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85話 後腐れ



「あの…どこに向かってるんですか?」


「…………」


駐車場から自動ドアをくぐると、館内の買い物客達が引き摺られるチャラ男を見てヒソヒソと囁いていた


「なにあれ…?」


「喧嘩かしら…?」


囁き声は次第に増していって、カートを押す人達の視線が集中するのにそう時間は掛からなかった


視線がいくら集中しててもこの人は堂々と歩くだけで、愛梨のことも堂々と無視する


「あの〜……お姉さん?…聞こえてますかー?…」


「…………」


お姉さんは無視を決め込んだまま、通路を進んで右手のエスカレーター脇にある詰所で脚を止めた


「…今は留守のようね。暫くしたら警備員が来るはずよ。何があったかは自分で説明なさい」


初めて聞いたお姉さんの声は、クールで凛としてて綺麗だった


「…………」


でも散々無視されたのでここはあえて無視を決め込む


「聞いているの?」


「…………」


「…はぁ…こんなくだらない事をやり返すだなんて…まだまだ子供ね…」


その一言だけを言い残して、お姉さんは背を向けて去ろうとした。でも先に無視を決め込んだ人にそんな事を言われたまま黙っている愛梨じゃない



「子供はお姉さんだよ。無視しすぎ」


「だって貴女に興味ないもの。貴女と話して何か意味があるの?もう会う事もないのに」


うっわぁ…性格わっるぅ…見た目はこんなにも完璧なのにもったいない


「なら自己紹介するね。さと「興味ないって私は言ったわ」


ここまで酷い人がいる事に愛梨は驚きだよ…


「………そんなだから目元赤くなるまで泣くハメになるんだよ」


その言葉がスイッチになったのか、お姉さんは振り向いて鋭い瞳で愛梨を見つめてきた


「私が助けなかったら貴女どうなってたと思う?今頃縛られてトランクの中よ。言葉を選びなさい」


「なんで興味ないのに助けたの?…」


「……貴女とはもう会うこともない。だから言う必要もないわ…」


「だからこそじゃない?だからこそ話せる事だってあるじゃん!自己紹介するつもりもなくて、もう会う事もないなら…えっと…」


なんだっけ?こーゆうのなんて言うんだっけ?


「後腐れなく終われる。そう言いたいの?…」


「そう!」


「………まぁ…そうかもしれないわね…」


ヨシ!作戦成功。こんな美人と話をするなんて愛梨の人生に二度はないと思うし!


「それでなんだけど…どうして助けてくれたの?…」


「…とある人から連絡が一切返ってこなくて……」


ん??コレお話し繋がってる?…でもきっと関係ある話かもだし、黙って相槌だけしとこう


「…うん」


「何度も電話したのよ?でも折り返しどころか、全く反応がないの…」


「…ほう…」


「嫌われたんじゃないかと思ったら涙が出てきて…彼は私の唯一の希望だから…」


「うーむ…」


「でも…ただベッドの上で泣いてるだけじゃ何も解決しないのは分かっているのよ?……だからせめて、何か少しでも……良い行いをすれば…」


「いえっさー」


「ソレが私に返ってくるんじゃないかって………淡い期待を抱いているの…」


「ほえ〜っぴ」


「貴女さっきからふざけているの?相槌くらいちゃんとできるようになりなさい」


「ごめんなさい。ちょっもおもしろくて」


「今の話のどこに面白い要素があるのかしら…」


「コッホン。まず聞きたいんだけど…どうしてそんなにも連絡取りたいの?」


「それは……私が悪い事をしたから…謝りたくて…」


「…それっていつの話なの?」


「金曜の学校帰りの話よ…」


うーん。もう手遅れ感凄い……金曜からずっと無視されてるなんてムリとしか言いようがないよ…


それにしてもお姉さん高校生だったんだ……


ぴっちりとした黒のハイネックカットソーが大人っぽさを引き立たせてて、高校生に見えなかったや…


「………また無視かしら?…」


グレーのタイトスカートもお姉さんに似合ってて本当に綺麗。こんなお姉ちゃん欲しかったなぁ……


「…はぁ……」


「……ごめんなさいね。溜息を吐くくらいのつまらない話で…」


「ち、違う違う!お姉さんが綺麗だったもので…見惚れてて…」


「そう。なら私の話は聞いてなかったのね…」


「聞いてた聞いてた!まだ諦めるのは早いよ!学校が同じなら明日また話掛けてみたら?」


「……もうムリよ。自分から話しかけるなんて。心が押し潰されそうで…」


お姉さんの鋭い目つきが垂れ下がって、本当に心から反省してるのが伝わってくる。たぶんもう心が折れてしまいそうで限界なんだ…


でも、2日も無視されてるなら可能性なんてほぼ0に近い


「一回月曜日に謝ってみよ?それでさ、もしムリだったら……あの…」


「……ムリだったら?……」


「助けてくれたお礼にウチのお兄ちゃんあげる!男なんて沢山居るんだから、すぐに切り替えていこーよ!」


きっとこの慰め方で合ってるはず。このお姉さんはたぶん勇気が出ないだけでまだ諦めてない


「ふふ。ありがとう。でも遠慮しておくわね」


やっぱり諦めてなかった。唯一の希望って言うくらいだしそれはそうなんだけど……


「えぇ〜本当に〜?後悔しない?妹公認だよ〜?」


「えぇ、もう決めているから。後悔しないわ」


「えーお姉ちゃん欲しかったのにざんねーん」


本当に残念な表情を表に出したつもりなのに、お姉さんは背を向けて歩き出してしまった


もっと話したかったのにもう終わりかぁ…


後は警備員さんを待って説明するだけの時間なのかと思ったけど、お姉さんは脚を止めて愛梨の事を見つめてくる



「また会いましょう」


そう言ってお姉さんは手を振って今度こそ視界から遠ざかっていった


「…もう会う事もないとか言ってた癖に。後腐れが出来ちゃったじゃん……」


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