100.
C «La servante au grand cœur dont vous étiez jalouse»
二部構成 対句14行 + 8行
ようやく100番までこぎつけた。大作も控えているので、どうしても更新速度は落ちるが、何とかなりそうだ。
本作は前作ともども、実父を亡くして母と過ごした日々を懐かしむ体であるが、ここでは使用人の女性が加わる。ひたすら穏やかな語り口の背景に、死が積み重なる。特にこの2人はおそらく、少年ボードレールが家族として慕った相手で、詩人にとって家族とは、いつも自分を置いていってしまう人となる。その趣旨からすると最終章「死」に置かれても不思議は無かったが、ここに入れたのは、やはり詩人にとってパリの原風景であったからであろう。
あなたが妬んでいた心の広い下女に、
質素な芝生の下で眠っている彼女に、
それでも、私たちが花を手向けに行かないと。
亡き人々、哀れな亡者たちに、心からの哀悼を、
そして10月が、古木の剪定師が吹くとき、
憂鬱な風が彼等の大理石に吹きつける時、
必ずや皆、生きている者共を恩知らずと思い知ろう、
連中自分たちだけ、ぬくぬくベッドに眠っていよう、
その間にも、黒い夢想に呑まれるばかり、
添い寝相手も、楽しいおしゃべりもない、
凍てつき古びた骨が虫に喰われる、
冬の雪がふわり落ちるのを感じる、
そして百年が過ぎる、友人も家族もない、
柵に掛かる襤褸を替えてくれるような。
La servante au grand cœur dont vous étiez jalouse,
Et qui dort son sommeil sous une humble pelouse,
Nous devrions pourtant lui porter quelques fleurs.
Les morts, les pauvres morts, ont de grandes douleurs,
Et quand Octobre souffle, émondeur des vieux arbres,
Son vent mélancolique à l’entour de leurs marbres,
Certe, ils doivent trouver les vivants bien ingrats,
À dormir, comme ils font, chaudement dans leurs draps,
Tandis que, dévorés de noires songeries,
Sans compagnon de lit, sans bonnes causeries,
Vieux squelettes gelés travaillés par le ver,
Ils sentent s’égoutter les neiges de l’hiver
Et le siècle couler, sans qu’amis ni famille
Remplacent les lambeaux qui pendent à leur grille.
薪が口笛を吹き、歌う夕暮れ時、
肘掛け椅子に座る彼女を見たなら、
もしも12月のとある寒い青い夜、
部屋の片隅に彼女が潜んでいたら、
墓場、永遠の寝台の奥底からやって来る
成長した子どもを母親の目で包み込む、
この敬虔な魂に、私は何と言ったものやら、
彼女の空洞の瞼から涙が落ちるのを見ては?
Lorsque la bûche siffle et chante, si le soir,
Calme, dans le fauteuil je la voyais s’asseoir,
Si, par une nuit bleue et froide de décembre,
Je la trouvais tapie en un coin de ma chambre,
Grave, et venant du fond de son lit éternel
Couver l’enfant grandi de son œil maternel,
Que pourrais-je répondre à cette âme pieuse,
Voyant tomber des pleurs de sa paupière creuse ?
都合の良い絵、つまり当時のパリの絵でメイドを描いたものが見つからないので、挿絵は Color Planet 塗り絵から持ってきた。
訳注
servante: 英語 servant の語源にもなったこの言葉は、servir(仕える)+-ant(〜する人)に由来し、「奉仕者」を意味する。しかし職務により「使用人」「召使い」「家政婦」「女中」「メイド」「端女」など様々な呼び方があり、「奴隷」の場合すらあるので悩んだが、時代的にも立ち位置的にも漱石『坊っちゃん』に出てくる「清」に近い存在と思われるので、これに倣う
grand cœur: 翻訳機では「心優しい」などと訳されるが、字面からして「心広い」と言っているとしか読めない
sous une humble pelouse: 欧米のキリスト教会は一般的に、裏庭 backyard, churchyard の全部または一部が墓地 graveyard になっている。そこに芝生を敷くので、「芝生の下」とは土の中、つまり墓穴を意味する
souffle: ここでは動詞 souffler(息を吹きかける)の活用形であるが、男性名詞としては「スフレ」と読み、「風」「息吹」「霊感」などに加え、ふわりとした菓子の名でもある
comme ils font,: 「彼等」というが、亡者から見た生者のことなので、訳文をいじった
nuit bleue: 今日のわが国では「蒼月」という方が馴染み易いとは思う




