第3話 「炎の継承者」
ルビリア王宮の図書室は、
外の熱気とは対照的に静かだった。
高い天井。赤い背表紙の本が並ぶ棚。
炎の国らしい、乾いた紙の匂い。
アクエルは一冊の古い記録を開いた。
(……炎の継承者の歴史)
ルカの“冷え”の理由を探るため、
アクエルは外交の開始までの時間を
ここで過ごすことにした。
ルカは完璧だった。
王子としての立ち居振る舞い、
声の出し方、微笑み方。
どれも隙がない。
――だけど
アクエルの胸の奥にあるアクアマリンは、
ルカを見るたびに
かすかな冷えを感じ取っていた。
(……ルカ殿がいない場所でも揺れるのか)
前のものとは違う揺れだった。
もっと広く、もっと深い。
まるで――
この国そのものが、どこか歪んでいるような揺れ。
(……やはり、何かを抱えている)
「アクエル殿下」
声をかけられ、 アクエルは顔を上げた。
文官が丁寧に頭を下げる。
「殿下、何かお探しでしょうか」
「炎の継承者について、少し知りたくて」
文官は一瞬だけ言葉を選んだ。
「……ルカ殿下は、完璧なお方です。
幼い頃から努力家で、誰よりも……」
そこで言葉が途切れた。
アクエルは静かに問いかける。
「誰よりも……?」
文官は微笑んだ。
だが、その笑みはどこか固い。
「……ご立派なお方です」
(……言えないことがあるのか?)
アクエルは本を閉じた。
胸の奥のアクアマリンが、また震える。
(……この国の“何か”が、
ルカ殿の炎の中心を冷やしている)
もっと何か大きな、もっと深い揺れ。
そのとき、控えめなノックが響いた。
「アクエル殿下。紅蓮の間で外交の準備が整いました」
アクエルは立ち上がる。
胸の奥の震えは、まだ止まらない。
(……ルカ殿の冷えがどこから来てるのか、
もっと探らなければ)
図書室を出ると、遠くで炎の音が静かに揺れていた。




