86話 他の女で童貞捨てたら殺すって言われてる
♢♢♢
「アイツどこだよ…電話もでねーし…」
既にリーフタウンの別館に来て30分は探している。こっちに来ていると思ったんだが…
「う〜ん。全然電話に出てくれない…」
「しょうがない。迷子センターに問い合わせるか…」
まだ館内に居るなら来てくれるだろう。来なかった時がホントに怖いが…
「あっ!いた!」
「どこだ!?」
ルナの声に反応して振り向くと、エスカレーター脇にある詰所から愛梨がちょうど出てきたところだった
「よかった……」
そう小さく呟く俺とは対照的に、ルナは愛梨目掛けて走り出していた
「愛梨ちゅわ〜ん!やっと見つけたー!確保ー!」
「へぶぅ!」
抱きつくというより、ほぼ頭突きに近い勢いでルナは愛梨に飛びかかる
「る、ルナちゃん!痛いっても〜!」
「だってぇ…探しても全然見つからないし、電話もでないし〜…」
「あー…ごめんね。ゲーム画面のままだったから気付かなかった…」
「でも通知はくるだろ。ゲーム閉じれないままスマホに触れなかったってことだよな?」
「そ、…それは…」
そんな所から出てきた時点で何かがあったのは明白だ。でも今はそんな事よりも…
「おい愛梨」
「…は、はい…」
俺が叱るとでも思ったのか、愛梨は沈んだ顔のままルナに抱きしめられているだけだった
「色々言いたい事はあるがな…無事でよかった…」
「おにいちゃん……うん…愛梨怖かった…怖かったよぉー…」
ルナに抱きしめられているのを無視して、愛梨はルナをサンドイッチにする様に俺に抱きついてきた
うーん…まぁめんどうだしルナは潰す感じでもいいか
俺は間にいるルナのことなんて気にもせず、力強く愛梨を抱きしめた
「つ…つぶれるぅ…」
「なにがあったか後でちゃんと話せよ。とりあえず服でも買い行くか。だいぶ遅くなったしな」
「うん…ごめんね…ごめんね…」
「まぁ気にすんなよ…」
相当怖い思いをしたんだろう。愛梨をこんな目に遭わせた奴をぶん殴りたい気持ちに駆られて、俺は二人から腕を離して詰め所に脚を進めた
「…チッ…もう来たのか…」
しかし、視界の端から警察官が歩いてくるのを見て俺はすぐに二人に向き直る
「うっし。ほらいくぞ」
「ざこにぃ…いま顔怖かったよ?…」
「気のせいだろ。こんな所に居ても邪魔になるし移動するぞ」
「うん…」
「ほらルナ。プニクロに行くんだろ?案内してくれ」
「し、しぬトコだった…」
ルナは何故か膝に手を置いて、苦しそうに息をしていた。どうしたんだコイツ…
「ここのモールの案内板はアテにならんから死なれたら困る」
♢♢♢
「は?……つまり拉致されそうになったけど知らないお姉さんが助けてくれたってことか?」
モール内のプニクロに向かっている最中に、俺は愛梨に何があったのかを聞いていた
「うん!すっごい綺麗なお姉さんで、めちゃくちゃ性格悪かった」
「ぶふぅ…性格悪いってれんれんより?」
「んー…ざこにぃといい勝負かな?…でも話してる内に段々といい人だって分かってきて…やっぱざこにぃの方が性格悪いかも」
いや酷い言われ様だな…
「おまえな。性格云々なんてこの際どうでもよくてな。ちゃんと名前聞いたか?お礼は?」
「名前は教えてくれなくて。興味ないし会うこともないからって」
「えぇ〜カッコいい〜」
「……そうか」
淡々と話す愛梨だが、俺はその女性にお礼を伝えたい気持ちで心が一杯になってしまった
正直そんな危ない目に遭っていたとは思わなかったし、俺は確実に間に合っていなかった
「そうか……その人が居なかったらおまえとはこうして会えてなかったんだな……」
誰にも聞こえない様に呟いたつもりが、隣を歩くルナには聞こえてしまったみたいで、ルナは俺をみつめてコクリと頷いていた
「ん?なんか言った?二人ともどうしたの?」
「「なんでもない」」
「それでさ、その人の特徴は分かるか?髪の色がヤバいとか筋肉がヤバいとか」
「いや的外れすぎ!」
「れんれんの綺麗な女の人の基準ヤバすぎぃ〜」
いや冗談なんだが。それともこんな時にふざけるなって事なのか
「とりあえず俺はその人にお礼がしたいだけなんだって。名前を知らないんだから特徴を聞くなんて自然な流れだろ?」
「あー……お礼ならざこにぃあげるって言っちゃった。ざこぃを彼氏にどうぞ〜的な?断られちゃったけど…」
「そんなの断られるに決まってんだろ。顔も知らない奴欲しいとか言う人居ないだろ…」
こーゆうの聞くとやっぱり俺の妹はまだまだ中学生だなって思うわ
「ん〜…断られることは分かってたよ。ただ…勇気を出して欲しかったからざこにぃを上手く使ったと言うか……なんと言うか?……」
「あールナ分かった。冗談を交えて励ましたって事かな?」
「うん!そうそう!」
いや全然分からん。…励ますのに俺を使うとかお兄ちゃん泣きそうなんだけど
「はぁ……つまりおまえは名前も聞けなくてお礼も出来なかったって事だな。ならはよ特徴教えてくれ」
「あっ!そうだったね。特徴はえっと。長くて綺麗な黒髪が腰まであってー、それから目がキリッとしてて大人びた人だった。あと高校生!」
「んん〜…なんかその辺にいそうだよね。ルナ分かんなぁ〜い」
そう言いながら俺の前を歩き、無言で俺と愛梨の腕を引っ張って通路案内をしてきた
なんてさりげなく可愛い通路案内なんだおまえは…
「同じく俺も分からんな。特徴が一般的すぎる」
「んん〜……モデルさんみたいに綺麗でちょっと近寄り難い感じの雰囲気で…えっと口調が…」
愛梨は言葉を区切り、コホンと咳払いをして今からモノマネしますと伝えてくる
「だって貴女に興味ないもの。貴女と話して何か意味があるの?もう会う事もないのに」
「………うひゃぁ……愛梨ちゃんそんな事言われてよく人の形を保ってられたね。ナデナデしちゃうね〜」
「いや〜ん。嬉しーい」
「………」
二人がイチャコラしてる間、俺の頭はとある人物を思い出していた
……まさか九条か?でも九条ってそんな強いか?剣道はめちゃくちゃ強いのは知っているが素手でも戦えるのか?
だが愛梨のモノマネは上手い。口調はまさしく九条そのものだ。間違えるはずもない
こりゃ明日は土下座してお礼だな。他にもなんか…
「あ、あとね。目元が泣き腫らした跡みたいに赤くなってて辛いことがあったんだなって思った……」
「…そうか…」
いや九条ではないな。アイツは強く気高い人間だ。泣くなんて事あるか?いや否。答えは否だ
「もしその人が困ってたらお願い聞いてあげてね?見つかったらだけど…」
「…まぁ…一度だけならなんでも言う事聞いてやる。なんだったら童貞くれてや…いってぇ!」
冗談で言ったつもりだったが、歩きながら会話していた俺のつま先にルナの脚が振り下ろされる
「えっなに?ざこにぃどうしたの?…」
「いやなんでもない」
愛梨が振り向いたと同時に脚は離れたが、ルナは俺を睨み付けていた
何を伝えたいのかなんてすぐ分かる。他の女で童貞捨てたら殺すって言われてるなコレ……




