必勝法
牙ネズミへの必勝法を確立した悠太は翌日から第二階層を主戦場に定めた。
だが、実際に腰を据えて戦おうとして彼は第一階層との決定的な違いに直面することになる。
閑散としていた第一階層とは異なり、第二階層の地下街には悠太と同じ十代後半から二十代前半と思われる新人探索者たちの姿が目立っていた。
制服の上から革鎧を纏った高校生やお揃いのジャージ姿でパーティーを組んでいるグループ。彼らは眩しいほどに正統派の探索者だった。
「せーのっ、ファイア・ボール!」
「よし、ここは任せろ! 亮、今のうちに突っ込め!」
賑やかな掛け声と共に魔法が火花を散らし、鋭い剣閃が牙ネズミを切り裂く。二人で仲良く弓を射る者もいれば、獲物を倒してはハイタッチを交わすパーティーもいる。そこには、命懸けの緊張感の中にもある種の活気と青春の残り香が漂っていた。
だが、悠太はその輪に入ることはできない。
(罠スキルは自分以外のすべてが対象になる)
改めて確認したスキルボードの注釈には冷酷な一文が記されていた。
悠太が仕掛ける『落とし穴』も『スネア』も魔物と人間を区別しない。もし混雑した場所で罠を起動させれば、無関係な探索者を深淵に叩き落とし、取り返しのつかない大惨事を引き起こす可能性がある。
罠使いは孤独を強いられる職業なのだ。
悠太は楽しげな声が響く大通りを避け、より暗く瓦礫が積み重なって人影の途絶えた路地裏へと足を進めた。重厚なシャッターが半開きになり、カビと獣の臭いが濃く漂う一角を見つける。
「ここなら、誰も来ないだろう」
悠太はグリッドを展開し周囲の気配を探り、自分以外に人間がいないことを確認すると早速作業に取り掛かった。
昨日の初撃破を経て、悠太はさらに効率的な手順を考案していた。
これまでは『スネア』で吊り上げ、『バネ床』で飛ばし、『落とし穴』に落とすという三段階の手順を踏んでいたが、魔素の消費を考えるともっと削れるはずだ。
(スネアの有効時間は設置完了から約一分。落とし穴の構築にかかる時間は45秒)
悠太はネズミが潜んでいそうな瓦礫の前に立ち、まず足元に『スネア』を設置した。
そして、そのちょうど真下に『落とし穴』を構築する準備をする。
「キリキリッ!」
臭いを嗅ぎつけた牙ネズミが闇の中から飛び出してきた。
悠太は慌てず、設置中の『スネア』のカウントダウンを脳内で刻みながら、ネズミを挑発する。
40秒、45秒
「キィッ!」
ネズミが跳躍する。その瞬間、悠太は一歩だけ後ろに下がった。
バチンッ! と乾いた音が響き、空中を飛んでいたネズミの後脚を自動調節された『スネア』が正確に捕らえた。逆さ吊りになり、空中で激しく暴れるネズミ。
捕獲を確認し、すぐさま『落とし穴』の構築を始める。
その45秒後。
――ヒュンッ。
ネズミの真下の地面に水たまりが出現した。
吊り下げられた牙ネズミの真下で待ち構えるように口を開ける冥府の穴。
あの立場が自分だったらと想像してゾッとしながら、悠太は執行までの僅かな時を待つ。
スネアが消失し、自由を取り戻したネズミは自重でそのまま深淵へと垂直落下していった。
「改めて見ても恐ろしいスキルだな。とりあえず、バネ床を使わなくてもいける」
消費魔素はスネアと落とし穴を合わせて20。
一回の戦闘で費やす魔素をなるべく抑えることで、より多くの回数、狩りを続けることができる。
悠太はそれから自身の魔素が限界を迎えるまで、その死の路地裏で獲物を待ち続けた。
一匹、また一匹と、知能の高い牙ネズミたちが悠太の設計図通りに処理されていく。
作業のように淡々と。
しかし、その手つきには迷いも恐怖もなくなっていた。
本日の成果は魔石八個。
一つ八百円として、六千四百円。
スライム相手に数日かけて稼いだ額を彼はわずか二時間で手に入れた。
「これなら、家計を支えられるかな」
ボロボロの制服を叩き、悠太は魔石の詰まった袋をしっかりと握りしめた。
遠くで他の探索者たちが帰還する賑やかな声が聞こえる。
彼らとは歩む道が違う。称賛も仲間とのハイタッチもない。
しかし、暗い路地裏から地上へと続く階段を見上げる悠太の瞳には、かつてないほどに確かな希望の光が宿っていた。




