58. 午後の歌
2版LVIII、3版LIX
CHANSON D’APRÈS-MIDI
その他のヒロイン詩群 脚韻ABBA
「芸術詩群」に続く「恋愛詩群」は、この後もう少し続くのだが、相手の女性がよく判らない。ので、以下7篇を研究者は「第二義的女主人公詩群」と呼んでいる。しかし自分で書いてみると、この呼び方は嫌な感じだ。いや、どこの2号さんだよ……しかし全面的に変更してしまうと意味がないので、少しだけ変えることにした。
意地悪そうな眉毛のせいで、
君のお顔は見た目おかしく、
それも天使のものではなく、
蠱惑的な目をした魔女で、
Quoique tes sourcils méchants
Te donnent un air étrange
Qui n’est pas celui d’un ange,
Sorcière aux yeux alléchants,
見た目から軽そうな、貴女を崇める
わが恐るべき情熱よ!
共に在らんと狂信の
司祭をさながら、偶像拝める。
Je t’adore, ô ma frivole,
Ma terrible passion !
Avec la dévotion
Du prêtre pour son idole.
砂漠と森
荒れた髪を香りに浸し、
君の頭がとる姿勢
謎と秘密。
Le désert et la forêt
Embaument*1 tes tresses rudes,
Ta tête a les attitudes
De l’énigme et du secret.
香りが君の肉にたゆたう
香炉の辺りに居るかのように。
君の魅力は夕暮れのように
暖かく、ほの暗い水の精のよう。
Sur ta chair le parfum rôde
Comme autour d’un encensoir ;
Tu charmes comme le soir,
Nymphe ténébreuse et chaude.
なんと!最強のポーションでも
君の「怠惰」に及ばないか、
さては君、知っていないか
死者をも蘇らせる愛撫をも!
Ah ! les philtres les plus forts
Ne valent pas ta paresse,
Et tu connais la caresse
Qui fait revivre les morts !
君の腰は恋に落ちた
自分の背中と、自分の胸と
クッションすら喜ばさんと
悩ましげなポーズを取った
Tes hanches sont amoureuses
De ton dos et de tes seins,
Et tu ravis les coussins
Par tes poses langoureuses.
時には、君のあのわけのわからない
激情を鎮めるために、
君は贅沢に、真剣に、
噛みつきもキスもしないでは済まさない。
Quelquefois, pour apaiser
Ta rage mystérieuse*2,
Tu prodigues, sérieuse,
La morsure et le baiser ;
君は私を引き裂く、わが黒髪よ、
嘲るように笑いかけ、
そして私の心臓へ
柔らかく片目を据える、月のよう。
Tu me déchires, ma brune,
Avec un rire moqueur,
Et puis tu mets sur mon cœur
Ton œil*3 doux comme la lune.
君の靴の下、繻子の
君の魅惑の足、その絹の下に
私は据える、わが喜び、大いに、
わが天才と、わが運命と、
Sous tes souliers de satin,
Sous tes charmants pieds de soie,
Moi, je mets ma grande joie,
Mon génie et mon destin,
君の魂のお陰だ、わが魂に
君のお陰で光と色を!
ドカンと熱い爆発を
わが黒々としたシベリアに!
Mon âme par toi guérie,
Par toi, lumière et couleur !
Explosion de chaleur
Dans ma noire Sibérie !
*1 Embaument: 「芳香で満たす」「香りを放つ」ほか、死体をミイラにする前の「防腐処理」をいう。詩人は「香りに浸す」と称しつつ、相手が死んだら「ミイラにしてやる」と言っている事になるが、まさか本当にやったわけではあるまい。とはいえ、本作に「死」の影がさしているのは確かである。
*2 mystérieuse: 「奇怪」「不可思議」程度の形容だが、ここの2行は韻律が難しく、少し変形して行を移した。
*3 œil: 同じ「目」を意味する yeux と使い分けているのは、通常の「両目」と片目つむったのを区別しているようだ。空の月は一つきりなので、「目」を「月」に例えるには、片目にする必要を感じたのであろう。




