80話 気付けてよかった
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チュンチュンと可愛らしい鳥の囀りが聞こえて目を覚ます。どうやら俺は寝ていたらしい…
「まじか…ルナに頭撫でられて寝落ちしたのか…」
高校一年の女の子に寝かしつけられるとか恥ずかしい事なんじゃないかと思ったが、俺が心を許している証かもしれない
「とりあえず起きるか。よっこら……ん?」
体を起こそうとしたが、布団にくるまったルナの腕が俺の脇に差し込んであって体を起こせない
「おいルナ起きろ」
そもそも顔すらも布団でくるまってるのはなんでなんだ?息出来てるか?
顔をペチペチして起こす為、布団を乱雑に取っ払って顔を見る
「……えっ…どうなってんだ?…」
ルナじゃなくて愛梨だった。しかも寝てるから当然返事は返ってこない
「おーい愛梨起きろって。ソファから落とすぞー」
よし落とすか
起きる気配が無い為、片手でゆっくり愛梨を押してソファから突き落とした
「……い…いっだぁ…」
鈍い音と同時にようやく目を覚ましてくれたのは助かるが、一緒に寝てる理由が分からない
「おはよ。おまえなんで俺と一緒に寝てんの?」
「………えっと…」
その一言をようやく絞りだしたと思ったら顔を逸らして沈黙するだけだ
「俺は仏だからな。2時間は待てるぞ」
「あっ!今何時!?」
無視ですか…そうですか
「背もたれが邪魔で時計見れない。見てくれ」
「そのくらい動いてよね……」
床に寝転んでいた愛梨は立ち上がって時計を見てくれた。時間なんて気にしても今日は休みなんだけどな
「やっちゃった…もう11時30分だ…」
「今日は日曜だろ。落ち着けよ」
「ルナちゃんが12時に外川駅で待ってるって…」
そんなこと初めて聞いたぞ。でも寝落ちした俺が悪いとか言われるし黙っておくが…
「い、いや待て待て。勝手に予定が立ててあるのはいいとして。外川駅ってどこだ?…」
「ざこにぃがルナちゃんを家まで送った事あったでしょ?そこの最寄駅が外川駅だって」
「あの郊外手前に並んでた住宅街の最寄駅〜…ってことか?…」
「そうそう〜。愛梨も最近知ったんだよね〜」
何で俺にその話が共有されないんだ?イジメですかね
「そこに12時とかムリじゃないか?13時に変更って連絡してくれ頼む」
ピロンッ
「あー…今RINE来たんだけど、もう着いたって…」
「…すぐ準備するから待ってろって送っといて…」
「はーい」
「話は逸れたけどさ。なんでおまえ俺と一緒に寝てたの?」
単純な返答で終わらせて欲しい事を、何故か愛梨は指先を止めて黙ってしまう
「……ざこにぃが気持ちよさそうに寝てたからなんか眠くなっちゃって。気付いたら寝てた感じ?」
「釣られたってことか?」
「そーそー。いいから早く準備してよねー」
話は終わりと言わんばかりに愛梨は指先を動かして返信していた
「へいへい」
なんか昔にもこんな事が何度かあった気がした。なんだっけ……全然思い出せない
とりあえずジーパンを手に取って、必死に頭を働かせる事にする
「こんな考えながら着替える人類俺以外に居ないぞ」
「ちゃっちゃか着替えちゃって〜。人待たせてるんだから」
「おう。てか着替え置いといてくれてありがとな」
「結局起こす前に寝ちゃってたけどね」
白の半袖Tシャツを通して、薄手の黒いカーディガンを羽織り、靴下を履く
「なんか俺にしてはオシャレ過ぎないか?」
「顔はその辺に居るのと変わんないから良くない?」
「おまえは俺の敵なのか味方なのかどっちなんだよ」
「そんな事どうでも良いから顔洗って髪整えてよねー」
「うっす」
♢♢♢
「良い感じじゃんざこにぃ!」
「俺が良い感じじゃなかった事なんてないだろ」
ほとんど髪を整えたのは愛梨で、そこから更に最終チェックが入る。
他の家庭は分からないが、俺達兄妹ではごく普通の事だと思っている
「これなら遅れても土下座だけで済むね。よかったよかった」
「土下座は一回使うと二回目が通じないからダメだな。見下ろしながら謝るわ」
「頭にゴミ詰まり過ぎでしょ…」
「誰がゴミ箱だよ…」
「ほらルナちゃん待ってるんだから。早く行っちゃいなよ」
玄関の扉に手を掛けた時、何かを思い出しそうになって思わず静止した
楽しんで来て欲しい気持ちはあるだろう。だが"行っちゃいなよ"という言葉が少し投げやり気味だ
「あ…」
その投げやりな言葉に、ボクシング熱を帯びていた日々を思い出した
アレは確か中学2年の時の、サマージュニアボクシングトーナメントだったか?
あの時は愛梨の事をほったらかしにする毎日で、ずっとボクシングの練習に明け暮れていた
当時の愛梨は歳相応の構ってちゃんで、あの時は大会前日に俺のベッドに忍びこんで勝手に隣で寝てたっけ
それでも当日は玄関まで見送ってくれたんだ
『じゃ行ってくるわ』
『…ずっとボクシングの練習と試合ばっかり……愛梨また一人でお留守番なの?』
『…あぁ。留守番だな』
『…ばか。おにいちゃんのばか…』
『もうすぐしたらお母さん帰ってくるだろ?』
『うるさい!もうはやく行っちゃいなよ!』
大会当日になるたびこんなやり取りがあった気がする。でも確か愛梨が中学生になってから突然なくなったんだよな……
あの時の愛梨が寂しそうにしていたのをようやく思い出した。なら今も寂しそうにしているのか?
あの時の俺は一度も振り返らなかったが、今くらいは振り返るべきだろう
扉から手を離し、一呼吸置いて後ろを振り返った
「…はぁ…なに泣きそうな顔してんだよ…」
そこには今にも泣き出してしまいそうな愛梨が居て、それでもゆっくりと手を振っていた
「へっ…べ、別に…」
「一緒に行くか?とりあえず支度からだな」
「へっ?…あ、いや二人の邪魔になっちゃうし!」
「おまえはルナが邪魔だなんて言うと思うのか?」
「…い、言わない…」
「だろ?なら待ってるから一緒に行くぞ愛梨」
「……あ、ありがとう。おにいちゃん…」
「あいよ」
一緒に行きたいけど俺にもルナにも遠慮して我慢してたのか。気付けてよかった
「なるほどな。行ってほしくなかったから一緒に寝てたのか……」




