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10.流浪の大公

ファーラント大陸、最大の超大国・ヴィクセン大公国。


 その首都トリアムの玄関口である正門前には、

黒騎士率いる、陸の帆船の搭乗員との対面に備えて命じられた

大公国親衛隊、約2000名の騎士達が眼前に停泊した

ハリケーン号を取り囲むような配置で対峙を続けている。


待ち構える親衛隊員を焦らすかのように、姿を見せぬ黒騎士。


 想像した事も無い、巨大すぎる船体が陸を疾走するという衝撃だけでなく、

左右に多数、装着される大径の砲門は兵を威嚇するだけでも十分すぎるものだ。


 噂話ばかりが到着前から先行し、大剣一振りで数十人斬りの話や

ダラムでブライアン達を絶望の淵に叩き落とした魔獣の話に、

大勢の司教国軍を一瞬で葬り去った、超強力な破壊魔法等々......


 厳しい競争を勝ち抜き、選ばれた国内、いや大陸内での最強と誉れ高い

最精鋭のエリート部隊として、首都トリアムで大公を警護するこの騎士達でさえ、

強い不安を掻き立てる内容のものばかりだ。


皆、口には出さぬものの、一様に緊張した面持ちで黒騎士に備え身構えている。


「隊長殿ッ!! き、来ました......! アレが、黒騎士かと思われますっ......!」



騎士隊長のミッチに、怯えた表情の隊員が報告を入れる。

すべての親衛隊員の視線が、たった一人の男の方に集中する。


 青白いオーラを全身から放つ漆黒のフルプレートアーマーを装着し、

2メートルを超える大剣を軽々と片手で振り回しながら、悠然と歩く黒騎士。

その後ろに隠れるように、ファルナとアーサー、

金髪ハンニヴァルの三人の姿が確認できる。

それともう一人、羽の生えた妖精もいるようだ。

......サンレゾの悪行の生き証人として、ベルフルールも同行させている。


......そして、黒騎士の両横に控える魔獣の異様な姿に、目を剥いて驚く。


 全長5メートル程の巨体に、筋肉隆々で巨大な斧を構えた牛頭人身の化物が二体。

......今週のびっくりドッキリSS獣神・火属性ミノタウロス、3凸 LV75だ。

激しく興奮し、目を血走らせて鼻息は荒く、常に低い唸り声を上げ続けている。

 

 個の戦闘力は、マイコニド以上。でも、加護は水属性の攻撃10%ダウンと微妙。

グランディス内では、雑魚処理位しか取り柄の無い、やっぱり残念獣神です。

各属性別SSS獣神が揃わない初心者の時は、3凸できた事自体が嬉しかったので、

つい、火属性のメイン獣神にしちゃってみたりもしたのですが......

一人もフレは獲得できなかった、苦い思い出があります。


 戦空艇を守るように周囲を旋回する竜の一種、風属性SSワイバーン、1凸 

LV45が二匹いるのも、雑魚退治のお供には、うってつけだ。


 傍目からでも敵意を剥き出しにしており、いつ獣神側から襲いかかってきても

不思議ではない状況に、親衛隊員の緊張感は高まる。 


 ......そんな連中を嘲笑うかのように、まるで鼻歌でも歌っているかのような

余裕の素振りで歩み寄る黒騎士は、やがてミッチの前で立ち止まった。


 「き......貴殿が、黒騎士と名乗る者か」

精一杯の威厳を保ちつつ、ミッチが問いかける。


 「ああ、そーだ。オレが、しがねぇ流しの黒騎士で......あつし、ってんだ」

目の前の大軍を前にしても臆する事なく、不機嫌そうに返す黒騎士。


「ミリアからの長き道中、誠に御苦労であった。私が親衛隊長のミッチと」


 「長ったらしい前置きはいらねぇからよー、コッチの用件だけ先に言っとくわ。

......ヘルム大公サマによぉ、ご挨拶させて頂きたいんだよ」

ミッチの言葉を一方的に遮り、黒騎士が要求を伝える。


 「......くっ! な、何と無礼な......! ま、まあ良いわ。

た、大公様はご体調が優れず、貴殿らとの謁見など、とても出来ぬ......! 

貴殿は此処で、連れて参った騎士団員を我らに引き渡した後、

何処へでも自由な場所に旅立てば良かろう......後程、褒美はくれてやるわ」


 ミッチは、黒騎士の態度に立腹するが、やがて思いとどまる。

......軽率な言動は控えよう。事前の命令通り、不気味なコイツは穏便に追い払って

目的の騎士団員達ヤツらだけ、連行してしまえば......!


 「そこに立つ、ファルナ・インバース! 並びにハンニヴァル・アーサー!

そして、アラン・ロイド! 貴様らには、軍規違反及び謀議を図り、

上官であるサンレゾを殺害した容疑により、逮捕命令が下されておる!

......これは、その令状だ!武器を捨て、無駄な抵抗はせずに一列に並べ! 」


 ミッチの横から、捕縛用の刺股さすまたのような槍を構えた兵達が複数、登場する。

命令の声に反射的にビクっ! と、直立不動の体勢を取るファルナがフラフラと、

兵の方に向かい歩き出す。

素早く横に動いてファルナの進路を塞ぎ、背中で押し戻す黒騎士。


 「言ってるイミが分かんねぇな。大事なオレの戦空挺トコ搭乗員モンをよぉ、

親衛隊オメーらなんかに渡すワケねーだろが? ファルナぁ......後ろ、下がってろ」


 「え......えっ? で、でも......このままでは、そのっ」

戸惑うファルナに、黒騎士のカミナリが落ちる。


「いーから、後ろっ! 下がっとれや、ゴルァァァァ!!(怒怒怒) 」


 「は......ハイぃぃぃっ! も、申し訳ございませんッ!! 」

ハッと我に返り、慌てて黒騎士の後ろに下がるファルナ。


 「!? き、キサマは何を言っとるんだ! 貴様の仲間だと? 

そ、其奴そやつらはな、我ら大公国騎士団の」


 驚き、息巻くミッチを挑発するように、わざと顔を近づけて、

下から覗き込むような体勢で黒騎士が口を開く。


 「......騎士団の者だとぉ!? 司教国が怖くてよー、見殺しにしたんだろぉ? 

......死にかかってたのをよー、可哀想だから助けてやったんだよ、このオレ様が。

今じゃあ、立派なオレの配下トコロモンだ......理解できたか? ん?

そのオレ様が、オメーに今、この場でハッキリ言ってるんだよ......

逮捕命令だとォ!? ったく、フザケやがってよー、

仲間コイツらは一人も渡さねえし、指一本、触れさせねえよ......!! 」


 黒騎士の雰囲気が、変わった。荒々しい口調だけではなく、

明らかに苛つき、殺気立つ気配を全身から放つようになる。

彼の怒りを敏感に察知した、魔獣達の咆吼が更に甲高く、大きく周囲に響き渡る。


 異常な雰囲気に場を支配された親衛隊員の誰もが皆、戦闘意欲を削がれ、

恐怖に怯えた表情で推移を見守る。


 「オ、オ、オ、お前はァ!? じゃ、邪魔立てする気かァ!? 

わ、わ、我ら、大公国最強と、う、謳われる、親衛隊2000とォ、

お前とこの、魔獣だけで、こ、この場でェェ......

一戦交えると申すかァ! しょ、しょ、正気なのかァァァァ!? 」


 狼狽するミッチ。精一杯、強がるが声は裏返り、体は無意識にガタガタ震えだす。

どれだけ虚勢を張っても、野生の勘がしきりに非常信号を発し続けている。


 「ほぉ、おもしれーじゃねぇか......ん? この場で何だって? 

ダレがダレとナニをヤるってぇ!? もっとハッキリ言ってくれよ......

こんだけの兵隊かず揃えりゃあ、楽勝だろう、ってえ?

ミリアやダラムで、何が起きたか知ってて喧嘩売ってんだろぉ? なぁ!?

上等だ! その喧嘩......買ってやっから、あの世で後悔しな」


大剣を振りかざす黒騎士に、雄叫びの後に戦闘態勢を取るミノタウロス。


今頃になってミッチは、ようやく悟る。


 「自分」では、コイツには勝てない。

一人だけではない。「自分」と周囲の騎士達だけでも、まず倒せないだろう。


 おそらく、この距離からでは、あの大剣の太刀筋はどうかわそうと足掻いても、

「自分」と周囲の騎士達は一振り程度で瞬殺されるだろう。

兵の数に物を言わせ、さすがにいつかは倒せるだろうが、

「自分」は逃げ切れない! まず助からない......!


 目の前に迫る死の恐怖に怯え、ミッチは人目をはばかることなく、

腰砕けとなり、地面にヘナヘナとへたり込んでしまった。


 「お、お願いでございます! どうか、どうかこの場は寛大な御心で、御慈悲を!!

ここで、貴方様に親衛隊かれらが皆、成敗されると......

大公国このくには、間違いなく、崩壊いたします! 辛抱、辛抱下さいませ!!

後生のお願いでございます! お慈悲をっ! 黒騎士あつし様ァ!! 」


 「知るかー、ボケェ! そこ邪魔、どけー!! 」

怒鳴る黒騎士にすがり付き、涙で懇願するファルナ。


 その隙に、まるで犬の様な格好のまま、うの体で逃げ出すミッチが檄を飛ばす。

「な、何をしとるのだ! ボサっとしとらんと、さっさと構えて、あの者を仕留めんか! 」


 他の親衛隊員は、怒号に慌てて武器を構えはしたものの、誰も立ち向かおうとはしない。

戸惑い、周りを見回しながら蛇に睨まれた蛙のように、ただ、立ち竦んでいる。

部下を犠牲に、時間を稼いで生き延びようとの狙いが満々の

上官の命令など、誰も従う積もりはない。

皆、我が身が大事であり、みすみす無駄死にする積もりなど、更々ない。


......哀れな最初の生贄は......誰だ? 固唾を飲んで、見守っている。


「......待て! 暫し、待たれよ!! 戦っては、いかん......!! 」


 緊張した空間は、突如として横から乱入する集団から発せられる大きな声と、

「も、もしや......父上でございますか!? 」と驚きの声を出す金髪に

水を差された格好となった。


 剣を振り上げたままの黒騎士と、しがみついた状態のままのファルナは、

拍子抜けした表情で、その場で暫し、硬直。


 「お前達! 決して、その御方に無礼な対応をしてはならぬ! 武器を下げよ!

これは、命令だ!! 武器を下げるのだ! 」

金髪に父上と呼ばれる男は、親衛隊と黒騎士との間に入り、懸命に戦闘の仲裁を行う。

親衛隊員の間にも、ちょっとした安堵の雰囲気が流れる。


 「何たるご無礼の数々......! 何卒、何卒お許し下さいませ......!

私は、このヴィクセン大公国の評議会副議長を務めております

ウィリアム・アーサーと申します。以後、お見知り置き下さいませ」

ウィリアムは、深々と頭を下げる。


 「んー、なーんか......急にヤル気、萎えちゃったなあ......(ポリポリ)

えーと、そのぉ、おめーさんが、アレかい? 金髪の父ちゃんだってぇのかい? 」


 「......? 金髪......? ああ! 息子ハンニヴァルの事ですか! 」

不思議そうに首を傾げたあと、意味を理解したウィリアムは

嬉しそうに何度も大きく頷いた。


 「......左様で御座います。此度こたびは、

そちらに御出おいでるファルナ殿や

我が息子、ハンニヴァルの命を助けて頂いたばかりか......

ミリアにて司教国軍を蹴散らし、ダラムでは我々も手を焼いていた

「蠍の巣」を殲滅される等の素晴らしき武功の数々......! 

貴方様の御到着前から既に報告が届いております。

私共、この御恩に対し何と御礼申し上げれば......! 」


 「い、いや、そんな堅っ苦しい挨拶ぁ、別にいらねえんだけどなあ(困惑)

......んんー、喧嘩売られたかと思えば、今度はえらく持ち上げてきたりよぉ......

全く読めねぇなあ。一体いってぇ、オメェらの狙いは何だ? 」


 「この親衛隊ものたちは、普段は評議会書記のハンスの命で動いており......

私達とは別々で御座います」

チラリと横目で親衛隊を見るハンニヴァル。


 「よいか! よく聞け、親衛隊員みなの者!! この御方と御仲間には、 

決して手出しは無用だ! この私か、バンデン議長の然るべき次の命が下るまで、

この場にて待機するのだ! この件の全責任はこの私、ウィリアムが負う! 

......よいな! くれぐれも、戦闘はしてはならぬぞ!! 」

声高に叫んだ後に、黒騎士に対して静かに語りかける。


 「......ここに居る、私と志を共にする有志が50名程......

甚だ僭越せんえつでは御座いますが、是非とも、貴方様と

我が主君、ヘルム大公への謁見の御案内役を務めさせて頂きたく、存じております」

背後に控える部下と共に、またも深々と一礼する。


 「ば、馬鹿なッ!! これでは当初の命と全く、逆ではございませんか!?

決して......許されませぬぞ! 一体、何を企んでおられるのですか!? 」


「ええい、ゴチャゴチャ五月蠅いわ! 貴様は黙っておれ!! 」

騒ぐミッチをウィリアムが一喝する。


 「......まだ、分からぬか!? 己の命惜しさに恥も無く逃げ出す卑怯者の命など、

誰も従わぬわ!! お前はさっさと、飼主ハンスの元に逃げ帰り......

事の子細の報告でも、一生懸命しておれば良いわ!! 」 


 慌てて、周りをキョキョロ見回すミッチ。

親衛隊員の誰もが......目すら合わさない。

NO.3の無謀な命令よりも、NO.2かNO.1の命令を待つ方が安全ならば、

どちらを選ぶかなど、考えるまでもない。


 その反応に愕然とするミッチは無言でそそくさと、その場を離れると、

駆け足でどこかへと消えていった。


 その後ろ姿を睨みながらフン、と、嘲るように鼻で笑うと、

ウィリアムは改めて黒騎士に向かい、話し出す。


 「大変、お見苦しい所をお見せしました......誠に申し訳御座いません。

大公様の御前に辿り着くまでは、この私共が身を賭けて、貴方様方を御守り致します。

ささ、どうか......邪魔者が増える前に、是非、こちらへ......! 」


 「そーか。何かソッチもイロイロ、大変そうだな......アリガトよ。

そんじゃ、まあ、お言葉に甘えて、大公サマまでの道案内はお願いしよーかな!

その前に、ファルナさーん......? そろそろ、離れてくんねーかな......? 」


 「あ、あっ!? あぁぁぁぁ!! わ、ワタシは何とゆーコトを!?

も、ももももっ、申し訳ございませんっっ!!! (焦焦焦)」

顔を真っ赤にして、飛び跳ねる様に抱きついていた黒騎士から離れるファルナ。


 「それと俺らの事ぁ、心配すんな。一応、一緒にミノタロウスも一匹連れてきゃあ、

アンタらの身の安全も間違い無ぇし、ココにいる親衛隊員コイツらも...... 」


 傍に控える、それぞれのミノタロウスに指示を出す黒騎士。

「オメェは俺と来い。それとオメェは、親衛隊員アイツらが、

チョッとでもおかしな動きをしたら即、皆殺しにしてイイからな。

......それと、戦空艇ふねのゴーレムも出てこいやー!! 」


 黒騎士の命令に対応して、普段は戦空挺内の警備を行う三匹のゴーレムが

咆哮と共に甲板の上から姿を見せ、親衛隊員を恐怖の淵に叩き落す。


 ゴールド・プラチナ・ダイヤモンドのゴーレム三兄弟の巨大で頑丈そうな体は

見ただけで、最新鋭である筈の彼らの武器があまりにも貧弱すぎて、

何の役にも立たないと悟らせるのには充分すぎた。


 ......アレだけでなく、牛頭人身に竜の魔獣達も......!

数の余裕も戦闘意欲も大陸一を誇る精鋭部隊である誇りも吹き飛び、

圧倒的な絶望感だけが、彼らの心を支配する。


 「まあ、獣神達コイツらこんだけ揃えときゃぁ......

あの雑魚共にゃ、オーバーキルすぎるほどの相手モンだろうよ。

そして、仕上げに......っと!! 」


 鬱憤を晴らすかのように、力任せに眼前の門扉を蹴り上げる。

内部に一切の侵入者を寄せ付けぬ、大公国自慢の巨大で特殊な鋼鉄製の門扉は

地震のような凄まじい轟音を上げながら、まるでベニヤ板で出来ていたかのように

簡単に大きくへしゃげ、豪快に引き千切れて吹き飛んでいった。


......がら空きになった入口。呆気に取られる、親衛隊員達。


 「よし、行こっか! じゃあ道案内、ヨロシクっ♪ 」

平然とした表情で正門のアーチをくぐり、スタスタ先を歩き出す黒騎士。

その後を追うように、ファルナ達も慌てて駆け足で進んでいく。


 その姿を眺めるウィリアムに、自虐的な苦笑いの表情が浮かぶ。

(クククッ......! 大陸最強と謳われた、大公国軍われらが雑魚か......!

認めざるをえない、この圧倒的な力! もう......笑うしかないわ...... )


恐れおののき、遠巻きから眺める大勢の群衆を気にも留めずに堂々と通路を突き進む黒騎士。


「......一つ、聞いてイイか? 何が望みだ? この先、俺に何をさせてぇんだ? 」

視線は合わさず、前を向いたまま唐突にウィリアムに尋ねる黒騎士。


 「......! い、いや、別に、私は......そのっ......! 」

心の中を見透かされたようで、戸惑い、口籠もるウィリアム。


 「遠慮すんなや。今更よー、オトナになった息子の命の恩人の為に命張ろうなんて、

まず考えてもねーだろが。何か、別の狙いがあってのモンだろぉ?

......言うだけタダだし、聞くだけもタダ、ってだけのコトよ。

アンタの望みが、これから俺のやろうとしてる事に沿ってりゃ、叶えてやれるダケの

事だし、そーじゃなけりゃあ、手伝わねえ......ただ、そんだけのコトだ」


 「お、お見逸れ......致しました...... 」

観念したように、こうべを垂れたウィリアム。


 「......貴方様の仰る通りで御座います。貴方様には、その偉大なる御力で

大公国このくにを善き方向みちへと......お導きいただきたいのです」


 「ハッ! タダの黒騎士のこのオレが、この国を? 正しく導く!? 

いやいやいや、マッタク......買い被りすぎだっつーの。」

興味が無いと、軽く笑って鼻であしらう。


 「貴方様も、薄々......この国の内情は御存知でいらっしゃるのでしょう?

誠にお恥ずかしいお話ではございますが......

この大公国の現状は、まるで腐った西瓜のようでございます」


 「ほぅ!? 腐ったスイカってか! こらまた、面白ぇ例えだな!

どーゆーこったい!? んん? 」


 「遠目からでは立派な外見であっても......

中身は腐り果て、ドロドロで御座います。

腐った部分を中から大きく抉り取らねば、いずれは全てが......!

大公様のご容体が優れないのを良い事に、

中枢は守銭奴と権力の亡者が跋扈ばっこしての

まさにやりたい放題の日々......!

他国からの侵略にも、何ら有効な手を打つ事も無く......

今や、この国は緩やかな滅亡の危機に瀕しております」


 「すげーありがちすぎて、聞いててツマラン! (怒)

ちょっと期待した分、聞いて損したぜ!

それを何とかすんのが、副議長アンタの役目だろーがよ。

ボクは仕事が出来ねえって、愚痴ってるだけじゃねーかよ......ったく」

あからさまに不機嫌になり、苛ついた口調になる黒騎士。


 「い、い、いくら黒騎士様であっても......! いや、あの、その、

ち、ち、父上も、これでも一生懸命、が、頑張って......? 」

金髪が、必死で擁護するのだが...... 


「噛みっ、噛みでナニ喋ってんのか全っ然、ワカんねぇよ!

言い返すなら、ビビっとらんと、ドモらんと喋らんかぁっ!!! (怒怒怒) 」

火に油を注ぐ逆効果となり、黒騎士はプンスカ怒り出す。


 「いや! 良いのだ、ハンニヴァル......まさに、この御方の仰る通りなのだ。

ハンス如きに国政を牛耳られ、狼藉三昧に何も出来ぬ、この私が無能なのだ......! 」

ロクな反論もする事なく、ウィリアムはただ項垂うなだれて涙ぐんでいる。


 「......あー、もうっ! イイ年こいて辛気臭ぇし、情け無ぇなあっ!!

......ドコだっ! ソイツら、この先行ったら、会えるんかっ!? 」


 「この先の突き当たりが......議事堂で御座います。 

午後からの議会再開に備え、おそらく奴等は議事堂内に......! 」


 「......ふぅ。まぁ、いいか。大公サマに会う前に、まずは議事堂ソッチからだな」

 溜息交じりに呟きながら、通路を突き進んでいく。


 「御安心下さいませ......あの御方は、口ではああ仰いながらも

いつも最後は、私達を助けて下さいます......そういう御方なのです」

ウィリアムにファルナがこっそりと耳打ちする。


「......コラぁ、ソコっ! 何か、言ったかぁ!?」


「な、何も申しておりませんよ!? き、きっと、空耳でございますよ!! 」

慌ててウィリアムから離れるファルナ。


 「おっ! アソコか? あの扉の向こうの大広間みてぇな部屋が、議事堂なんだな!?

よっしゃ、行けー! ミノタロウス!! 」


御主人様の命令に、ミノタロウスは嬉しそうに軽く唸ると、鼻息荒く突進していく。

勢い良く、議事堂の大きなドアを蹴り開けるのと同時に......

無数に放たれたボウガンの矢が体に突き刺さっていく。


 まるでハリネズミのような、哀れな外見となったミノタロウスだが、

屈強すぎるこの神獣には何のダメージも与える事はできなかった。

むしろ、体中チクチクするものが沢山刺さったのがすこぶる不快で、

かえってミノタロウスの逆鱗に触れただけであった。


 怒りの咆哮を大きく上げると、凄まじい音の共鳴で議事堂内の窓ガラスは

全てが破裂したように割れて、破片が容赦なく飛び散っていく。


 目の前には、逃げ遅れて怯えた表情の警護兵が二人、立ちすくんでいた。

怒りにまかせて振り下ろされる、大きな掌で地面に叩き込まれた兵は

声を上げる間も無く、ゴムまりのように何度か地面を跳ね上げた後に動かぬ屍と化した。


 更に奥に突入し、暴れようとするミノタロウスを黒騎士が制止する。

「はいはい、どうどぅ......! ちょ、落ち着けっ! おい、ベルちゃんよぉ

コレ、可哀相だからよー、治してやってくれよ」

ベルフルールが素早く駆け寄り、ミノタロウスを介抱する。


 議事堂内を見渡すと、隅に追いやられたように密集する多数の議員達と、

その周りを僅かばかりの警護兵が震えながら身構えている。

その人影の奥に身を隠しながら、顔だけ出して憎々しげに怒鳴る男がいた。

......ハンスだ。


 「......ウィリアム公! き、貴公、気でも狂うたかっ......!! 」

黒騎士が一歩、前に歩き出すと同時に数名の兵が四方から飛び出して

襲いかかろうとするも、一振りの太刀で鮮血を上げながら

コマ切れの肉片となって宙を舞う。


 「雑魚は雑魚なりにさぁ......そこの隅っこで大人しくしてたほーが、

身のためだぜ? 無駄死にしちまうぞ」

腰を抜かして座り込む残存兵に優しく諭すように語りかけると、

地を這うように悲鳴を上げて逃げていった。


 「さてと......このご様子じゃあ、特に自己紹介とかは要らなさそうだな。

オレの事ぁ、もうイロイロ、知ってんだろぉ? なら先に用件だけ言っちまうぞ」 


 「な......ならぬぞ! 決して、貴様ら無法者に大公様への謁見など......! 」

横から口を挟むハンスを無視するように、黒騎士は話し続ける。


 「勘違いしねーでほしいんだけどよぉ! 別にお願いしに来たワケじゃねーんだよ。

今から話す内容は、オレからオメェらへの「一方的な通告」だ。

呑むも、呑まねぇもオメェら次第だ......まあ、無理にでも呑ましちゃうケドな」

萎縮する議員達を威嚇するように睨みつつ、一際大きく、声を張り上げる。


 「まず一つ目はァ! ここにいるファルナとハンニヴァル達を犯罪者扱いたぁ、

とんでもねえ話だ!! コイツら、このオレと共に司教国からミリアを死守して

きたねぇ、奴隷市場の屑共を駆除した、言わば救国の士なんだよ!

それを処分だァ......!? このオレ様が許さねえよ!! 」


 「......おお......何と有り難きお言葉...... 」

ちゃんと名前で呼んで貰えた事に感激し、瞳をウルウル、潤ませる金髪。 


 「二つ目は、ここにいるベルフルールの他に、俺の戦空挺ふねにゃあ、

奴隷市場から助けた亜人たちが結構、居るんだよ。

亜人達コイツらと他に希望する奴らが安全に暮らしていける場所を確保してえ。

......そうさな、一回見捨てたミリアなんか、別に失くなってもイイだろ?

てなワケで、安住の地を貰おうって思ってるんだよな」


 「な、何を勝手な事をほざいて」

「そして、三つ目がァ!! 国家の一大事に無能な議員達ヤツら議会あつまりは不要だな。

そこのウィリアムにでも国政は任せて、オメェらは解任クビだよ。

最後の四つ目が、大公サマへのご挨拶で、このコトを直接

認めさせよう、って魂胆なんだよ......ご理解できたか? 」


 「あくまで、決めるのはオメェらだ。冷静な話し合いで決めてもイイし......

こんなモンが欲しいなら......幾らでもくれてやるよ。ん? 」

首から下げたスマホの画面を軽く指でスライドさせると、

目の前にドサドサと、山のように金塊が積まれていく。

現実的ではない光景に、ただ呆然と眺める議員達。


 「これだけのモノ、一体どこから......? 皆、惑わされるなっ!!

ありえぬ......! 幻術に決まって......!? あイダぁぁッ!! 」


 黒騎士の投げつけた金塊が体に当たり、激痛に悶絶するハンス。

目の前に転がる割れた金塊は、彼の人生の中で見たどれよりも眩く光り輝き、

心を奪う......今まで必死に掻き集めた富が、全て色褪せて見えてしまう程に。


 「どーだ? 幻術だったか? ホンモノだったろ? 

......まあ、最後はコッチで決めてしまえばイイだけなんだけどよ。

さあ! サッサと決めてくれや! どーすんだ!? 」


黒騎士の気迫に押されて、誰もが皆、下を向いて黙り込む。


 「ウンとかスンとか......ちったぁ、喋れや。話にならんな......

もう、イイわ。こんなの放っといて、さっさと次行こう、次!

ウィリアムさんよ-、大公さんトコまで案内してくれや」


 奥へ通じる扉へ向かおうとする黒騎士達。

その扉の向こう側より、多数の人の気配と声が漏れ聞こえてくる。

 

 「......いけませぬ、御身体に触ります! ここは、安全な場所にて...... 」

声を遮るように扉は大きくゆっくりと開きだし、一人の老齢の男が姿を現す。


 二人の近侍に体を支えられながら、かろうじて歩くのが精一杯の老人の

異様な外見に圧倒され、黒騎士あつしは言葉を失う。


 豪勢に金をあしらった、赤い袈裟のような絢爛たる衣装から出る手足は

まるで枯れ木の如くガリガリに細く、茶色に変色している。

同じく土色で骸骨のように痩せこけた表情からは、一切の感情が読み取れず

ただ、眼光だけがギラギラと猛獣のように光っている。


......その風貌はまるで、即身仏のようだ。


「こりゃあ......ビックリだ。こんな状態でも、生きてられるんか...... 」


 驚きで立ち尽くす黒騎士には見向きもせずに、老人は目の前を素通りし、

その後ろにいるファルナにヨロヨロと近づいていく。


 「お、おおぉ......! こ、これは、夢か......? ファルナよ、

" お前は助からなかった筈" だ!! 何故だ? だが、よくぞ戻った!

ついに......ついに奇跡が起こったか......!? 」

大粒の涙を流しつつ、ファルナの手を取り頬を撫でる。


 「大公様......大変、御無沙汰しております。

実は、このわたくしが健在なのは全てが......

こちらの黒騎士こと、あつし・ニッポニア・ニッポン様のお陰で御座います...... 」

恭しく一礼しながら、ファルナは老人......いや、ヘルム大公に黒騎士を紹介する。


 「あ、ああ......どうも。俺ぁ、あつしってんだ」

戸惑いながらも挨拶するあつしの手を強く握り締め、詰め寄るヘルム。


 「待っておったぞ!! どこだっ、一体...... " ドコから" だ!?

お主、今回は何処から向かったというのだ? 首都ここでなく

......直接、ミリアに向かったというのか? 」

激しく興奮し、一気に捲し立てる気迫に押され、さすがのあつしもたじろぐ。


 「ちょちょちょ......! 早口すぎて、何喋ってんのか、全然わかんねーよ!!

ちったぁ、落ち着けや、じじぃ! 速攻、ポックリ逝っちまうぞっ!!

まず、ベガンだな......ベガンに行って、そっからゴルガでぇ......その次だ」


 「......ベガンだと? あの辺鄙へんぴな村に、何故なにゆえ、先に? 」

不思議そうに何度も何度も首を傾げ、ブツブツ呟きながら考え込む。


 「......な、何となくで理由ワケなんてねえよ!

 う......歌にあったんだよ!

に、に、西には......夢の国ンニキニン♪ ってよぉぉぉ!! (赤面) 」


 「......ふ、ふふっ......フハハっ! フハハハハァッ!! 」

ギラつく目付きは更に鋭さを増し、狂人の如きけたたましい笑い声を上げるヘルム。

その、あまりの常軌を逸する振る舞いに周囲は恐れおののき

息を飲み、ただ、眺めている。


 「スバラシイッ! 素晴らしすぎるぞ!! フハハっ......! 

そうかベガンからか......だから、"ミリアにも間に合ったか" !!

しかも、ついでにダラムも寄ってしまったか!! そうか、スバラシイぞ!

フハハっ、ハハハハハァっ!! 」


 ......呆気に取られる黒騎士たち。

おもむろにヘルムは黒騎士に向かい、語りかける。


 「......何が欲しい!? 仲間の自由と安住の地であったか?

クックックっ......! くれてやろうではないか、領土とちなど幾らでも。

ミリアと云わず、北部方面は全てお主が持っていくがよかろう。

この儂の下で統治するのも良いし、貴様さえ望めば、

独立した王国としていくのも良いだろう。

別に惜しくも無いわ。お主の働きに十分すぎる程......見合った報酬だ!! 」


 「た......大公様ッ!! 」

驚きで声を上げるハンスの方を見る事もなく、ヘルムは残る警備兵に命を下す。


 「揃いも揃って、そこに雁首並べる能無し共は......何の役にも立たんのぉ。

ウィリアムが望む者以外は、全て、始末せえ。ホレ......早う、せんか」


 ゾっとするような、冷徹な視線と口調に変貌する主君に、

兵達は魔法にかかったかのように剣を議員達に向けて捕縛し、連行していく。


 「お待ち下さいッ! 大公様ァ!! せめて、お話をォ!! 後生で御座いますゥ、

大公サマァぁぁぁ......!! 」

連行されながら、絶望の表情で叫ぶハンスの声が徐々に遠く、途切れていく。


 「評議会コレも、なあ......昔は有意義だったのだ。

民の意を汲み取り、儂の専横をいさめる事で長く平和な時代を築けたのだがな」

議事堂内を見渡しながら、懐かしむように遠い目で呟くヘルム。


 「さて......思い出話に浸る程、もはや儂には時間が残されておらんわ。

まだ、用件は終わっとらん......西方からの連合軍が仕掛けてきておるのは、

もう、既に知っておろう......

敵軍ヤツらは、何処まで侵攻している? 」


 「御存知で......いらっしゃいましたか。じ、実は...... 」

躊躇し、言葉を濁すウィリアムに、呆れたような口調でヘルムが喝を入れる。


 「今更、誤魔化してどうなるというのだ...... 大馬鹿者めが。

この儂が欲しいのはな、あくまで正確な情報だ。

ヤツらがどれだけの兵力で、何処まで陥落おとしたのかだ。

モゴモゴ言っとらんと、もっとハッキリ言わんかァ!! 」


 「......ハイッ! も、申し訳、御座いません!! 

げ、現在......ザルブを含む四つの都市が陥落し、西部は三つの内の

一州が実質、連合国の手に落ちたものと思われております。

兵力が尋常では無く......報告が正確であれば、

その数は、に、に、二十万以上ではないかと...... 」


「二十万っ!? 」

金髪が驚きの声を発し、ヘルムの眉がピクリと上に上がる。


 「ほう......! 大した数じゃないか。して、大公国軍われら

準備はどこまで整っておるというのだ? 」


 「そ、それが......どれだけ早急に招集をかけても、迎撃に用意できる

兵は半分も揃わず......士気も低く、侵攻を止められる状況に

至ってはおりません...... 」

苦しそうに、絞り出すようなか細い声でウィリアムが続ける。


 「しかも、連合軍側には王国アーノエルの王宮魔術師、セーゲルフと

帝国ザイードより錬金術師のベルナルド、多数の魔物が加わっており、

非常に手強く、太刀打ちが......出来......ず...... 」


 二人の名を耳にするファルナの背筋に、冷たいものが走る。

いずれもこの大陸内で名高い、魔法職の強者だ。


 強力な攻撃力増加バフ敵防御低下デバフに鉄壁の防御ファランクス

回復クリアとあらゆる支援魔法を駆使するセーゲルフに

希代のマッドサイエンストである、ベルナルド。

無から有を創り出す、彼から生み出されるモノ達は骸骨戦士スケルトン

リビングデッド、石獣ガーゴイル等々......


 普段は敵同士である、対照的な二人が手を組み大軍勢と共に出征しているのであれば、

確かに大公国こちら側に勝ち目は無い。


 「......ハンス率いる主流派は、反撃できぬと厭戦気味でミリアは司教国に、

西部は連合国に明け渡す代りの和議を図っておりました...... 」


 ウィリアムの報告を聞いていたヘルムが突如、黒騎士に向かって話し出す。

「......で? この危機に、御主はどう考えとる? ん? 」

危機感や悲壮感は漂わず、むしろこの状況を楽しんでいるかのような

目付きと口振りは、余裕すら感じさせる。


 ここまで、黙って話を聞いていた黒騎士が、ようやく口を開く。

「......んぁ!? ああ、俺か? んー、見た事無え数でピンときてねぇから

アレだけどさー、まあ......西部ソコ行って、ってみりゃあ、

何とかなるんじゃねーか? 」

 

 「な、何とかなる訳、無いじゃないですかァ!! (怒) 気はお確かですか?

ミリアでの30倍以上の兵に大陸屈指の魔術師まで居るのですよ!?

どうして貴方様はいつも、そう無茶ばかり仰るのですかッ!! 」


お気楽そうな黒騎士の発言に仰天するファルナが、目を剥いて反論する。


 「い、いやさ、別にどんだけ増えても......所詮、雑魚は雑魚だろ!? 

どーやったら、楽で一気に蹴散らせっかなー? ってぐれぇでさあ」


 「お願いで御座いますからァ!! どうか、もう少しだけ、

もう少しだけ慎重にお考え下さいませ......

貴方様の身に万一があった際、わ、私共は...... 」


 人目をはばかる事なくボロボロと涙を流して詰め寄るファルナに、

たじろぐ黒騎士。


 「ガハッ! ガハハハァッ!! 20万を雑魚とな!? 何とも頼もしいな!!

......この儂の為に、力を貸してはもらえぬだろうか?

お主のその力で......連合軍ヤツらを蹴散らしてはもらえぬだろうか? 」


 「......ってゆーか、手伝わせる魂胆ミエミエで、

イヤって言わす気、サラサラねーくせによ......!

......仕方無ぇから、潰すトコまで、付き合ってやるよ」

 

ヘルムの要請に、黒騎士は憮然とした口調で返す。


 「ガハハっ!! そうか、潰してくれるか! これは実に痛快だ!! 

スバラシイ、実に素晴らしいぞッ!! ガハハハ!!

兵も武器も、大公国ココにあるモノは、全て自由に使うが良いぞ。

......ウィリアムよ! 早急にこの儂の命にて兵を招集し、

黒騎士このものに従わせるのだ。良いな!!

......もしも奴等を駆逐できた暁には......

大公国このくに全部、お主にくれてやっても良いのじゃぞ? 」

ヘルムは満面の笑みで、悪戯っぽく語る。


 「そりゃあ、何とも太っ腹なお話なんだろーけどさ、

ミリア辺り貰えりゃ、十分すぎっからさぁ......大公国このくにまではイラネエ。

兵は、一緒にヤる気があるって奴だけでイイ。

......ビビってんのが山程いたって、逆に足手まといで迷惑だ。

元々、怪我させたくねえから、仲間達コイツら戦空挺ふねで留守番を」


 「何を仰るのですか!! 貴方様の下された御決断であれば......

私共は、どのような御命令であれ従い、最後まで御一緒させていただく所存です! 」


 毅然とした表情に戻ったファルナが即答し、アランが続く。


 「い、いや、私は......お言葉に甘えて戦空挺ふねでお留守番を......

って、イダァァァ!! 」


後ろに隠れて呟く金髪が、ファルナに思い切り、足を踏まれて悶絶している。


 「イ......イヤ、何でもゴザイマセヌよ......ワタクシも......

エエ、ゴイッショ、ご一緒させてイタダキマスとも......!! 」


 「愉快じゃ! 実に愉快じゃ!! そうか、受けてくれるか!

ハハハ! 大公国の未来、お主らに託してみよう! 任せたぞ!!

......まずは宴じゃ、宴の支度をせえ! それも、盛大にじゃ!!

国家の危機を救うてくれる英雄達の門出に相応しい......

豪勢なものにせい! すぐにだ!! 」


ヘルムの号令が大きく響き渡り、従者達が慌ただしく動き出す。


 「なあ......一つ、教えてくれ。

つい、今さっき会ったばっかの俺をよぉ......

何でこんなに信用してるんだ? 常識的に、まず有り得ねえだろ?

よっぽど、オメデテエのか......何なんだ? 」


訝しげな口調で訪ねる黒騎士に、事も無げに答えるヘルム。


 「......儂もお前も、所詮は生まれも明かさぬ流浪の者。

要は、似た者同士じゃ。

一目見て思うたわ......まるで儂の若かった頃の様じゃ。

傲岸不遜ごうがんふそんで無愛想、だがその力は絶大......!

まあ、そんな所だ。これでは不満かの? 」


 「......正直、納得も信用もしてねえよ。けど、まあ、イイや。

ちなみによ、大公アンタの若い頃って、何十年前いつの話よ? 」


 「儂か......? クククっ、200年以上も生きてしまうと......

今が何歳いくつか、どれだけ昔の事かも忘れてしもうたわ...... 」


と、冗談か本気か分からぬ口振りで、煙に巻く。


(......胡散臭うさんくせえ、食えねえジジィだ...... )


 口には出さないが、決して気は許さない。

大公からは、底知れぬ強大な魔王の様な匂いを強烈に感じている。


 人間の寿命を遙かに超え、もはや人外の外見に変貌しつつも

なお、圧倒的な存在感で大公国を支配する、絶対的君主。

迂闊に近づくと、たちまち飲み込まれてしまいそうだ。


 とはいえ、その懐深くに思い切り飛び込んでいかないと

相手の本性は見えないし、報酬も得られないのも事実だ。


(......まずは、お手並み拝見といこうじゃないか)


 全く興味は無いが、わざわざ宴を催してくれるというのだ。

もう少し、大公国このくに大公このオトコの事を

良く知っておく必要がある。

その後で、これからの対応を決めればイイ。


 黒騎士あつしは、心の中でそう考えていた。












 


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