64. 秋のソネット
2版LXIV、3版LXVI
SONNET D’AUTOMNE
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ソネット形式 脚韻ABBA CDDC EFF GFG
私に語る、あなたの瞳。水晶のように澄んだ、
「あなたに、変な恋人に、私のどこがお気に召したの?」
……お静かに、魅惑的に!何事も苛立たしい我が心も、
その素直さだけは例外。古代の動物的なのが、
Ils me disent, tes yeux, clairs comme le cristal :
« Pour toi, bizarre amant, quel est donc mon mérite ? »
— Sois charmante et tais-toi ! Mon cœur, que tout irrite,
Excepté la candeur de l’antique animal,
地獄の秘密を見せたくはない、
長い眠りの手が私を誘う子守唄も、
燃える炎が書かれた黒い伝説も。
情熱は嫌い、精神的に痛い!
Ne veut pas te montrer son secret infernal,
Berceuse dont la main aux longs sommeils m’invite,
Ni sa noire légende avec la flamme écrite.
Je hais la passion et l’esprit me fait mal !
優しく愛し合おう。哨舎の中の愛の神は、
闇の中、待ち伏せて引く、必殺の弓を。
私は知っている、その古い武器庫にある飛び道具を。
Aimons-nous doucement. L’Amour dans sa guérite,
Ténébreux, embusqué, bande son arc fatal.
Je connais les engins de son vieil arsenal :
犯罪、恐怖、そして狂気! ……青白いマーガレットよ!
君は私と同じく秋の太陽ではないか、
なぁ、我が白く、我が冷ややかなるマルグリットよ?
Crime, horreur et folie ! — Ô pâle marguerite !
Comme moi n’es-tu pas un soleil automnal,
Ô ma si blanche, ô ma si froide Marguerite ?
訳注
l’antique animal: 知恵の木の実を食らう前のイヴ
noire légende: 最近でいう「黒歴史」に近い感じか
L’Amour: Le Amour の短縮形。amour「愛」は男性名詞なのに、複数形では女性名詞だったりとややこしい。
guérite: 哨舎とは、歩哨が詰める見張り小屋。マルセイユ版タローカード大アルカナ6番「恋人」では、目隠しをした愛の神が弓を引く。
marguerite: 「ヒナギク」と訳されてしまうが、マーガレットの和名は木春菊といい、種別はモクシュンギク属 Argyranthemum モクシュンギク A. frutescens となる。ヒナギク属 Bellis ヒナギク B. perennis とは別種。
Marguerite: ゲーテ『ファウスト』の恋人マルガレーテ。ファニー・エルスラーはバレエ『ファウスト』のマルガレーテを演じた踊り子として有名と聞いていたので、その画像を探してきた。てっきりグノー『ファウスト』(1858)のバレエ音楽と思い込んでいたのに、このリトグラフは1853年製なので別物。Fanny Elssler u. Herr Carey in dem Ballete "Faust" in der Scene "Die sieben Todsünden.".とあり、"Die sieben Todsünden."とは「七つの大罪」であるところ、この名を含むバレエ音楽はクルト・ヴァイルの作品以外見当たらない。ベルリオーズ (1803-1869)『ファウストの劫罰』(1846)初演は散々で、作曲家の死後に漸く評価されるに至ったから、それより早く薨去したボードレール(1821-1867)が見た可能性は低い。年代的には、シューマン『ゲーテのファウストからの情景』(1853)がぎりぎり間に合うけれど、ヒロインはグレートヒェン Gretchen とされ、マルガレーテ Margaretta とは呼ばれない。というわけで今のところ、使われた音楽は不明であるものの。詩人が歌ったマルグリットとは、性格俳優的な役をよくした踊り子ファニー・エルスラー踊るところのマルガレーテに相違ない。




