第2話 「炎の国の王宮案内」
ルビリア王宮は、
アクアリアとはまったく違う造りだった。
赤い石壁。
陽光を受けて揺れる影。
廊下の空気に、かすかな熱の気配。
アクエルは、
案内役として歩く“王子ルカ”の背を静かに見つめていた。
ルカは振り返り、
柔らかく微笑む。
「こちらが、来賓をお迎えする“陽炎の間”です。
アクアリアの王子殿下をお迎えできて光栄です」
声は温かい。
礼儀も完璧。
歩き方も堂々としている。
――なのに。
アクエルは、
胸の奥でアクアマリンが微かに震えるのを感じた。
(……やはり、炎の中心が冷えている)
ルカは気づいていないように、
軽やかに歩みを進める。
「アクエル殿下は、ルビリアは初めてですよね。
暑さは大丈夫ですか?」
「問題ありません。
むしろ……思っていたより静かな国だと感じました」
「静か、ですか?」
ルカは少しだけ首を傾げる。
その仕草は自然で、
“王子”としての振る舞いに隙がない。
だがアクエルには、
その笑顔の奥にある“温度の欠落”が見えてしまう。
(……ルカ王子は、
どれほど無理をしているのだろう)
アクエルは言葉にしない。
外交の場で、相手の心の温度を指摘することなどできない。
ルカは再び歩き出し、 王宮の奥へと案内する。
「こちらが、炎の継承者が儀式を行う“紅玉の間”です。 今日はお見せするだけですが……
明日、正式な協議の前にご案内しますね」
アクエルは静かに頷く。
紅玉の間の扉に触れた瞬間、
アクエルの指先に“熱”が伝わった。
だがその熱は、どこか不自然に揺れている。
ルカは扉から手を離し、また柔らかく微笑む。
「明日は、どうぞよろしくお願いします。
アクエル殿下」
その笑顔は温かい。
けれど――
中心だけが、やはり冷たい。
アクエルは静かに返す。
「こちらこそ。 よろしくお願いします、ルカ殿」
二人の視線が交わった瞬間、
アクエルは思う。
――宝石の異常は、継承者の心の揺れに反応する。 ならば、この揺れの原因は……
ルカ殿の“苦しみ”。
アクエルは確信に近い感覚を覚えた。
――この国の炎の揺らぎは、誰かの犠牲の上に成り立っている。
その“犠牲”が、ルカ殿である気がしてならない。
アクエルは、 胸の奥に小さな決意を抱いた。




