表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fountain of Youth  作者: 白髪おじさん
スタイル:カジュアル
2/11

大膳春人の場合 (2)


―― 6:12


「おー、ここだここだ」


 件のファンタジー飯を出す店を探して、街中を歩き回っていると、クボが声を上げた。

 そこは、『駆けつけ三杯』と看板の掲げられた、宿屋風の店だった。


「ほほう。ファンタジー物にありがちな『冒険者の宿』って感じの店だな」


 春人が中を覗き込むと、NPCベンダー以外の人影はないようだった。時間が早すぎるからか、客の姿も見かけない。


「さすがに、この時間から『中身入り』なんて店は少ないか」

「そりゃあしょうがないさ。みんながみんな、ワシらみたいに朝っぱらからVRってワケにはいかんし」

「まあ、24時間営業してくれるだけでもありがたいっちゃその通りなんだが……売り切れてないよな?」

「あー……ソレは考えてなかったな」

「まあ、そんときゃそんときだ。ガンさんとこにでもいこうや」

「んじゃ、それでいっか」


 率先して店に入った春人が、NPCに声を掛けた。


「お邪魔するよ」

“おう、いらっしゃい。なんか欲しいものはあるかい?”


 その呼びかけに反応したNPCベンダーから、定型の挨拶が返ってきた。

 それと同時に、空中にメニューが表示される。

 ざっと眺めたところ、いくつか売り切れはあるが、全滅ではないようだ。


「どうやら、全員分は残ってるみたいだなあ……どれどれ」


 全員で、改めてメニューをじっくりと読んだ――そこには、次のように書かれている。


☆★☆★ お品書き ☆★☆★


・ブラックバットの姿焼き

・ケイブファンガスの天ぷら “SOLD OUT”

・マーシュフロッグのフリット

・ラージアントのハンバーグステーキ

・ワスプのソテー

・骨付き肉の丸焼き “SOLD OUT”

・コカトリスのから揚げ “SOLD OUT”

・ドラゴンステーキ

・バジリスクの卵プリン “SOLD OUT”

・スライムのムース


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 一同は、メニューを見たまま絶句していた。

 呆然とした声が、クボの口から漏れる。


「あー……ファンタジーってそういう……」


 しばらくして、春人がしぶしぶ切り出した。


「……なあ、クボちゃん」

「……なんだい、ゼンさん」

「こりゃあ、いわゆるアレか? ゲテモノか!? ゲテモノ屋なんだな!?」

「いや、その……ん? な、なんか、サンプル画像見る限り普通の料理みたいだぞ。きっと、素材がファンタジーっぽいだけで料理は普通、って奴……」

「いやいやいや、コウモリだの蟻だのは控えめに言っても普通じゃあない」

「……まったくもって、そのとおりですな」


 春人は、クボを責めながらも、サンプル画像をじっくりと見た。

 確かに、見た目は意外と普通なようだ。

 いくつかわからないメニューもあるが、大体はクボの言うとおり、現実の料理をアレンジしたものらしい。

 多分、売り切れている“コカトリスのから揚げ”に“ケイブファンガスの天ぷら”は、鳥のから揚げとキノコの天ぷらだろう。

“肉の丸焼き”は、メニュー名から素材がわからないのは不安だが、見た目はいわゆるマンガ肉だ。骨に整形肉を巻きつけて形をまねたものは実在するので、安全なほうだろう。

 一方、危険そうなメニューは、“ワスプのソテー”と“蟻のハンバーグ”か。長野あたりではハチの子を食べるというし、その手の料理がベースになっていると思われた。

 ただ、“蟻のハンバーグ”は、見た目は普通のハンバーグのようで、どこが“蟻”なのかがサッパリ分からないため、そこが逆に一番危険な感じがした。

 スライムもよく分からないが、ムースなので朝食には適さない。


 結果として、コウモリ、カエル、ドラゴン、の三択が残された。


「うーん、安全そうなから揚げ、丸焼き、天ぷらが売り切れか……となれば、ドラゴンステーキだな。クボちゃんじゃないが、せっかくココまで来たんだしな」

「なんか、ホントすまん……」

「あんまり気にするなよ。ドラゴンステーキなんて、ファンタジーなら一度は食ってみたい鉄板料理じゃないか」


 メンバーは、全員が春人同様にドラゴンステーキを選んでいた。

 残っている中では比較的安全っぽいということもあったが、やはり憧れというか、期待もあったのだろう。


 それぞれが購入したメニューを持って、店に備え付けのテーブルへ移動した。

 テーブルの上に、全員分のドラゴンステーキが並ぶ。

 見た目は、普通のステーキのようだ。

 春人は、肉を切り分けて、まずはゆっくりと一切れを咀嚼した。

 食感は、普通の肉――どこかで食べたことがあるような気もするが、心当たりがまったくない。


「ふむ……うむ……味は普通、というかちゃんとうまいな……これ、何の肉だろうな?」

「だから、ドラゴンだろ?」

「そうじゃあなくてさ、データの元になった肉さ」

「ああ、そっちか……なんだろうな」

「何かに似てる感じはあるんだが……うーん、思い出せないってことは、食ったことがない肉なんだろうけど」

「そういわれると、気になるな」


 ああでもないそうでもないと頭をひねっていると、特徴的な髪型――後頭部を刈り上げて、雷マークの剃りこみが入っている――の男性アバターが、おもむろに口を開いた


「んんん……コレは、まさか……アレか?」

「知ってるのかい? デンさん」

「ああ。多分、食ったことがあると思う。えーと、アレだよ、アノ、えー、なんつったっけな……あー、わに、ああそうだ、ワニだよ」

「おお、ワニか」


 その話を聞いて、「へえ、これが……」といった納得の声が上がる。

 デンは、肉の正体を確かめるように噛み締めながら、話を続けた。


「多分、な。昔、家族でワニ園に行ったことがあってさ、そこでステーキを食ったんだ。なんとなく、ソレと同じような食感な気がする」

「ほほう。さすがは旅行が趣味のデンさん。やっぱり、実体験があると強いな」

「普段食べないような肉だったから、逆に印象強くて憶えてたんだろうなあ。ただ、そのまんまじゃないな。何か混ざってるような……うーむ、細かいトコがわからん」


 どこかあやふやな結論だったが、それでも何か感じるところはあったらしく、皆が口々に感想を言い始めた。


「はー……運営も大変だな」

「現実にドラゴンがいない以上、似てるモノを探すしかないのはわかる」

「コモドドラゴン食えってワケにもなあ」

「ソレだって、正式名称コモド『オオトカゲ』だし」

「総じてゲテモノってワケでもないようだな……蟻は見なかったことにしよう」

「ああ。俺も昆虫系は無理だ……」

「これなら若いモンに流行るのもわからんでもないな」


 そんな中、言いだしっぺのクボは、ハズレ扱いにならなかったことに胸をなでおろしていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ