94. 骸骨農夫
XCIV
LE SQUELETTE LABOUREUR
二部構成 4行詩節 x3 + x5 脚韻ABBA
⚠解剖図の詩につきグロ注意
I
解剖学の図版類も数ある中に
埃っぽい河岸に引き摺られる何か
または数多の亡骸のような書物が
眠るは古代のミイラのように、
Dans les planches d’anatomie
Qui traînent sur ces quais poudreux
Où maint livre cadavéreux
Dort comme une antique momie,
図案ははなはだ重々しい
加えてかの老画家の博識、
主題はむしろ悲しむべき、
声明これ有り「美しい」、
Dessins auxquels la gravité
Et le savoir d’un vieil artiste,
Bien que le sujet en soit triste,
Ont communiqué la Beauté,
と見れば、完璧により近づく
これらの神秘的な恐懼、
耕作者のように土鋤く、
「皮剥ぎ立像」や「全身骨格」。
On voit, ce qui rend plus complètes
Ces mystérieuses horreurs,
Bêchant comme des laboureurs,
Des Écorchés et des Squelettes.
II
この地面を掘り起こすのは、
諦めた葬られた農民たち、
努力全力かけるは脊椎、
あるいは剥き出しの筋肉か、
De ce terrain que vous fouillez,
Manants résignés et funèbres,
De tout l’effort de vos vertèbres,
Ou de vos muscles dépouillés,
なあ、どんな奇妙な収穫なのか、
集団墓地から攫われた囚人たちよ、
出るのか、どの農家からだよ
要るのか、納屋に詰め込むのが?
Dites, quelle moisson étrange,
Forçats arrachés au charnier,
Tirez-vous, et de quel fermier
Avez-vous à remplir la grange ?
お前は(あまりに過酷な運命の
恐ろしく明確な紋章を!)
示したいのか、墓穴に於ても
約束された眠りすら安全ではないと。
Voulez-vous (d’un destin trop dur
Épouvantable et clair emblème !)
Montrer que dans la fosse même
Le sommeil promis n’est pas sûr ;
我等にとって、「虚無」は裏切者とも。
全てが、「死」さえも、我等を欺くと、
そして我等は、無限にずっと、
無念!私もそうなろうとも
Qu’envers nous le Néant est traître ;
Que tout, même la Mort, nous ment,
Et que sempiternellement,
Hélas ! il nous faudra peut-être
どこかの見知らぬ地方にて、
気難しい地球の皮剥ぎかと
また重い耜を押し込むのかと
我等が血まみれの裸足もて?
Dans quelque pays inconnu
Écorcher la terre revêche
Et pousser une lourde bêche
Sous notre pied sanglant et nu ?
訳注
美術解剖学の草分けともされるアンドレアス・ヴェサリウス(Andreas Vesalius、1514 - 1564)『ファブリカ』の影響が指摘されている。それはそれとして、訳者は他に、耕作する人体の解剖図を彩り豊かに様々に描いた図版集を見た覚えがあるので、おそらく詩人は自分の見たままに歌ったまでであろうと考えている。ただ、その素になったであろう図版集が、今のところ見つかっていない
planches: 女性名詞 planche(英語 plate)の複数形。向こうの習慣で複数形だと思って読み飛ばしていたら、「単数ではない」意味があるらしい
quais: 「波止場」「桟橋」「プラットホーム」などと訳される名詞。魚市場となる河岸に、魚を引き摺り並べ立てた有様をいうものか。結果として「どっちも死体じゃねえか」とは、言わぬが花というものか
Dort: 「眠っている」の係るのが「本」であって「ミイラ」でないのは、思わず確かめ直したが、誤訳誤記ではない。また、当初「眠る」と訳したところが、dort は dormir の「直接法現在」という変化型で、どうやら「眠っている」に近いらしい
d’un vieil artiste: ヴェサリウス『ファブリカ』挿絵はティツィアーノの工房に依頼され、多くは弟子ヤン・カルカルが描いたとされたが、老画家自身も描いているらしい
ont: avoir の「現在形三人称複数形」(でいいのか?フランス語面倒臭ぇ…)。英語の have に近く「持っている」と訳されるも、この場合「…とされる」の意味合いだろう
communiqué: 翻訳機は「伝わる」と訳してくれるが、「コミュニケ」としか読めない。辞書を引いても「コミュニケ」「公式発表」とかばかりだし…
la Beauté: そのまま#17. la Beauté の題名だし、#11. HYMNE A LA BEAUTÉ 題名の一部だし、#6. LES PHARES, #36. LE BALCON, #88. A UNE MENDIANTE ROUSSE でも既出なので、訳語は「美女」とかに統一すべきではあろう。押韻を無視できるなら
Écorchés: この一語で「皮を剥がれた人々」をいい、そのような図像、言わば人体模型を絵に描いた美術品目がある。語源は後期ラテン語の excorticare で、cortex( 外皮、樹皮 )に由来する
Tirez-vous: 以下、次節冒頭まで -vous が続くので、頭韻に近いことをやっているわけだが、再現は困難
la terre: 「大地」とも訳すが、「大地の皮剥ぎ」としては迫力が足りないと感じる




