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第52話

 幾ら何でも、と源頼貞(公暁)の弓の技前にツッコミの嵐が起きそうですが。

 保元物語では、源為朝の強弓は鎧を着た武者の胸を貫通して即死させ、その後ろの武者の胸にまで刺さって、その武者を即死させたとか。

 又、最期の戦では300人乗りの大船を一矢で轟沈した、という伝説持ちの源為朝です。

 その曾孫なれば、これくらいの描写は許される、と緩く見て下されば幸いです。

 私達が行った朝駆けは、不破関を守っていた朝廷軍にしてみれば、完全な戦術的奇襲になった。

 何とも皮肉なことに、その前日に延暦寺や興福寺等の僧兵が相次いで駆けつけており、朝廷軍の兵力劣勢を大いに軽減していたのだ。

 こうした状況から、朝廷軍は後数日が経てば、西国の武士達が更に駆けつけて、自分達が優勢な兵力となり、幕府軍に対する攻勢が取れるやも、とまで楽観的な空気が漂い出していたらしい。



(尚、私自身が攻勢無くして、幕府軍の勝利は無い、と考えていたので、幕府軍は美濃にたむろして、攻勢準備を調える合間に防御陣地を構えるようなことはしていなかった。

 こうしたことも、皮肉なことに朝廷軍が自分達の兵力が優位になれば、楽に攻勢に転じられて、幕府軍に勝利を収められると考えていた要因だった)



 ところが、そういった楽観的な空気が漂っているところに、幕府軍が「てつはう」を投入して朝廷軍の防御陣地の一角を崩してしまったのだ。

 更にそこから怒涛のような勢いで、幕府軍が突っ込んでくる。

 朝駆けを警戒していなかったこともあり、朝廷軍は連鎖的に崩壊を来しだした。



「何が起きた」

 源実朝は、いきなり叩き起こされて、甲冑を身に着けようとする羽目になっていたが、まずは状況を把握しようとせざるを得なかった。

「はっ。幕府軍が何か未知の物を使ったようで、柵の一部が焼け落ち、更に火災が起きています。その際には轟音まで響いたとか。そのために将兵が混乱しているところに、幕府軍が攻撃を仕掛けてきて、更なる混乱が生じているようです」

 予てから傍にいた従者が取り敢えずの報告を実朝にした。


「何とか混乱を収めて、幕府軍の攻撃を跳ね返せそうか」

「藤原秀康殿や源頼茂殿も、自らの麾下の武士達の混乱を収めるのが精一杯のようで、極めて困難としか申し上げようがありませぬ」

 実朝と従者は更にやり取りをしたが、このやり取りをしている間にも幕府軍の猛攻が行われた。



「進めや、者ども。次期将軍の儂は、鎮西八郎為朝の曾孫でもある。曽祖父に負けない武者ぞ」

 源頼貞は部下を鼓舞していた。

「父に向ってくる敵はこう討つのだ」

 更には頼貞は曽祖父譲りの武勇を示し、強弓を放った。

 その矢は、朝廷軍のある武者の腕を貫通し、その後ろの武者の胸に突き刺さった。

 言うまでもなく、腕に矢を受けた者は落馬し、胸に矢を受けた者は即死している。


「正しく鎮西八郎為朝の曾孫だ。次期将軍に続け」

 その光景を見た幕府軍の将兵は、そう言ってその武勇を称賛した。

 その一方で、朝廷軍の将兵はその光景を見て、更に逃げ腰になった。

「逃ぐるな」

 頼貞はその様子を見て一喝する。

 本来なら逃げるべき朝廷軍の将兵の多くが、その一喝で金縛りにあったように動かなくなる。

 そこに更に幕府軍の将兵が襲い掛かった。



 そう言った状況を観望した実朝は決断を下して、周囲の者とやり取りをした。

「儂が殿を務めるので、西へ速やかに退くように触れて回れ」

「藤原秀康殿らに相談しなくて良いので」

「今は速やかに退く時だ。遅れれば遅れる程、死ぬ者が増えて、状況が悪くなるぞ」

「分かりました」

 そして、朝廷軍はその触れを聞いて、速やかに退却に掛かった。


 

 だが、そう言った状況は幕府軍にすぐに掴まれた。

「逃ぐるな。叔父上」

 中でも頼貞は、実朝を討とうと僅かな従者を連れて、そう叫ぶと共に追撃に掛かった。

 それを見た幕府軍の多くも、次期将軍を討たせるな、と慌てて追いかける。


「ふむ。甥にこの首を預けるとするか。だが、そう簡単には討たれぬぞ」

 実朝は状況を見極めて、頼貞に討たれる覚悟を固めた。

 叔父甥は最期の矢戦を交わしたが、頼貞の方が達者であり、結果的に頼貞は実朝を討ち取った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >「ふむ。甥にこの首を預けるとするか。だが、そう簡単には討たれぬぞ」 総大将自らの殿軍。壮烈極まりなし! 史実世界ではやや文弱の謗りを受けた源実朝公でありますが、この世界でそのような誹…
[一言] 主人公の日本脱出の同志になり得たのに、歴史の修正力かこの歴史線でも公暁に首を取られた実朝。主人公は征夷大将軍の檻から脱出出来るか?
[良い点] 武芸が無いと御家人に侮られる時代に敵大将討取りとは(感嘆) 後は、部下に対する恩賞のイロハと兵站の整え方さえ身に付ければ、何時でも跡を譲ることが出来ますね
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