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第53話

「叔父の源実朝を討ち取ったぞ」

 源頼貞の声が戦場で轟いた。

 更に、その声は木霊のように戦場の各所に広まった。



 私はその広がった声を聞き、そして、完全に幕府軍が不破関を突破しているという現状に鑑み、幕府軍に対して追撃の中止を命じることにした。

 更なる追撃をして、戦果の拡大を図るべきかもしれないが、我が子が私の弟を討ち取るという望外の事態に私の心のどこか、張りが切れたのだ。

「無理に追うな、残った敵をまずは潰すのだ。敵の総大将を討ち取った。我らが勝ったのだ」

 私は口ではそう言ったが、源氏の宿命ということが何故か胸に去来してならなかった。


 私が追撃中止を命じてから、1刻(2時間)近くが経ち、幕府軍の幹部、御家人達が、自分や部下の戦果を報告しよう、と相次いで私の下に集ってきた。

 その中でも誇らしげな顔をしているのは、我が子の源頼貞だ。

 何しろ敵の総大将を討ち取ったのだから、当然と言えるかもしれないが、私としては素直に称賛するわけには行かない。

 本来から言えば、頼貞は次期将軍として最前線で戦うべきではないのだから。

 又、部下に手柄を立てさせるべきだったという側面もあるのだ。


 一通り皆が揃ったと判断した私は、幹部達からそれぞれの報告を受け、戦果を記録させると共に、

「見事である。必ずや戦が終わった後に報いる」

 等の言葉を掛けていった。

 そして、見事な戦果を挙げた者に対しては、更に他の御家人からも称賛の声が掛けられた。


 最後に戦果報告を行ったのは、源頼貞だった。

 どこから調達したのか、弟の実朝の首を首桶に入れて、頼貞は私の下に持参し、実朝との戦い等について報告を行った。

 私は敢えて厳しい顔をして、それを聞いた。


 頼貞が不満顔をしながら、報告を終えた後、私は息子を怒鳴りつけた。

「何故に先頭に立って、実朝を討った。次期将軍になるお前は、やや後ろにいて部下の御家人を率いるのが本分ぞ。部下の御家人に手柄を立てさせるように努めねば、叔父の義経のように、部下の御家人から嫉まれ、憎まれるぞ。以後、このようなことは断じてまかりならん。今後は必ず儂の傍にいろ」

 私が怒声を浴びせるとは思いも寄らなかったのだろう、頼貞を始め多くの御家人が呆然とした。


「以後の前軍の指揮は、お前の代わりに北条頼時に任せる。尚、これで軍議を終えるので、速やかに頼貞以外は各自の部下の下に戻るように。頼貞には儂からまだ直に話すことがある故、お前だけはここに残れ」

 私が厳しい顔のままでそういうと、毒気を抜かれたように、全ての御家人達は私の下を去り、頼貞と私だけがこの場に残った。


 皆が去ったのを、ざっと自ら確認した後、私は頼貞と向かい合った。

 先程の私の怒声の衝撃から、頼貞はまだ呆然としているようだ。

 私は一転して優しい声音で言った。

「よくやった、と他の御家人の前で褒める訳にはいかなんだ。何しろ先程言ったように、次期将軍になるお前が、部下の御家人と功を競うようなことをするのは罷りならぬからな。だが、その一方で、弟はお前の手に掛かって、実は本望だったのではないか、とお前の報告を聞いて思った。そして、ほぼ初陣の身ながら、見事な戦いぶりも示したな。流石は、我が息子じゃ」

 そう話すうちに、私は何故か涙が溢れてならなかった。


「父上」

 私の真情を聞き、更に私の涙も見て、頼貞もそれ以上は言わずに涙を零しだした。


「死んだ以上は、元の家族じゃ。密やかに弟の首は、母の(政子の)下に送ろう。母は敵の首魁は梟首せよ、と泣きながら言うじゃろうが。母に密やかに息子の弔いをさせ、その上で梟首しようぞ。それがせめてもの家族の情けじゃ」

「はい、それがよろしいかと」

 私達父子は暫く泣き続けた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 甥が叔父を殺すという悲劇は史実世界と同じですが、暗殺という暗澹たる状況に比べればマシにはなりました。本人(生き残った方)の心情としては救われませんが。 [気になる点] >「よくやった、と他…
[一言] 源氏の棟梁としての武勇を見せないといけないし、配下に手柄を立てさせないといけないしで難しいところだよね。 でもこれで宇治瀬田の攻防戦は前に出なくていいのでよかったのかな?
[良い点] 征夷大将軍たる存在がやるべきことを息子に伝える頼家さん。 剣を誇るのではなく権を使うのが大将。 その後、一人の父として息子を称賛し母への家族の上を明かす姿に涙しました。 あ、公私ともに…
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