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三国志英雄戦記  作者: 羅本
三章 義兄弟、発つ
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第十二話 桃園の誓い

 突然の大将の死、そして三方からの攻撃に賊軍はわっと乱れた。

「に、逃げろおおおお」

「死にたくねええええ」

 そんな声が聞こえていく中で一人また一人と倒れていく。


 劉備はゾクゾクしていた。自分、張飛、関羽、趙雲。たったの四人で五百もの軍勢に勝てるという自身が湧いてきた。


「北が空いてるぞ!」

 黄巾賊の中から叫び声が響いてきた。賊とはいえども元は一介の農民。死にたくない気持ちは決死の突撃をしてきた劉備たちの何倍もある。助かる道があるとわかった瞬間、我先にと賊は北へと大移動を始めた。

「死ねっ、賊ども!」

 張飛が叫びながら、山を駆け下りようとする賊に蛇矛を上から叩き下ろした。バタバタと倒れる仲間に目もくれず、逃げ出していく軍勢は「軍」ではなく「集団」と化していた。指揮官をなくした賊軍にはもう統制を取り戻す術など残っていない。

「関羽、参る!」

「趙雲、推参!」

 東西より関羽と趙雲が武器を片手に駆けてきた。

「雲長殿!子竜!」

 思わず名前を呼ぶ。

「玄徳殿!益徳は⁉︎」

 趙雲が聞いてきた。

「分からない!多分、山を北へと降りていってる!」

 劉備は益徳の性格からしてそうするだろうという確信を持っていた。

 それから素早く指示を出す。

「子竜は商人殿の荷物を探せ!雲長殿は他に奪われたものはないかを調べてくれ!」

「玄徳殿はいかがなされる⁉︎」

 関羽は目の前の敵を倒しながら聞く。

「俺は益徳を探しに行く!」

 そう言うと、素早く北へと向かっていった。

 趙雲と関羽は顔を見合わせると、再び目の前の敵に集中した。


 やがて朝日が昇る頃。黄巾賊は殆どが山から撤退したと見えた。敗残兵は白旗を上げるか、それとも抵抗して各々捕縛されているかである。

「益徳!」

 無我夢中で蛇矛を振り続ける親友の名を呼ぶ。張飛は矛を持つ腕を休めて劉備の方に振り返った。

「玄徳か!おまえ、無事だったか?」

 張飛が心配そうに聞く。

「ああ。擦り傷が数箇所ある程度で、大した怪我はしていない。それよりも早く雲長殿たちのところへ行こう。二人とも商人殿の持ち物を探しているから」

 張飛は劉備の言葉に軽く頷いた。そして、二人で山を登り始めた。


「玄徳殿、益徳殿!」

 やっと山を登りきった二人を関羽と趙雲が出迎えた。二人の後ろには荷台に積まれた沢山の品々が見えた。

「荷物はこれで全部か?」

 劉備の問いに関羽はそうだと答えた。

 見てみると、反物や馬、金属類などどれも都にしかない高級なものばかりである。思わず見とれて暫く立ち止まってしまった。

「玄徳殿、益徳殿。先ほど雲長殿には話したのですが、私はここでお別れです」

 趙雲が突然言った。

「なんと、もう言ってしまうのか?」

 劉備は残念そうな顔をした。張飛も同じ気持ちのようである。

「我が主人に挨拶をしたら私はこれからまた諸国を渡りあるこうと思っております。ご縁があらばまた会う機会もあるでしょう」

 悲しくはあるが、趙雲の望みを無碍にするわけにもいかない。

「そうか。また会えるといいな」

 劉備の言葉に趙雲ははい、と答えた。

「では」

 そう言うと、趙雲は颯爽と去っていった。


 趙雲と別れた劉備たちは荷物を背負い、楼桑村へと帰って行った。

 村では張世平や叔父の劉完が待っていた。

「叔父上!どうしてここに?」

 劉備が驚いて聞いた。

「お前がちっとも帰らないから酒屋に行ったらこの商人殿とあったんだよ。ったく、無茶しやがって」

 叱るふりをしながらも顔が誇らしげな叔父に劉備は苦笑した。

「商人殿、これで全部でしょうか?」

 関羽と張飛が背中の荷物を下ろした。

「おお、そうじゃ。ありがとうのう、本当にありがとうのう…」

 突然泣き出した張世平を泣き止ませるのに関羽たちは必死であった。

 そんな二人の様子を見ながら劉備は叔父へと向き直った。

「今回の成功はこの剣と何より最強の三人の武士(もののふ)のお陰です」

 劉完ははてと首を傾げた。

「三人?一人足りないようだが…」

 劉備ははっとなって

「一人は趙雲と申す者ですが、今朝方別れたのでございます」

 と答えた。

「そうか。そんな強者に会えなかったのは残念だが、とにかく、二人はうちでゆっくりしていきなされ」

 劉完の提案に張飛は首を横に振った。

「いや、玄徳のことは昔からよく知っているがお邪魔するのは申し訳ない。うちに来ていただくからご安心を」

 劉完は残念がったが、すぐに劉備に行ってこい、とだけ言った。劉備は頷くと張飛に連れられて、三人であの山へと向かった。


「おお…」

 そう呟かずにはいられなかった。

 目の前には満開を迎えた桃の木々。これが耳に聞く桃園か。劉備は関羽とともに暫く見とれていた。

「どうだ?綺麗だろう」

 張飛が酒を持ってやってきた。

「買ってきたか」

 関羽が張飛の方に振り返った。

「雲長殿、貴方にお願いがあります」

 急に改まった劉備に関羽は驚いた。

「どうされたのですか?顔をお上げください」

 関羽が慌てて劉備を起こした。

「どうか、俺と張飛とともに黄巾賊討伐に手を貸してください」

 ここまでの道中、劉備は、関羽と張飛がついた軍はどれだけ強いか考えていた。この乱れた世を救う。その夢が叶うかもしれない。劉備はそう確信したのである。

 関羽は暫く考え込むとこう答えた。

「分かりました。黄巾賊の討伐に参加いたしましょう。しかし、貴方の部下にはなりたくありません」

 関羽の発言に劉備は顔をしかめた。

「では、何がいいのですか?」

 劉備はすぐに顔を元に戻した。

「兄弟です。私を、貴方と運命をともにする義兄弟としてください」

 兄弟、と劉備は口の中でつぶやいた。

「それならばお受けいたしましょう。私が貴方の義兄となりましょう」

 嬉しそうに劉備は言う。

「よし、ええと年齢順に…玄徳が長兄で雲長が次兄…俺が末弟⁉︎」

 張飛が声を上げた。

「お前の言い出したことだ。認めろ」

 関羽は張飛を嗜める。

「んだとぉ、この野郎!」

 張飛が叫ぶのを軽く制して、

「関兄、とでも呼んでおけ」

 とだけ答えた。そんな様子を笑って見ながら劉備は切り出した。

「では、三人でこの桃園で誓いを立てよう」

 関羽と張飛はすぐに争いを止めた。


 桃の花がひらりひらりと散っていく。

 劉備は剣を上にかかげる。関羽、張飛がそれに習って冷艶鉅と蛇矛をかかげた。

「我ら三人、兄弟の契りを結びしからは心を同じくして助け合わん。上には国家に報い、下には民を慈しむことを誓う。我ら生まれた日は違えど、死す時は同じ日、同じ時を願わん!」

 乱世は今、この三人によって大きく動かされようとしていた。

前話もそうでしたが、結構長くなってしまいましたね…

今回で第三章は終了です。次回からは「四章 討伐・黄巾賊」です。

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