63話 ここに居ない誰か
♢♢♢
「うるさくてごめんなさい。…なかなかペットボトルのキャップが外れなくて……えっと、その…」
俺の方をチラチラとみて"開けてください"と瞳で訴え掛けてくる
「おまえ今までどうやってペットボトルと関わって来たんだよ…」
「ち、違うんです!コレが硬すぎるんですよ〜!ほら良くあるじゃないですか〜」
分かりやすく甘えてくる様になってきた気がするな
「貸してみ」
「…はい」
「いや硬すぎだろ」
ちょっと捻ってみたがびくともしない。いくらなんでも不良品すぎる
「おらあああぁぁ!!」
思い切り力を込めてキャップを捻るとようやく空いたレベルだ。女の子の力でこれは厳しいかもしれない
「わぁ〜凄いですね!ありがとうございます!」
「どういたしまして」
どこか達成感を感じてペットボトルを手渡した。なんだったらかなり満足している
「さすがはれん先輩ですねー!」
「……ん?俺の名前知ってたのかよ」
そーいえば非常識な事に今まで名乗ってなかったな
「いえ、今日知りました…」
「あ〜ルナの奴が連呼してたもんなー」
「…ちなみに先輩とあの子ってどういった関係なんですか?」
「妹の友達。そんだけ」
「それは前にも聞きましたよ〜!そうじゃなくてですね〜!なんとゆーかですね〜……」
「なんだよ。どうした?」
珍しく西城がハッキリしない。別に時間はあるし気長に待つか
「その…あの子が先輩に手を出されたかの様な事を言っていたので…ただならぬ関係なのかなって…」
ギクゥ!
待つんじゃなかった。話題変えときゃよかったわ…
「俺が女の子に手を出すとか…あ、あり得ないだろ」
あまりに突然なパンチに目が泳いでしまう…
「……どもってますよ……せんぱい…」
「そろそろ行くか」
この話題はよくない。俺の人間性を疑われる…
そもそもおねだりされても一線は超えてない俺を評価してほしいまであるが
「……はーい。分かりましたよ〜…」
話を逸らされたらか、それとも幻滅したからか、西城の返事は沈んでいた。
だが恐らく後者だろう。バイト期間で得た信用が崩れ去る音が聞こえる
まぁ、多少は大丈夫か?学校が始まればすぐ忘れるだろう
♢♢♢
「もう桜坂駅も近いな」
駅前のロータリーが見えてきた。すぐ近くにあるコンビニの明かりが目印だ
ちなみにここに至るまでの会話はない。まぁ当然といえば当然か
「はい、あっという間でしたね」
俺は長く感じたが、そんな事は言わなくていい
「だな」
「ここで大丈夫です。ありがとうございました」
「お疲れ。じゃあな」
背中を向けて、腕だけふりふりして帰る事にする
歩幅を合わせて歩いていたからか、かなり時間が掛かったな。もう遅いしサクッと帰るか
「あ、あの!…」
「なんだ?」
常識人なのでちゃんと振り返って話を聞く
「先輩が手を出してないって言ってるので、ちゃんと先輩の事信じますね!ではお疲れ様でーす!」
グサッと心に刺さる言葉を早口で捲し立てて西城は帰っていった
「…なんか、罪悪感あるな…」
♢♢♢
「ざこにぃお帰り……遅かったね………」
家に着いてリビングの扉を開けると、死んだ顔をした愛梨がソファで横になっていた
「どうした愛梨。顔真っ青だぞおまえ」
「あはは…そりゃそうだよ……だってルナちゃん帰っちゃったんだもん」
「まあ明日から学校だしなー」
なら今夜はゆっくり寝れるな。最高すぎる
「なんでちょっと嬉しそうなのざこにぃ…」
「そりゃおまえアレだろ。今日から仰向けで寝れるし、毎晩おねだりされる事もないしな」
瞳をうるうるさせて、見上げながらおねだりしてきたもんな…耐える俺の身にもなって欲しいわ
「おねだり?なにそれ?」
「…んーいや、なんでもない。それより今日は早く寝るぞ」
ルナは愛梨に嫌われたくないだろうし、おねだりの件を自分から言う事はないか…
誓約書の内容からして気付かない愛梨も大概だが
「はーい」
「じゃちょっと先風呂入るな。着替えもってこよ」
「あっ!着替えで思い出した!」
突然大声を出す愛梨に思わず振り返ってしまう
「なんだよ。どしたん?」
「ルナちゃんがざこにぃのTシャツ持って帰っちゃったー」
「…………え?どーゆうことだ?」
俺も変態だがルナも変態なのどうなんだホントに…
「えっ理由は聞いてないよ?」
「いや理由云々の前に、持って帰るの止めなさい」
「ルナちゃんの行動にケチつける人間になりたくないんです」
一瞬言いこと言ってるかと思ったけど全然よくない
「俺の友達がおまえのパンツ持って帰っても同じ事言えるのか?」
「ざこにぃ友達居ないじゃん……」
「………お……おう…」
何も言い返せなかった俺は、敗北感を味わいながら自分の部屋に向かった
♢♢♢
風呂も晩御飯も済ませてベッドでスマホをいじっているとあっという間に23時だ
「もう寝るか…」
部屋の明かりを消して再びベッドに横になると、俺は仰向けではなく、ルナが居た方を向いていた
無意識だろうか?…腕すらも、ここに居ない誰かをたぐり寄せていた
「…はぁ…アイツの作戦が効いてるな……」




