62話 ふん!
♢♢♢
「ん゛……んあ?………知らない天井だ…」
一度は言ってみたかった言葉を使う日がくるとは。でもホントに知らない天井だ
「私も先輩も、ソファで横になった事なんてないですからね。お体は大丈夫ですか?」
居たのか西城。なら普通に休憩室だわココ。しかも変な発言を聞かれたのが恥ずかしい
「あぁ…なんとか大丈夫だ。そんな事よりバイトに戻らないと。最終日がこんな終わり方はマズイだろ」
「…えっと…その……ですね。先輩…」
西城は俯いて何かを言いたそうにしている…
「どしたん。話聞こか?」
「もうバイト終わっちゃいましたよ?」
「…………え!?」
部屋の端に掛けられている時計を見ると、時刻は17時をとうに過ぎていた
「そうか……そんなに意識飛ばしてたのか俺…」
「…はい。それよりどこか痛むとこはありますか?」
「大丈夫だ、たぶんない」
起きあがろうと体を起こそうとした時、背中がひんやりしている事に気付いた
「ん?湿布じゃんこれ」
「店長さんが持ってきてくれたんですよ?」
「そっか。あの店長を初めて見直したわ。とりあえず最後に挨拶してくるわ」
「私は先に外で待ってますね〜」
ふりふりと手を振って、いってらっしゃいをしてくるのが少しあざとく見える
「先帰ってていいぞ?」
「今日くらいは一緒に帰りましょうよ〜」
「いや、学校で会えるだろ」
そう、明日から学校だから別にいつでも会える
「まぁまぁ、いいじゃないですかぁ〜」
本当に俺と帰りたいと思っていそうな笑顔だ。何か話したい事でもあるのか……
「分かったよ。じゃあちょっと外で待っててくれ」
「はーい」
「……いてて…」
まだ痛む背中を無理に動かして、休憩室の扉を開けた
♢♢♢
店長は厨房ではなく、窓際の席で黄昏ていた。なんかそーゆうの全然合ってないなこの人…
「起きたね。体は大丈夫かい?休憩室が凄い揺れていたよ」
「あー、ちょっと色々あってさ」
もう完全に友達感覚なのどうなんだ…あー背中いて
「また来てくれてもいいからね。君なら大歓迎だよ。ははは」
「いやムリっす」
なんか口元だけ笑ってるけどムリだっての。これまでの客のインパクト考えてくれよ
「……そうか…」
「そーいや店長ってケツ掘られてもそんな無表情なのか?」
「当然だよ」
「おげえぇ………いえ、なんでもないっす…」
「……………」
その懇願する様な瞳やめて!この人ホモだったのかよ。こわっ!
「まぁそんな事はどうでもよくてさ、湿布ありがとな店長」
「湿布?なんのことかな…」
「…………なんでもない…」
西城か、別に隠さなくてもいいんだが。後でお礼言っとくかな。挨拶も終わったしもう帰ろ
「じゃ、さいなら」
「もう少し話でも「あ、いいです。さいなら」
ケツ掘られても無表情貫ける奴と話とかできないな
♢♢♢
店を出て周囲を見渡すが、西城の姿が見えない…
「いや帰ってるやん…」
「わっ!」
と思っていたが、後ろから肩を掴んで驚かしてくる人がいた
「何してんだよおまえ」
「えぇ〜たまには甘えてもいいじゃないですか〜?」
後ろを振り返ったらほっぺを膨らまして抗議してくる
「……はよ帰るぞ…」
無意識なのか?西城が普通にボディタッチしてくるとは。…初めてじゃないか?
「あの子は甘えてもいいけど、私はダメってことですか?」
「いやダメとは言ってないが…」
棘のある言い方に、嫉妬かなんかなのか?って聞きたいがそーゆう事言うなって言われてるしな
「冗談ですよ、帰りましょっか〜」
「あいよ」
♢♢♢
夕日が差す道を二人で歩いていく。今のこの状況は少しだけデートみたいに思える
西城の横顔をチラッと覗き見すると、目が合うがすぐに逸らされてしまう
「…どうした?」
「えっ、えっとですね。喉乾きませんか?」
「少し先に古びた自販機あったろ。なんか買うか」
「はい」
少しだけ歩くと明かりが見えてきた。相変わらず立地が悪い。こんな所誰も来ないだろうに…
自販機の前に立って財布を取り出すと、西城も財布を取り出そうとしていた
「俺が出すからいい」
「いえ、申し訳ないので出します」
「湿布の礼な」
「あ〜……はい!ありがとうございます!お茶で大丈夫でーす!」
こーゆう時は素直だな。普通にいい子だ
「了解。さて俺は……何にする…………」
だが俺は人生で初めて見る飲み物を目にした
おしるこサイダー!300円!
「コレにしよ」
即決だった
西城にお茶を渡して、おしるこサイダーの缶をプシュッと開ける
「えっ!?歩きながら飲むんですか?」
「当たり前だろ」
そして俺はおしるこサイダーを口に運ぶ
「ゔおおえっ!クッソまずいぞコレ」
あまりのマズさにその場で膝から崩れ落ちた
おまけに意識が飛びそうになってきたし、臭すぎるジジイとはまた違うインパクトがあるぞコレ
「えっ、先輩大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ。………少し休憩していこう……」
「…は、はい…」
最近やりたい放題しすぎてバチが当たったのかもな
そこら辺の壁にもたれ掛かって少し目を瞑る
「ふん!」
やっぱり変なのは買うもんじゃないな…
「ふぅん!」
勿体無いけど最悪捨てるしかないか……
「ふぅぅぅんん!」
ふん!ふん!うるさくて思わず目を開けてしまった
「いやうるさ。沖縄県民かよ」
あろうことに、西城はペットボトルのキャップに苦戦していた




