113. 血の噴水 LA FONTAINE DE SANG
2版CXIII、3版CXXXVIII
ソネット形式 脚韻AABB AABB CDD CEE
『吸血鬼』の同工異曲。ただ、ここでは女に「血を吸われる」のではなく、出血大サービスよろしく自分が街中に「血を流す」幻想を、酒や女に止めて貰おうとして果たせず終わる。
時折、自分の血が流れ出るような気がしていて、
噴水のように、リズミカルな啜り泣きを伴って。
その長いざわめきを聞いていながら、
その傷口を探しあぐねている、私は。
Il me semble parfois que mon sang coule à flots,
Ainsi qu’une fontaine aux rhythmiques sanglots.
Je l’entends bien qui coule avec un long murmure,
Mais je me tâte en vain pour trouver la blessure.
街を横切り、閉ざされた野原さながら、
血は流れ行き、石畳を群島に変えては、
あらゆる生き物の渇きを癒す、
至る所で自然を紅く染める。
À travers la cité, comme dans un champ clos,
Il s’en va, transformant les pavés en îlots,
Désaltérant la soif de chaque créature,
Et partout colorant en rouge la nature.
私はよく、まことしやかなワインに
恐怖を一日でも眠らせるよう願ったものだが。
却って目は澄み、耳は鋭くなろうとは!
J’ai demandé souvent à des vins captieux
D’endormir pour un jour la terreur qui me mine;
Le vin rend l’œil plus clair et l’oreille plus fine!
されば恋に私は求めた、忘却の眠り。
しかし愛は私にとって、針の筵でしかないものだ。
残酷な女たちに、飲み物を与えるために作られた!
J’ai cherché dans l’amour un sommeil oublieux;
Mais l’amour n’est pour moi qu’un matelas d’aiguilles
Fait pour donner à boire à ces cruelles filles!
訳注
fontaine: 「泉」でもあるから、そちらで訳されることもあるが、本作は「噴水」だろう。ボードレール(1821 - 1867) がフランツ・リスト『巡礼の年』(1883)第3年所収『エステ荘の噴水』を聞いていたら面白いのだが、作曲は1867〜1877とされ、どう考えても無理。第2年の『ペトラルカのソネット#104』や『ダンテを読んで』なら、可能性がある
îlots: îlot「小島」の複数形なので「小島の群れ」。訳者はメンデルスゾーン『ヘブリデス諸島(フィンガルの洞窟)』序曲を連想した
captieux: 翻訳機は「口うるさい」と出力したが、誠実なのではなく、詭弁的に、わざと誤解を招くような表現をかますことを言う
cruelles filles: 阿部良雄訳注では「12行に示された『娼婦』をおそらく暗示する」としているが、構造的に『吸血鬼』を踏襲する以上、これが人間でないことは明らか。最後まで血の海な描写なので、これを映像化するとなると残酷無惨に赤々と、貼るにはやや穏やかならざるものがあり、というより R18 になりそうなので、此処には掲載しない




