71. 幻想的な銅版画
2版LXXI、3版LXXIII
UNE GRAVURE FANTASTIQUE
憂鬱詩群 対句
本作については元ネタがモーティマーの銅版画『青褪めた馬に乗る「死」』と知れているので、Wikimedia から持ってきた。その題材は、新約聖書から。
ヨハネの黙示録6章
8 そこで見ていると、見よ、青白い馬が出てきた。そして、それに乗っている者の名は「死」と言い、それに黄泉が従っていた。彼らには、地の四分の一を支配する権威、および、つるぎと、ききんと、死と、地の獣らとによって人を殺す権威とが、与えられた。
この特異な妖怪に付くのはトイレではない、
骸骨の額に張り付くのは到底見たくもない、
血なまぐさい謝肉祭の匂いのティアラ戴く、
拍車も鞭もないのに、馬は吐息も荒々しく、
見るからに亡霊、黙示録的なバラ、
まるで癲癇患者、鼻から鼻水垂らしながら。
連れ立ち宇宙空間に沈みゆく、
危険な蹄で無限を踏み躙る。
Ce spectre singulier n’a pour toute toilette,
Grotesquement campé sur son front de squelette,
Qu’un diadème affreux sentant le carnaval.
Sans éperons, sans fouet, il essouffle un cheval,
Fantôme comme lui, rosse apocalyptique,
Qui bave des naseaux comme un épileptique.
Au travers de l’espace ils s’enfoncent tous deux,
Et foulent l’infini d’un sabot hasardeux.
騎手は燃え盛る剣を振り回す
駒は名もなき群衆を踏み潰す、
駆け巡る、自分の屋敷を検める王子のよう
地平線も見えない広大で冷たい墓地を、
そこには、くすんだ白い太陽の許に横たわっている、
古今東西の人々が、その光をしらじらと浴びている。
Le cavalier promène un sabre qui flamboie
Sur les foules sans nom que sa monture broie,
Et parcourt, comme un prince inspectant sa maison,
Le cimetière immense et froid, sans horizon,
Où gisent, aux lueurs d’un soleil blanc et terne,
Les peuples de l’histoire ancienne et moderne.
訳注
toilette: 写し損ねかと仰天してプーレ・マラシ版を見たが、綴りに間違いはない。初っ端から「死」をトイレに例えた詩人など、ボードレール以外に先ず在るまい。できるだけ正確に訳された阿部良雄氏でさえ「トイレ」とは訳してはいない。この驚きを読者にも味わって貰いたく、ここはそのまま訳すことにした。
Grotesquement: そのまま「グロテスク」と訳すべきところ、上記「トイレ」を優先しつつ押韻するのに「グロテスク」は使えず、止むを得ず意訳とした。
cavalier: 英語だと「騎士」及び騎士階級を指し、Cavalier なら「王党派」になる。元になったフランス語にそんな意味合いはなく、普通に「騎手」で良さそうだ。




