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107話 泊まってこ!

♢♢♢



俺は今、女の子を抱きしめながら頭を撫でている


「悪かったって。やり過ぎたよ」


「ッ…ゔぅ…うぅ…」


嗚咽混じりに泣いている訳ではない。軽く半泣き程度だが、それでも優しく頭を撫でる


撫でながら自分の腕とズボンを見下ろすと、かなりびちゃびちゃで、同様に屋上の地面も放射状にびちゃびちゃになっている


全部コイツから出た液体です。はい。俺が汚した訳じゃないです


「うぅ…さいてー…ぐすっ…」


「最低でもなんでもいいが、それよりおまえ約束破ったよな?」


「…え?…」


まだ泣いてるというのに、俺はそんな事なんてお構いなしに問い詰める。もちろん怯えないよう優しく


「…え?っじゃなくてな。よく俺の制服見てみろよ。おまえが耐えられなかったから俺がおしっこ漏らしたみたいになってるじゃねーか」


「…そ、それは…だって…耐えれるワケ…」


「言い訳するならもう一回するが?」


抱きしめたままの川島の眼前に、中指をクネクネさせてチラつかせていくと、顔がみるみると真っ赤になっていった


「…ッ…」


いやなんか言って欲しい。そんなガチな反応されても困る。ハマってないとは思うが


「俺の言う事ひとつでも聞けなかったからちゃんと西城のことどう思ってるか話すって約束だよな?」


「…うん」


夕日の中でも分かるくらいに顔が赤い。照れではなく羞恥だというのは一目瞭然だ


「とりあえず場所変えるか。おまえも落ち着かないだろうしな」


「…うん」


川島を引っ張りながら屋上のドアを開けると、誰かが屋上に向かって来ているのか、足音が徐々に近づいてくる


荒々しく、そして怒りが込められたかのように豪快な足音だ。きっと川島の喘ぎ声がうるさ過ぎたせいだろう


そして今のこの状況を見られれば、俺の仇名はレイパーからションベンレイパーに格上げされることだろう。でもそれは正直困る



「おまえはここに居ろ。何を聞かれても絶対に一人だったって答えろよ。いいな?」


「えぇー…そんな義理ないんよねー」


「言うこと聞かないと西城にある事無いこと言うからな。いいな?」


「んんー……分かった…」


「じゃさいなら」


「えっ!?ちょ!置いていくん!?マジ!?」


「シー!静かにしろよ扉開いてんだから」


「襲われたらどうするん?…」


「男だったら俺が守ってやるから安心しろ」


「………」


「おい聞いてんのか?とりあえず校門前集合な」


「………」


反応がないなら時間の無駄だと割り切り、扉を出てすぐに真横の踊り場の手すりにしゃがみ込んで走ってくる人間を待った。


するとすぐに下から足音が跳ね上がってくる。焦りと怒りが抑えられないのか、凄く力強い足音だ


でも大丈夫。今隠れている位置は走ってくる人間にとっては死角だ。しかも扉が開いている上にその先には女子生徒


左下を見ることは無いハズ……たぶん


そして最後の段を蹴る音がして、人影が一気に真横を横切る。視線は前だけに向いていて、開いた扉だけを見つめて走り抜けていった


女子生徒だ。てか後ろ姿でも分かる。九条だ


九条が川島に気を取られているうちに、俺は足音を鳴らさないよう細心の注意を払い、ゆっくり階段を降りて死角で聞き耳を立てた


「はぁ…はぁ…はぁ…かわ…しま…さん……」


「か、会長?なんでこんなトコに?」


九条の奴、かなり全速力だったんだろうか。息が絶え絶えだ。アレは暫く会話できないと思うが


「はぁ…はぁ……す、少し待ってちょうだい…」


「とか言って目だけはキョロキョロしてんじゃんかいちょー」


え?…目だけはキョロキョロしてるってことは誰かを探してるのか?なら俺の声が聞こえたって事か?あんな小さい声ですら?


つまり九条から見たら俺と川島が屋上でセッ◯スしてるものだと勘違いしてブチギレダッシュして来たって事か?


でもその解釈なら九条が俺のことを……いや、そんなことはないか


「ふぅー…もう大丈夫よ。それで?貴女一人?」


「そうだけどー?ちょうど帰るトコー」


「ここで何をしていたの?」


「え〜…なんもしてないんよー」


ウソ下手すぎか。なんでちょっと考えてるんだ


「ここに…えっと…そうね。…蓮くんとか来なかったかしら?」


「来てないー」


「そう。ごめんなさい川島さん…少し失礼するわね」


「んにゃ!」


何が起きてるのか分からない。手すりの先に顔を出したいが、それは危険か


「…え…濡れて…ない…」


「か、会長ってば変態かー!」


なるほど…スカートを捲ってパンツが濡れているかを確認したのか。これは脱がしてからほじくったのが功を成したな


「…変態じゃないわよ。それとフェンスの周りを見たいから、ちょっとどいてもらえないかしら?」


フェンスの周りには川島から出た液体が大量に飛びちっているはず


「す、ストップ!会長一緒に帰ろー?ね?ね?」


「ちょっ…ホントに邪魔よ。暑苦しいし貴女と話すことなんてーー


途中で声が遠のいて行ってなにも聞こえなくなった。盗み聞きもここまでらしい


「まぁ。恥かくのはアイツだしいいか」



♢♢♢



「そんな怒んなってせいらちゃん」


「誰でも怒る……だって“この事は黙っておくわね“…って言われて…」


しかし本当に一人で校門に来るとはな。強引に九条と帰れば俺の追求は免れたのに…


「よかったじゃねーか。おまえが一人で喘いでた事黙ってくれるんだろ?」


自転車を引っ張りながらそう言うと、川島は俺を睨み付け、低い声で抗議してくる


「…誰のせいだと思ってるん?…」


かなり怒ってるな。怒ってるけどもう18時回ってるしコイツの相手してる時間なんてない


「へいへい俺のせいですよ。で、おまえ家どこ?送ってくけど」


「…聞きたい事があったんじゃないん?」


「おまえどうせ話してくんないだろ。時間勿体無いからもう明日でいいや」


「1万」


「……………は?」


「1万で教えてあげるー。ほらはよして」


手のひらを自転車の目の前に持ってきて、そのまま俺を見つめてくる。しかし何故だろうか。急にコイツから俺と同じ屑の匂いがしてきた


「…何言ってんだ?たかだかおまえの気持ちひとつに1万払う価値なんてないだろ」


「どうしてのあちゃんと一緒に居れなくなったのかも教えてあげるから」


「そこはどうでもいいな。で、おまえは1万貰って何に使うんだ?返答次第では乗ってやるぞ」


「貢ぐ」


「……………は?」


迷いもなくあっけからんと質問に答えるその表情は、嘘偽りのないものだと裏付けられていた


そもそも目を見たら分かる。コイツは嘘をついてないし、本当に貢ぐつもりなんだろう


「誰にだ?」


「…か、彼氏…」


少しだけ照れているようだが、恐らくこれも嘘じゃない。てか高校2年で彼氏に貢ぐとか頭飛んでるだろ


ルナも俺と出会ってなかったら一年後にはこうなっていたのか?もしそうなら出会えてよかったと思えるな


「おまえな…….彼氏の影響か知らんけど堕ちるとこまで堕ちてるぞ?」


「レイパー君には関係ないんよね〜。しかも未だに自己紹介すらしない人だし」


「しなくてもおまえ俺のこと知ってるだろ」


「…どうしてそう思うの?…」


「さっきの九条との会話を聞いてたんだが、俺の名前が出た時おまえ普通に会話してたろ。あーゆう時は蓮って誰?って言うのが当たり前なんだよ」


「あっちゃ〜」


天を仰ぎながら自分の顔を手のひらで覆う様はまさしくやらかした人間そのものだ


「じゃ、帰るわ。おつかれ」


そう言って自転車を漕ぎ出そうとすると、どうしてかは分からないが後輪がめっちゃ沈んだ


「…デジャヴすぎる…」


「なに?何か言った?」


「おまえ彼氏に悪いと思わんのか。降りろ」


「明日もしつこく付き纏われたらイヤだし、家まで付いていって1万貰おうかな!」


「俺は話聞いてないから払うつもりはない。あとおまえの親が心配するから降りろ」


こんなん学校で聞いて1万ちょろまかすの一択だ。わざわざ家まで連れて行って話聞かされたら詰みだ


「どうせ学校で話してもお金払わんし?」


「…うぐっ…」


エスパー多すぎて草


「ほらやっぱり!」


「いいから降りろ。今から家帰って長話聞いた後におまえを家まで送りたくない」


「うーん…」


「降りる気になったか?」


後ろに座っているから表情までは確認できない。でも何か考えがあるようだ


「愛梨ちゃん?だっけ。妹いるんよねー?」


「西城から聞いたのか。まぁ居るが…」


「うーん……なら大丈夫かな!泊まってこ!」


「ダメだ。ありえん降りろ」


どういう思考回路でそうなったのか分からないが、そんな今すぐに貢ぐ為の1万円が必要か?


「そうは言ってもね〜、家帰って長話聞いた後に家まで送りたくないって言われちゃったんよねー」


「問題はそこじゃない。おまえ彼氏居るだろって話」


「彼氏も家に行くくらいならギリ許してくれるって!彼氏の為にお金貰いにいくんだしさ?」


「あー……そっか…ならもういっか…」


「そうそう!はやくはやく」


俺は呆れながらも自転車を漕ぎ始めた。そしてそれと同時に察した事がある


推測にしかならない事だが、川島が彼氏にゾッコンでも彼氏君はそうじゃないんだろう。金を運んでくれる何かだと思っていることだろうな


指先で確認しただけだが、処女のまま放っておかれてるのがその証拠だとも言える。こーゆうのをなんて言うんだったか?…そう。アレだ


「…可哀想だな…」


自転車を漕ぎ出したこともあって、俺の独り言が聞こえなかったのは幸いだったと思う事にしよう

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