詩集『悪の華』表紙
我を過ぐれば憂ひの都あり、
我を過ぐれば永遠の苦患あり、
我を過ぐれば滅亡の民あり
義は尊きわが造り主を動かし、
聖なる威力、比類なき智慧、
第一の愛、我を造れり
永遠の物のほか物として我よりさきに
造られしはなし、しかしてわれ永遠に立つ、
汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ
『悪の華』はボードレール一生の詩集である。初版は1857年にプーレ・マラシから出版され、風紀紊乱の科で告訴され、有罪となってしまった。それで削除を命ぜられた禁断詩篇6篇は、32篇を追加した第2版(1861)には載っていない。詩人は第3版を計画し、晩年には新作を挟み込んで用意を整えた『悪の華』1巻を所持していたそうだが、その行方は判らない。死後にミシェル・レヴィから出た第3版は、友人たちが編纂し、詩人の意志に適うか不明。無題の詩もあるので、番号は振ってあるものの、各版で番号がズレたりもする。それで第2版と第3版の番号題名を前書きに書いておく。
詩集『悪の華』シャルル・ボードレール作
LES
FLEURS DU MAL
PAR
CHARLES BAUDELAIRE
人の言う、忌まわしきもの沈めざるべからずと。
忘却の井戸に、はたまた囲われし墓にと。
書かれし言葉に悪も復活しようと、
後々、道徳心を汚すこととなろうと。
されど知識は悪の母ならず、
美徳は無知の娘ならず。
On dit qu’il faut couler les execrables choses
Dans le puits de l’oubli et au sepulchre encloses,
Et que par les escrits le mal resuscité
Infectera les mœurs de la postérité ;
Mais le vice n’a point pour mère la science,
Et la vertu n’est pas fille de l’ignorance. (テオドール・アグリッパ・ドービニエ『悲愴曲』第2巻。Théodore Agrippa d’Aubigné, Les Tragiques, liv. II.
この引用句は初版のみ、第2版から削除された)
PARIS
POULET-MALASSIS ET DE BROISE
LIBRAIRES-ÉDITEURS
4, rue de Buci.
—
1857
申し分なき詩人にして
完璧なるフランス文学の魔術師
こよなく我が親愛と敬愛を寄せる
我が師にして友
テオフィル・ゴーティエに
最も深き謙譲の
気持ちもて
捧げまつるは
之なる病める花々を
AU POÈTE IMPECCABLE
AU PARFAIT MAGICIEN ÈS LANGUE FRANÇAISE
À MON TRÈS-CHER ET TRÈS-VÉNÉRÉ
MAÎTRE ET AMI
THÉOPHILE GAUTIER
AVEC LES SENTIMENTS
DE LA PLUS PROFONDE HUMILITÉ
JE DÉDIE
CES FLEURS MALADIVES
C. B.