24. 無題(夜の蒼穹のような貴女を慕う、)
2版XXIV、3版XXV
対句
夜の蒼穹のような貴女を慕う、
あゝ悲しみの器よ、大いなる沈黙、
私のことを避けるが故に、なおのこと貴女を愛する、
やがて貴女は私には、夜を飾るべきものと想われる、
さらに皮肉にも、里数は増える
わが両腕を、広大なる蒼天から隔てる。
Je t’adore à l’égal de la voûte nocturne,
Ô vase de tristesse, ô grande taciturne,
Et t’aime d’autant plus, belle, que tu me fuis,
Et que tu me parais, ornement de mes nuits,
Plus ironiquement accumuler les lieues
Qui séparent mes bras des immensités bleues.
前進して攻撃、駆け上がり突撃、
死体を狙う蛆虫の大合唱も同様、
そして私は慈しむ、無慈悲で残酷な獣を!
私にはなおさら、貴女は美しい、その冷淡さえも!
Je m’avance à l’attaque, et je grimpe aux assauts,
Comme après un cadavre un chœur de vermisseaux,
Et je chéris, ô bête implacable et cruelle !
Jusqu’à cette froideur par où tu m’es plus belle !
voûte nocturne: voûte は一般に「穹窿」「丸天井」あるいは「蒼穹」をいう。従って、この語は「夜空」になる。のだが、voûte は地下にあるアーチ型の天井をも含み、転じて食糧や酒類の地下貯蔵庫や、金庫室を意味する事もあるから、「夜の酒蔵」「夜の金庫室」と、途端に生々しい意味にもなる。もちろん詩人は解っていて、わざと「夜の金庫のように貴女を愛する」とも読めるように書いている訳だが、そこまで訳詩で付き合う訳には行かなかった。
lieues: lieue は英語 league に当たる海上の距離単位。1リュー = 4km = 1里。ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』も原題が Vingt mille lieues sous les mers なので、「二万里」で合っている。
この表現により、船のことを引き合いに出したものと読める。追えば猫のように逃げ、離れると擦り寄る、愛人へ伸べる自分の手を、届きそうで届かない蒼穹へ帆を張り出す船の帆桁に見立てたものであろう。




