92話 すき焼き
♢♢♢
「美味いな…」
美味いけど鍋だと思わなかった。ご馳走といえばもっと手の込んだ料理かと……
こんなにも食材を使って大丈夫なのかと心配にもなるが、愛梨の感謝が伝わってくるようで嬉しいが……
そんな俺の気持ちはすぐに打ち砕かれる
「聞いてよルナちゃん!さっきざこにぃがビクビク痙攣しながらオナラして布団を両手で股間に押さえ付けてたんだよ?キモすぎない!?」
なんて情報量の多さだよ……俺じゃなきゃそんなシーン想像できないね
「………」
俺は無言で薄く切られた牛肉を口に運んでもしゃもしゃする。二人が話してる間に全部食ってやる作戦だ
「えぇ〜!きも〜い!どんな顔してたの〜?まさか気持ちよさそうな顔してないよね〜?」
「この肉まじで美味いな。手が止まらんわ」
「んー……顔は俯いてて分かんなかったんだよね。でも腕の血管浮き出るくらい凄い力で布団を股間に押さえ付けるってヤバくない?」
「ぷぷぷぅ。そんなに出すのが気持ち良かったんだね〜」
「あーウマウマ。一生食ってられるわこの牛肉。あー最高」
「でもそんなに力む必要あるのかなって思うんだよねぇ〜、あっ!ちょっと愛梨といれー」
「いってらっちゃーい愛梨ちゃーん」
「あーうっめぇ!もう毎日コレでいいな」
愛梨がトイレに行っても俺の箸は止まらない。もはや誰も俺を止められん
「ルナも上手かったでしょ〜?毎日しよっか〜?」
ところがどっこい牛肉を貪っていた俺の箸は一瞬で止まり、少しずつ自分の顔が熱くなっていくのを感じた
「「………」」
ヤバ発言に恐る恐る顔を顔を上げると、対面に座るルナはいつものニヤニヤ顔で俺の事を見つめていた
「血管浮き出るくらい全力で押さえ付けなくてもちゃんと出し切るまで受け入れてあげるのにな〜」
「ん?あぁオナラの話か?…オナラ受け入れるとはすごいなおまえ」
すっとぼけるしかない。全力ですっとぼけだ。
「…ふーん。そーゆう感じねぇ。あっ!ココ見て」
「…な、なんだ?…」
すっとぼける事しか俺の脳は機能しておらず、不意に自分の唇を笑顔で指差すルナに困惑してしまった
「れんれんがボロ負けしたルナのおくち〜」
「ッ…てんめ…勝てる訳ねーだろ…」
あの時は布団で見えなかった上に愛梨が居てこっちは死ぬ思いだったんだぞ
「ただいまー」
静かにドアを開けてルナの隣に座る愛梨は、少しだけ妙な雰囲気を感じ取ったのかソワソワとしていた
「ん?…ん?どしたの?」
「この牛肉美味しいね〜ってれんれんとお話ししてたんだよー」
卵を溶いた器に肉を入れながら、この話は終わりと言わんばかりに俺の方を見つめてくる
そしてルナが牛肉を口に運ぶ姿を見て、あんな小さな口ひとつに抜き取られたかと思うと少し悔しくなってくる
しなも俺のをあんなジュースみたいに喉鳴らして飲み干しやがって…愛梨が1階に降りた後も吸い付いてきて引き剥がすのが大変だった
「そーいえばざこにぃはずっとお肉食べてたもんね。そろそろ白菜とかえのきとか食べてよねー」
「うっす…」
「どうしたの?」
悔しい気持ちが顔に出ていたのか、愛梨は俺の事を心配そうに見つめて来た
「ん?あ、あぁ。明日学校ってのも怠いと思ってな」
「まぁ明日はテストあるって言ってたもんね。愛梨も来週からテストだし、ざこにぃが言ってたおまじないやってみるね!」
「おまじない?」
そんなの教えた覚えないが?…
「えっこれこれ」
すると愛梨は不意に指先を口に含んで吸い始めた
ジュルルルルルゥーーちゅぱちゅぱーー
「「……………」」
食事中だというのにアホみたいに下品な音が食卓に響き渡り空気が凍りつく
まさか愛梨が俺の言った事を間に受けるとは…そんなおまじない存在しないんだがそう言うべきか?
だが俺がウソつきおにいちゃんになっちゃうしな
「いやおまえそれはさ……学校ではやるなよ絶対」
「え?なんで?」
「いやなんでっておま「愛梨ちゃんすごい!ルナより才能あるかも!」
「才能?ただ音出して吸ってるだけだよー?」
「その音出すのが難しいんだって!ルナと練習しよ!ほら一緒に!」
いやなんかヤバい流れになってきたぞコレ…
「いや待て待て。そんなん練習してもなんの役にも立たないからやめとけ」
俺は必死になってそう抗議する。愛梨にそんなのは必要ないからだ
「えぇ〜そうかなぁ?こんな役に立たない技術にれんれんは勝てなかったのにねぇ〜?」
「くぅ…」
そーいえばさっき自分から負けを認めていたか…
「ざこにぃが勝てないってなんの話?」
「なんでもないよ〜。ほら一緒に練習しよ愛梨ちゃん。まずは口をすぼめてみよっか!」
「はーい!」
「マジやめろて」
「それじゃ吸ってこ〜!せーの!」
ジュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルゥゥーー
ジュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルゥゥーー
「まだまだいくよー!」
「うん!」
「いやうるせーっての!」
ジュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルゥゥーー
ジュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルゥゥーー
「いやホント静かにしてくれ……」
下品な音が響きわたる中、俺は二人を無視して鍋をつつくことにした
ちなみにこの後5分続いた
「お、しらたきもーー
ジュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルゥゥーー




