61. 外地生まれの貴婦人へ
2版LXI、3版LXIII
À UNE DAME CRÉOLE
1841 : sans titre 1841-10-20 : manuscrit dans une lettre à Autard de Bragard
1845 : À une Créole 1845-05-25 : L’Artiste
その他のヒロイン詩群
ソネット形式 脚韻ABAB CDCD EEF GGF
太陽が愛撫する香り豊かな国で、
私は知り合った、天蓋なす赤紫に染まる木々と
目に物憂げの雨降らすナツメヤシの木の下で、
知られざる魅力ある外地生まれの貴婦人と。
Au pays parfumé que le soleil caresse,
J’ai connu, sous un dais d’arbres tout empourprés*1
Et de palmiers d’où pleut sur les yeux la paresse,
Une dame créole*2 aux charmes ignorés.
その顔青白く温かく、魅惑的な黒髪
首に高貴な雰囲気ふわりと。
狩人のように歩く、すらり背高く細身
浮かべるは微笑みを、目には自信を。
Son teint est pâle et chaud ; la brune enchanteresse
A dans le cou des airs noblement maniérés ;
Grande et svelte en marchant comme une chasseresse,
Son sourire est tranquille et ses yeux assurés.
もしも奥様、遊ばされたなら、真の栄光の国に、
どうぞセーヌや緑なすロワールのほとりに、
居並ぶ古来の邸宅飾るにふさわしき美貌、
Si vous alliez, Madame, au vrai pays de gloire,
Sur les bords de la Seine ou de la verte Loire,
Belle digne d’orner les antiques manoirs,
貴女はきっと、ひっそりと隠れ家に籠もられ、
詩人共は皆して、ソネットを千も心中に芽吹かせ、
大きな目をして、貴女の黒目よりも素直になろう。
Vous feriez, à l’abri des 、ombreuses retraites,
Germer mille sonnets dans le cœur des poëtes,
Que vos grands yeux rendraient plus soumis que vos noirs*3.
訳注
*1 empourprés: 訳語が「紫一色」になったり「真紅に染める」だったり、一定しないから語源を見ると「pourpréにする」事のようだ。pourpré とはどんな色かと色見本を見ると、プールプル(Pourpre)#c0347a という、どうやらパープル(Purple)#9b68a9 と同根の色がある。つまり「紫」「真紅」とも間違いで、「プールプル色に染め上げる」と言わなければならない:(;((ɔ°ө°c));: 語感が気に入ったので採用したいのだけど、たぶん誰にも理解されないので、涙を飲んで「赤紫」とした。
*2 dame créole: 植民地生まれのフランス人を、本土の者はクレオールと呼んだ。オランダ人に対する「ボーア人」や、かつての本邦で「外地生まれ」と称された人々に近い。「外地」というのは、日本人の耳に「植民地」なる響きは馴染まなかったからであるが、北海道開発の際も本州側を「内地」と呼んでいたので、日本人の「外地」概念は「内地以外」以上のものではない。逆に言うと、フランス語的には「植民地生まれ」以外の何者でもなく、そのように訳すべきではある。
その頭に付く dame は、英語では lady に当たり、その場合は lord の女性版つまり爵位を持つ女性の称号ともなる。そこで表題を英訳すると To a Creole Lady となり、詩人にとって表敬の対象であることを示している。
*3 noirs: noir の複数形になっているからか、「黒人たち」「黒人召使いたち」とする訳例あり。直前に詩人共の yeux(目、両眼)があるので、「黒い両眼」と読んでみた。




