6、「少女の孤独」
「………………。
レテは、この少女は、この先どうなるのだろう?
レテの孤独は、私のよりもずっと大きいはずだ。ずっと長いはずだ。
レテはどれだけの数の、私のように骨になっていく人間を看取ってきたのだろう。
この先どれだけの数の、私のように骨になっていく人間を看取っていくのだろう。
一人で。
頭蓋骨を拾い集めながら。
見渡す限りの人骨の平原の中、地平線まで見える範囲の頭蓋骨を一つ残らず拾い集めて山にするほどの時間、レテは既にここにいるのだ。
そしてこの先も。
……ようやく終わるらしい私の苦しみの中で。
それが、心残りだった。
………………」
頭蓋骨に灯った青い炎が弱くなる。声も小さくなる。
少女は、そっと頭蓋骨に息を吹きかける。
火は消え、声も消える。
火の消えた頭蓋骨を少女は山に加える。
山の中腹に腰を下ろし、膝を抱えて座る。
しばらく動かない。その時間の長さは、ここでは計れない。
少女はふと、何かに気づいたように顔を上げる。
少女が空を見上げると、一面を覆う茜色の靄の向こうに、まるで太陽のように、巨大な爬虫類の目がある。
少女は立ち上がり、にっこりと笑い、手を振る。空の巨大な目はギョロギョロと動いていた後、少女に気づいたらしく、まっすぐに向く。
茜色の靄に隠れるように巨大な目が消える。しばらくして頭蓋骨の山の麓に人影が現れる。
いや、正確には人の影ではない。頭部は、鰐のそれ。上半身と前腕は獅子のそれ。下半身は河馬のそれ。
少女が頭蓋骨の山を降りて近づくと、鰐の口が開き、言う。
「やあ、レテ。元気にしてたかえ」
「うん」
「新しい服を持ってきてあげたよ。いつでも着替えるといい」
「うん」
鰐頭の異形が肩にかけていた衣類を受け取り、少女はにっこりと笑ってそれを広げて確かめる。
着ていた服を無造作に脱ぎ捨て、新しい服に着替える。骨の平原の上で、くるりと回り、新しい服を着た自分を見下ろして微笑む。
それから、ふと。
少女は言う。
「おばさん、ありがとう。
……ねえ、おばさん、一つ聞いてもいいかな」
「なんだえ」
「あたしはそんなに可哀想に見えるかい?」
「さあねえ。なんでそんなことを聞くんだい」
少女は肩をすくめる。
「ここに来たおじいさんがいてさ。
そのおじいさんが言うには、あたしの笑顔は寂しい笑顔だって。
あたしが孤独なのが心残りだったって」
「へえ」
「でも、あたしにはよく分からないんだよね。
この地獄跡で、あたしの人生はずっとこうだったし。
……そんなに、あたしの人生は可哀想なのかな」
鰐頭の異形は器用に肩をすくめる。
「その爺にゃそう見えたんだろうね。
ま、ワタシに言わせりゃ、可哀想じゃない人間なんかいやしないが。
みんな孤独に生きて、なんかの拍子に自分はそうじゃないって誤解して、誤解したまんま死ねりゃあ幸せだが、どちらにせよ一皮剥けばみんな孤独なのは変わらんね。
みんな可哀想さ。
諦めがついたとこでさっさと終わりにするのが賢い生き方さ。
だから、ワタシはいつでもそいつらの心臓を喜んで食う」
鰐の口が笑い、その奥が見える。
「で、レテ、アンタはどう思ったね。
自分が可哀想だと思って死にたくなったかい?
何回も言っているが、アンタが望めばいつでも終わらせられるよ。ワタシゃ、アンタの心臓を飲み込む準備はずっと前からしてる。
アンタ次第さ♪」
少女は何か考えていたが、やがて肩をすくめ、笑う。
「ん、まだ今はいいや。
もう少し、ここにいてみるよ」
自分は孤独らしいけれど。
生きる意味も感じないけれど。
これがここでのあたしの命。
自分が可哀想かと聞かれれば、別にそうは思っていない。
「そうかい。ま、好きにしな」
と、鰐頭の異形は言う。
「じゃ、また来るよ」
鰐頭の異形は人骨の平原の中に沈んで消える。
少女は一人残り、また頭蓋骨を探しに歩き始める。




