャイアントウルフは悠太を矮小な獲物と見なしているのか、威嚇するように低く唸りながらゆっくりと立ち上がる。


その動作の一つひとつが、巨大な重圧となって悠太を押し潰そうとする。だが、その悠然とした数十秒の猶予こそ、罠使いが最も欲していた時間だった。


「さあ、始めようか」


静寂が破られる。


巨狼が地鳴りのような咆哮を上げ、爆発的な加速で突進を開始した。


孤独な罠使いにとって初めての、そして本当の意味での「ボス戦」の幕が上がった。


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