表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

10

 見る間に小屋は焼け落ちた。


 何処からか大勢の人が現れて後始末をしている。


 焦げた木と何か分からない変な匂いがする。

 鼻につくその匂いに血の匂いも混じっていた。


 目の前にいるリシウス陛下からも、微かに血の匂いがする。

 ……まさか?


「リシウス陛下、怪我をしているのですか?」


 よく見れば彼の着ているシャツに血が付いていた。


「怪我? そんなのする訳無い。僕は強いんだよ、王様だから」


 彼は私に向け優しく微笑んで見せた。


 それを見たアダムさんは、感極まったように目を潤ませながら口を押さえている。




「でも、血が付いているわ」


「血?」


 私の視線をたどり、リシウス陛下は自身の着ている服に目を向ける。

 汚れた部分を見つけると、目を顰めて服を脱ぎはじめた。


「きゃっ」


 急な事に私は顔を両手で覆い隠す。


 だって男の人の裸なんて見た事がないもの……!



「もういいよ」


 クスッと笑ったリシウス陛下が私の手をそっと取り除ける。

 そこには、清潔な白いシャツに着替えている彼がいた。


 美しい銀色の髪が夜風になびき、松明のオレンジ色の灯を受けてキラキラと輝いている。

 私に優しく細められる青い瞳も。

 こんなに何もない場所なのに、輝いて見えるなんて、やっぱり……王様は普通の人とは違うのね。


「帰ろう。メアリーの傷の手当てをしないといけない」


 アダムさんに告げたリシウス陛下は、私を軽々と抱き上げると近くに置いてあった馬車へ乗り込んだ。



◇◇



 私は最初にいた部屋へと戻って来た。


 女医と侍女が傷の手当てをしてくれ、体も清めてもらった。

 薬を飲んだなら少し眠る様にと言われ、横になった。



 誰もいなくなった部屋。

 けれど扉の向こうには、警護を担う騎士がいる。

 そしてこの部屋のどこかには影と呼ばれる人達もいるのだと、さっき教えてもらった。


 影、ザイオンと一緒に私をここから攫った人もそう言っていた。


 すぐにいなくなったあの人はどうなったのだろう。

 王様を裏切ってザイオンに従ったから解雇されたのかも知れない。




 こうしていると、さっき迄の事が嘘のようだ。


 王様に攫われて、ザイオンに攫われて、クロエに囚われて危うく焼け死ぬところだったなんて。


 たった二日でこんなに攫われる事ってある?


 それを、この国の王様に助けてもらうなんて。


 でも、最初に私を攫ったのは王様だった。

 リシウス王。


 不思議な人。

 私を妻にすると言いながら……。


 足枷をするし……。

 部屋に閉じ込めて……。



 どうして助けに来てくれたのかな、私なんかを……。


 あんな危ない事を…火の中に…王様が。


 ………私を………。



◇◇



「初めての口づけはやり直す」


「いえ、次は初めてにはなりません。だいたい、なぜ今頃初めてにこだわるのです? 以前寝ているメアリー様の唇を奪おうとなさった事をお忘れですか?」


「知らん」


 私はいつの間にか眠っていたみたい。

 なんだか部屋の中が騒がしい。


「知らない事はないでしょう? 何度私がお止めしたことか」


「普通の若い男ならそれくらいするだろう? 目の前に好きな女がいるんだぞ」


 ……え?


「いや、寝込みを襲うなど普通の男はしません。おかしいでしょう?」


「アダム、お前は目の前に愛している人がいても何もしないのか?」


 愛している?


「同意無しにしてはなりません。だいたいリシウス陛下は」


「王様になれば何をしてもいいとアダム、お前が言ったのだ」


「あの時はまだ王子様でした」

「………」


 私はほんの少し目を開けた。


 そこには綺麗な顔を悔しそうに歪めているリシウス陛下と、したり顔のアダムさんがいる。



「メアリーは僕の気持ちを知っているから」


「メアリー様が陛下のお心を知る訳ないでしょう? 陛下はどうしてそう思われるんですか?」


 ……リシウス陛下の気持ち?



「赤い薔薇とカードを送っていただろう、だから」


「名前も書いてなかったのに?」


 ……赤い薔薇?



「名前なんて書かなくても分かるだろう? 赤い薔薇は愛する者に送る花だ。それに最初に、いつか迎えに行くときちんと書いた」


 あのカード?

 薔薇の花はリシウス陛下からだったの?



「リボンや服も贈っていただろう? 僕の瞳と同じ色の物だ。メアリーは分かっていたはずだ」


 ……リボン? 服? 僕の色って⁈


「畏れながら、陛下のお色と言われましたが『青』色の瞳を持つ方は他にもたくさんいらっしゃいます。大臣もそうではありませんか?」


「あんな爺さんと一緒にするな」


 ふん、と拗ねた顔でリシウス陛下は私の方を見た。


 寝ていると思っていたのだろう。目を開いていた私と視線が合った彼は、思い切り目を見開いた。


 しかしすぐに驚いた顔を誤魔化すように、微笑みをうかべる。


「メアリー、起きていたのか。体は? 痛くないか?」


 腕を組んで、私を見下しているリシウス陛下。

 心配するように首を傾げると、銀の髪がサラリと揺れた。


 煌めく青い瞳は、優しく細められている。


 ……なんて綺麗な人なんだろう。

 思わず見惚れてしまった。



 よく見れば、リシウス陛下の瞳は、クロエに取られたリボンと同じ色だった。



 見つめるだけで言葉を発しない私の頬に、リシウス陛下は手を当てる。

 ひんやりとした彼の手の感触が、まだ熱を持った肌に心地よく、思わずスリ、と頬を寄せた。

 そんな事をされるとは思わなかったのか、ピクンと彼の体が小さく動く。


 私達の様子を見ていたアダムさんは、ニヤッと笑うとリシウス陛下に言った。


「陛下、お顔が赤いですよ?」


「黙れ、アダム!」


 アダムさんに怒りながらも、私に添える手はやっぱり優しい。


「リシウス陛下、あの」


 私はおずおずと声をかけた。


「どうした?」


 彼は溶けてしまいそうな笑顔を私に向ける。


「あ、赤い薔薇の花束は陛下が贈ってくれた物だったのですか?」


 リシウス陛下は頷いた。


「カードに書かれていたメッセージも?」


「勿論、そうだが? 知らなかったのか?」


「はい、ずっと誰がくれたんだろうって思ってました」


 すうっとリシウス陛下の表情が無くなった。


「リボンは? 僕からだと分かっていただろう?」


「いえ、贈り物も誰か分からなくて。村長さんも教えてくれなかったので」


「そんな、そんなはずは」


「だから言ったのです、名乗るべきだと」

 驚愕しているリシウス陛下にアダムさんは言った。


「君の家に僕の絵姿が飾ってあったじゃないか? 花まで添えて。だから」


「あれは、おばあちゃんが飾って……何でそんな事知ってるの?」


 彼の絵姿は居間に飾られている。

 けれど、家を訪ねてくる人はほとんどいない。

 女性だけの家だからと、村長さんも玄関までしか入らないのに。


「…………」

「リシウス陛下?」


 リシウスは目を伏せて諦めたようにはあ、とため息を吐いた。


「僕はメアリーをずっと手に入れたかった。君が欲しかったから王になったんだ」


 絵姿の話をしないまま、彼は私を攫った理由を話し出した。



「手に入れるって、私を?」

 ……そんな物みたいに……。



「王になったから、メアリーを手に入れた。もう離さないから、攫われない様に警護も増やすし、夜は僕が傍にいよう」


 それが当然だと言う様に、冷たい口調でリシウス陛下は話す。


 ……攫われない様にって……。



「……最初に攫ったのは王様じゃない」


 思わず言ってしまった。

 でも、本当の事だもの。


「それに私は物じゃないわ。手に入れたいから攫うなんて、おかしいと思うわ」


 何故かイラッとしてしまった。

 この人最初に会った時と変わらないんだもの、私を狩ろうとした時みたいに言うし。



 私の言葉に王様は黙った。


 それからしばらくすると、彫刻の様に表情のない美しい顔をしたリシウス陛下は、囁くような小さな声で話し出した。


「僕は、君を物だと思ったことは一度もない」


 嘘はないのだと言わんばかりに青い瞳が真っ直ぐに向けられる。


「僕は、メアリーを人だと思っている」


「……」


「森の中で偶然君を見て気に入った。僕と共にいて欲しいと思った。だから矢で射止めようと……」



「「イヤイヤ、そこ間違ってるから!」」


 私とアダムさんの声が重なった。



「何が間違ってるんだ?」


 リシウス陛下は訳が分からないと言う顔をして私を見る。


 その後ろでアダムさんは頭を抱えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ