第63掌 一週間前のこと
王都の道を歩いているとアメリアが疑問を投げかけてきた。
「ねえ、聞いていなかったんだけど、お父様はあなたにどうするように言ったの?」
「ああ。それか」
確かに何も言ってなかったな。説明している暇もあんまりなかったし、アメリアにはちゃんと説明しておかなきゃな。
「ベルモンドさんが詳しく話を聞いたのは今から一週間ほど前だ」
・・・
一週間前。
まだ、俺がフォーマスに訓練を施している時だ。練兵場でフォーマスをしごいているとベルモンドさんがやって来た。
「タカキ君、ちょっといいかい?」
「はい?いいですけど、ちょっと待ってくださいね」
俺はフォーマスに声をかける。フォーマスはこの前、俺達が依頼で討伐してきたピッグタートルに追いかけられていた。依頼ついでに練習用に連れて帰ったのだ。
「フォーマス!ちょっとベルモンドさんと話してくる!そのままそいつの相手をしておけ!」
「み、見張りはー⁉」
「今のお前ならそいつ一体くらいなら何とかなる!危険だと判断したら助けを呼べ!すぐに助けに来てやるから」
まあ、フォーマスを把握しておけば分かるからな。いざとなったら掌握してフォーマスを操ったり、ピッグタートルを掌握したらどうとでもなるし。
「それじゃあ、行きましょう」
「あ、ああ」
若干、俺の放任に引き気味だが気にしないでいいだろう。俺はベルモンドさんに続いて練兵場から出た。俺はてっきり執務室に行くのかと思ったのだが、普通のいくつもある客室の一室に通された。
「あれ?ここで話すんですか?」
「ああ。執務室だと何かありますと言っているようなものだからな」
「はぁ」
まるで密会のような感じだ。そこまで大切な話なのだろうか?
俺はベルモンドさんに促されて部屋のソファに座る。それからベルモンドさんも俺の正面に座り、頼み事をしてきた。
「タカキ君。君の能力で盗聴されないようにしてもらえないかい?」
「いいですけど」
俺は隠密行動と隠蔽のスキルを使って盗聴対策を施す。
「はい。これで大丈夫です。もう盗聴の心配はありません」
ついでにここの部屋の存在すら隠蔽しているから誰も入ってこない。
「そうか。それでは話すとしよう。君には以前、君の目的に協力する代わりにこちらの頼みも聞くように頼んだね」
「はい。王都の姫騎士に協力するつもりはないとベルモンドさんの代わりに伝えに行けばいいんですよね?」
「ああ。だが、君がそのまま姫騎士の所に訪ねて行っても追い返されるか、捕まるだけだろう」
まあ、確かに。俺の恰好は基本学ランだ。髪の黒さも相まって全身黒ずくめの俺。完全に不審者ですね。地球ならどこかの学生なんだろうなとなるんだが、この世界では怪しい奴でしかない。
「奇抜なのは自覚しています」
この世界に来たばかりの時もリリアスに俺の恰好は奇抜だと言われているしな。
「冒険者が目立とうとするのは当たり前なんだがね。今回の君への個人的な依頼には適さないんだ」
その通りですね。日本人的にはあんまり目立ちたくないんですけどね・・・。普通だと思っている服が一番目立つってどういうことなんだろう。
「はい」
「そこで君には服装の変更、もしくはこのバッチと手紙を持って行ってもらうかしてもらう」
「ちなみに服装を変更させる場合はどのような服装をしなければいけないんでしょうか?」
「それは勿論、私の家の使用人の服装だよ」
要するに執事服ですか。ちょっと着てみたい気もするけど、公衆の面前であの恰好は恥ずかしいな。ここが日本でなくても恥ずかしい。まあ、逆に日本だとコスプレか何かだと思われるだろうから恥ずかしいけど、そんなに気にしなくてもいいかもしれない。
「それは遠慮させてください」
「ふむ、そうかね」
ダンガ辺りに笑われそうだ。
「それではこっちを持って行ってくれ」
「はい。分かりました」
そうして俺はベルモンドさんからバッチと手紙を受け取る。
「ちなみにこのバッチは何なんですか?」
裏表にひっくり返して見ながらベルモンドさんに確認する。なんか二本の剣が平行に並んでいる絵が描かれている。
「それは私の家の家紋だよ」
「へぇ~」
「それは私の庇護下にあるという証明でもある。君には出発するまでに渡そうと思っていたから今回のことはちょうどよかった」
まあ、ベルモンドさんの貴族としての力が欲しかったからね。これはその証明ってことか。
「なるほど。それじゃあ、これを見せて手紙を姫騎士本人に渡して来ればいいんですね?」
「ああ。その通りだ。そしてこれは誰にも見せないように」
「?」
「これを見られると色々と勘繰られるからね。特に商人などには見られないように」
まあ、利益を求めて何かしてきそうだしね。
「分かりました」
「あと、もしも何か起こって手紙をなくしてしまった時のことを考えて、君には手紙の内容を知っておいてもらおう」
「はぁ」
「この手紙には今回の王位継承問題に関して、姫騎士に協力しないことと、今回の継承問題には私のフェルゲン家は不干渉することを綴っている。もしも、手紙を失くしてしまった場合は君が口頭でこのことを直接伝えてくれ」
「分かりました。それじゃあ、これは預かりますね」
俺はバッチと手紙を上着の内ポケットに入れる。
「それじゃあ、俺は戻りますね。そろそろフォーマスが泣きそうになっているので」
把握でフォーマスの様子を見ていると地味にピッグタートルの突進を受けてダメージを受けている。いや、避けろよ。なんで後ろに下がっているんだよ。普通に突進されておしまいだよ。このところの俺達の教育でステータス値が上がっているから大事にはなっていないけど。
「ああ。それでは頼んだ」
「了解しました」
・・・
と、ここまでが回想。
まあ、あの後にフォーマスは無事、俺によって救出された。その後にフォーマスには徹底的に回避を叩き込んだ。
「なるほど」
アメリアは俺の回想に納得する。
「まあ、そう言う訳で俺は姫騎士に直接会って、この手紙を渡せば依頼は終了ってこと」
そう言ってアメリアにそのベルモンドさんから預かった手紙ひらひらさせながら見せる。
「理解したわ」
話しながら進んでいたら貴族街の入り口にたどり着いた。辺りにはあまり人はいない。まあ、貴族かその関係者しかここには滅多に来ないからな。俺達ものすごい場違い感。まあ、俺達というか、俺がだな。アメリアはメイド服だからあんまり目立たないけど、俺は全身黒ずくめ。さっきからたまに通りかかる人たちが俺を見ては屋敷に走り戻っている。その反応に若干のショックを受ける俺。
「あんまり落ち込まないでいいと思うわ」
「どうして?」
「だって、あなたは黒の英雄様なんでしょ?多分、それを自分たちの主人に伝えに行ったのよ」
「なるほど」
そうだとしたら多少は安心する。けど、
「急いで姫騎士の所に行かないと面倒なことになりそうだな」
「そうね。多分、自分の屋敷に招こうと遣いが殺到すると思う」
「じゃあ、急ぐか」
俺とアメリアは走って姫騎士の屋敷まで駆けていった。
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