第二章:異世界の市場調査
市場は、私が想像していた以上に歪んでいた。
「この穀物、なぜこの値段なんですか」
露店の商人が、胡散臭そうな目で私を見た。公爵令嬢が市場をうろつくこと自体、この街では珍しいらしい。
「仕入れ値がそれだけかかってるんで」
「仕入れ値の内訳を教えてもらえますか。運送コスト、保管コスト、リスクプレミアム」
「り、リスク……何ですか?」
予想通りだった。
私は市場を歩きながら、頭の中で数字を組み立てていった。穀物は生産地から王都まで、馬車で五日かかる。その間に腐敗するリスクがある。商人はそのリスクを価格に上乗せしているが、その計算が粗すぎる。
もっと効率的な方法がある。
生産者と消費者を直接つなぐ。収穫前に価格を決める——先物契約だ。リスクを分散させることで、農民は安定収入を得られ、消費者は安定した価格で買える。
「問題は信頼の構築だな」
私は独り言を呟いた。
先物取引が機能するためには、契約を守る仕組みが必要だ。この世界には、それを保証する制度がない。だから誰もやっていない。
逆に言えば——最初にやった者が、市場を制する。
次に私が向かったのは、辺境の土地売買を扱う仲介業者だった。
「アシュフォード領の東、グレン荒地の地価はいくらですか」
仲介業者が首をかしげた。「グレン荒地? あそこは不毛地帯ですよ。石だらけで農業もできない。買い手がつかなくて困ってる土地です」
「地下に何がありますか」
「……は?」
「石だらけということは、岩盤が露出しているということです。岩盤の種類は? この地域の地質図はありますか」
仲介業者が狐につままれたような顔をした。
私は前世の知識を総動員した。この地域の石の色と質感から推測すると——石灰岩の可能性が高い。石灰岩は建材として優秀だ。そして王都では今、建設ラッシュが起きている。
「買います」
「え?」
「グレン荒地、全部買います。いくらですか」
仲介業者が目を丸くした。「……金貨五十枚でいいですよ。正直、タダでも引き取ってほしいくらいで」
「では金貨五十枚で」
契約書にサインしながら、私は次の手を考えていた。
土地を買った。次は人だ。
この計画を実行するためには、数字を扱える人間が必要だ。私一人では限界がある。
翌朝、私はマーロという少年に出会った。




