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第88掌 氾濫 その1

閑話にしようか少し迷いましたが、本編でもあるのでここは普通のカウントすることにしました。



 時は少し戻ってタカキが服の注文をしている頃。


 樹里達はフェルゲンから離れ、王都に向かっていた。


「先生~。今、どのくらい来たのかな~?」


 女子の一人が先頭を歩く皆川喜美に聞く。


「分からないですが、馬車の御者の方の話だとちょうどフェルゲンと王都の間辺りに村があるらしいので、それを目安にしたらいいと言っていました」


 そう答える。しかし、その馬車の御者はどこにも見当たらない。実は少し前に盗賊に襲われ、その時に弓矢で死んでいた。行者が殺され、馬車がコントロール不能になったところで何かあったことに気づいた十人は急いで外を確認する・・・ことは樹里や皆川喜美に止められて何とかしなかった。


 樹里がこっそり外を覗く。すると、近くの林から盗賊が出て来た。


 遠距離の攻撃手段を持たない十人ではこの距離は不利だと判断した樹里は盗賊たちが近づいてくるのを待つ判断を下した。その判断に同意した九人は息を潜めて近づいて来るのを待った。


 盗賊は御者以外に乗っている人はいないと判断したのか、警戒することなくあっさりと近づいて来た。


 この行動からも分かるようにこの盗賊たちはまだ盗賊になって日の浅い者達であった。熟練の盗賊ならばこんなにあっさりと馬車に近づいて来ないだろう。


 そして、人数も少人数で三人であった。統率が執れている様子もないので大きな盗賊集団というわけでもないのだろう。


 先程まで話していた御者が殺されてしまったことに怒りの感情を持った数人が感情のままに近づいた三人の盗賊を奇襲して殺した。誰かがしなくてはこちらがやられていたのだからしょうがないのだが、その盗賊を殺した数人、男子全員と女子が二人は冷静になってから人を殺したことによって精神が不安定になってしまった。


 人を殺してしまったのだから、これは仕方がないことだろう。精神を安定させるにはどこかで何かしらの折り合いを付けなくてはいけない。もしくは開き直るか。


 そんなわけで殺していない残りのメンバーが慰めながら移動を開始した。流石にフェルゲンに戻るよりフェルゲンと王都の間にいる村の方が近い。そう皆川喜美が判断して御者を林に埋葬してから村を目指してた。


 そして冒頭に戻るというわけだ。


「あっ。見えて来ましたね」


 皆川喜美が村を発見した。


 そして何とか到着した十人は村長の家に行き、冒険者であることと、近くで盗賊に襲われたこと。そしてその盗賊を撃退したが、代わりに数人の精神が不安定になってしまったことを話した。


 すると少しの間、この村で休養を取るといいと言ってくれたのでお言葉に甘える形で少しの間、お世話になることにした。その間は周辺のモンスターなどを狩りながら貢献した。


 「タブル村の対応と比べていい村だな~」と十人は心の中で思ったのだった。


 そして一週間が過ぎようとした頃、異変が起きた。


「ん?」


 村の外でいつも通り狩りをしていた樹里ともう一人の女子がその異変に気が付いた。


「いつもよりモンスターの数が多い?」


 樹里が疑問を言葉にする。


「それに心なしかいつもより強くない?」


 女子が気になったことを言った。


「確かに。ちょっとおかしいわね。ちょっと今日は早めに村に戻って村長にこのことを報告しに行きましょう」


「うん」


 村に戻ると村の方も慌ただしかった。


「あの。どうかしたんですか?」


 近くの村人に聞くと焦った様子で教えてくれた。


「氾濫が起こるんだよ!」


「え⁉」


 二人は驚いた。イメージとしてはあった。地球のファンタジー系の物語にはたまにそういう場面が描かれていたからだ。


「あんなのが始まるの?」


 女子が呟く。その声色は震えていた。


「だからモンスターの数も多いし、いつもより強かったのね」


 樹里は冷静に分析する。


「王都に応援要請は出したからそれまで持ちこたえなきゃいけないんだよ!」


 それで村人は急いでいたのだ。村人は急いでいたのでそれだけ言うと走り去っていった。


 確かに、急いでいたので聞き逃していたが、あちこちから金槌を打ち付ける音が聞こえて来ていた。


「防衛のために塀を造っているのね」


「あれで持ちこたえられるの?」


「とにかく、一回皆の所に集合しましょう」


 二人は十人が寝泊まりしている村長の家へと向かった。


 村長の家に入ると残りのメンバーはすでに集合していた。村長も向かい合うような形でソファに座っていた。


 精神が不安定な数人は何とか持ち直していた。完治したとは言えないが、普通に生活する分には支障はない程には回復した。


「来ましたね」


「どうするんですか?」


 樹里が皆川喜美に問う。


「先ほど村長から依頼が出ました。私たちにも防衛のために協力して欲しいとのことです」


「それでどうするんですか?」


「受けようと思います」


 ここは妥当な判断だろう。一週間お世話になったという理由はあまり関与していない。主な理由はすでに手遅れであるということだ。


 今から逃げるようにして出発しても恐らく、モンスター達に囲まれてしまうだろう。十人のレベルでは勝てないのだ。


「まあ、一番の理由は逃げたことを孝希君に知られたら合流なんてしてもらえないですし、見限られちゃいますから」


「そうですね」


 皆川喜美に同意する樹里。


 目的であるタカキに見限られてしまうのは一番やってはいけないことだ。ここでその判断をすることは出来ない。


「皆さん、それでは各々準備をして防衛に行きますよ」


『はい!』


 十人は行動を開始した。




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