67. ミミズク
2版LXVII、3版LXIX
LES HIBOUX
憂鬱詩群
ソネット形式 脚韻ABBA CDDC EEF GFG
黒いイチイの木陰に潜行中
ずらり木菟、ぴしりと列び
かくもあたかも異邦の神々、
赤い目をやる。瞑想中。
Sous les ifs noirs qui les abritent,
Les hiboux se tiennent rangés,
Ainsi que des dieux étrangers,
Dardant leur œil rouge. Ils méditent.
皆してじっと立っている、
陰鬱なる時刻まで。
傾く太陽押しのけて、
暗黒が塗り潰していく。
Sans remuer ils se tiendront
Jusqu’à l’heure mélancolique
Où, poussant le soleil oblique,
Les ténèbres s’établiront.
その態度に賢者は悟る
まことに此の世で恐るべきもの
喧騒であり動揺であるか…
Leur attitude au sage enseigne
Qu’il faut en ce monde qu’il craigne
Le tumulte et le mouvement ;
過ぎ行く影に酔う男が
必ずや天罰を喰らうのは
場所を変えようとするからだ。
L’homme ivre d’une ombre qui passe
Porte toujours le châtiment
D’avoir voulu changer de place.
訳注
Dardant leur œil rouge. Ils méditent.: この行は、居並ぶフクロウに於て、ある者は目を見開き、ある者は目を閉じている描写だと思う。目を開いて瞑想するかのような訳例を見かけるけれど、それは無理だ。
hiboux: 「梟」「ミミズク」を指す hibou の複数形。発音は「誹謗」より「異風」に近い。フクロウの扱いはギリシア神話とローマ神話では正反対と言ってよく、智慧の女神アテーナーの象徴とされるフクロウに対し、オウイディウス『祭暦』には、アルバ・ロンガの王プロカ幼少の砌、フクロウに血肉を喰われ死に瀕した話が出てくる。つまりローマ神話に於けるフクロウは、人を喰らう吸血鬼の原型である。ところが吸血鬼をも歌うボードレールが、本作に示す態度は、ギリシア神話のそれであるのは興味深い。




