楽しみに待ってるよ。
「その前に・・・サブリナ・モンテベルティ!」
「はいぃい!!!」
「表に出なさい。今のあなたの実力が見たいわ。」
「は・・・い。」
傾いたドアから出たサブリナは屠殺場へ向かう牛のようにトボトボと歩く。よく見ると杖を持つ手が小刻みに震えている。
「心配スンナ。お前の実力でバーサンに一泡吹かせてやれよ。」
「バカ言わないでよ! 学院長は十傑の一人で、魔法はどの分野もオールマイティーなのよ! それも半端な実力じゃないわ! 私なんかが勝てる訳ないじゃない!」
耳元で小声でささやいたシャールに、サブリナは涙目で嚙みついた。
「おー怖ぁ・・・」
「ここがいいわね。さっき更地になったばかりだけど平らでいいわ。」
メギドはブスーっと腕組みしてる。さっきまで、ここは畑だったのだ。
******
ここで<十傑>について説明しておこう。
冒険者ランクが7段階ということは前にも述べた。最高位は100人にも満たないS級なのだが、その中で特に抜きんでいる実力を持つ者を、敬意を込めてSS級と呼ぶ。その数は30人程度なのだが、その中でも人民と国家に多大な貢献をした者だけが得られる称号が<十傑>である。そのメンバーは必ずしも冒険者ではないが、いずれも化け物じみたスキルと実力を持つのである。
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「サブリナ・モンテベルティさん。貴方は確か白魔法系統。それも防御に特化した成績だったと記憶しているのだけれど、間違いはないかしら。」
「お・・・おっしゃる通りです。」
「では、私が魔法で攻撃しますから、貴方はそれを防いで見せなさい。」
「は・・はい。お手柔らかに・・・。」
ジェーンはすでに教師モードに入っている。さっきまでとは口調すら変わっていた。
彼女は口元に薄ら笑いを浮かべると無詠唱で、巨大な炎の球を作り出す。
「う! うそでしょ!!」
「行くよ。」
「えー! ちょちょっと・・」
遮る間もなく、巨大な炎の球がサブリナに向かって放たれた。
「盾!!」
サブリナの魔法の盾は鋭角な槍のような盾で、ジェーンの炎の球を四散させた。
「水球! やり過ぎだ、バカ!!」
四散した流れ弾の炎が辺りを焼くのをメギドが水球で消し止めた。
「すすすいませーーん! 先生!」
「そっちじゃねえ! もっと加減しろぃ!」
メギドはジェーンを睨みつける。
「・・フフ。いいわねえ。単に防御壁で止めるのではなく、形を変えて威力を分散させたのね。理にかなってる。判断も適切です。及第点ですね、サブリナ・モンテベルティさん。」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、次はどうかしら?」
「え? 次って・・?」
ジェーンが杖を振ると6個の火球が出現。と、同時に空中に先端のとがった岩の塊も20個浮かんだ。
「勘弁してくっ・・」
「ダーメ、よ。」
ジェーンがにこやかにウインクすると、火球と岩が不規則な軌道を描いてサブリナへ向かって行った!
(普通ならドーム型で防御するけどねぇ・・・)
「盾!!」
サブリナは26個の球形の盾のを出現させた。
そして、それがジェーンの火球と岩に特攻して包み込む。抑え込まれた火球と岩は、威力を失って地上に落ちた。
「やったぜ!」
シャールが叫んだ!
しかし! まだ終わりではなかった!
地面から突如4個の岩が飛び出し、それがサブリナを襲う!
が、それも彼女の盾は見逃さなかった。地面から飛び出した岩は、薄い膜のように地面に貼られたサブリナの防御膜に包み込まれて地面に落ちた。
それを見届けたジェーンは、静かに杖を置くと笑顔で拍手した。
サブリナはハアハアと肩を大きく揺らしながら、地面に両手をついて笑顔で返した。足蹴くメギドの下に通って小石の攻撃を受け続けた成果が実ったのである。
「最高よ、あなた。いったい誰に習ったの?」
チラリとサブリナがメギドを見る。
「教えちゃいねえ―ぞ、俺は。」
「でしょうね。貴方はいつもキッカケを与えるだけ。本物の天才だけが努力で自分の物を作り出す。」
ジェーンはメギドに向いて、まっすぐに言い放つ。
「メギド! 貴方はやはり教師に戻りなさい。それが貴方の義務です!」
メギドは耳をほじくりながら視線をそらした。
「俺はもう引退した身だ。弟子はもう取らねえ。」
「そう。貴方がそう言うなら、今は無理強いしないわさ。けれど覚えておきなさい。あたしはいつでもこの席を譲る用意があるの。その気になったら王都に戻って来なさい。」
「フン。やなこった。」
メギドは完全に機嫌を損ねたようである。
「あの・・オッサ・・メギドさんって、魔術学院の教師だったんですか?」
シャールがこっそりとビーエムに尋ねると、ビーエムはシャールに耳打ちした。
「ええ。かつては・・ね。そう言えば<天才育成師>だの、<S級製造機>だのと言われたこともありましたねえ。余談ですが、今のS級の半分以上は彼の弟子です。」
シャールの目玉と、開いた口がふさがらなくなった。
「そこの金髪の坊や。ちょっとこっちにおいで。」
「へ? オレ? 俺は魔法は・・」
「分かってるよ。いいからその槍を持ってこっちにおいで。」
「は・・はい。」
シャールもまた、屠殺場へ向かう牛のようにトボトボと歩く。
「サブリナ・モンテベルティ。」
「はいゅ!」(完全にフイを喰らった)
「貴方の防御魔法は今までに類を見ない素晴らしい代物です。ですが、同時に課題も見えてきました。」
「課題・・ですか?」
「ええ。貴方の次のステップは”攻撃”です。それが出来たら、王都へ試験を受けにいらっしゃい。私が相手をしてあげましょう。」
「おおーっ。」とリズたちがどよめいた。
「いいものを見せてもらったお礼にあたしの魔法の一端を見せてあげよう。金髪の坊や。私に向かってその槍で攻撃してごらん。手加減はいらないよ。」
「・・・・・。」
シャールが黙り込んだ。やがて両手で顔を叩くと、「よっしゃー!」と言って戦う男の顔になった。
「ケガしても恨みっこなしでお願いします!」
距離をとって槍を構えると、シャールは打ち込む隙を窺った。
(十傑と矛を交えさせてもらえるなんて滅多にねえ。)
さっきまではビビっていたシャールだったが、今はうれしくて飛び上がりそうになるほど高揚していた。
「いつでもいいよ。かかって来な。」
言われた途端に飛び込もうとしたシャールだったが、ジェーンの周りに異様な靄がかかっているのに気づき、躊躇した。
「殺しゃしないから、脅えてないでかかって来な。」
「よっしゃー! 行きます!」
シャールはジグザクに踏み込むと、ステップワークを駆使して大きく飛んでジェーンの背後に回り込んだ。
(よっしゃー! イケるっ!)
と、思った瞬間、シャールの鋭い突きは黒い大きな膜に阻まれ、槍を絡み取られた。
(あれは・・・)
サブリナはジェーンのもう一つの異名を思い出した。
<裁縫の魔女>
それがジェーンの異名である。
彼女の魔法は攻撃も防御も治癒さえもすべて一級品のオールマイティー魔術師である。が、、彼女の本当に得意とするのは生成魔術である。空間に漂うマナを瞬時に集めて繊維を作り出し、魔力の布を作り出す。その布は鉄よりも固く、絹よりもしなやかだと言われている。云わば魔法で作られたカーボンナノチューブである。
「もう一度だよ、坊や。」
「くっ。」
布から解き放たれた槍を拾ったシャールは、一旦距離を取り、慎重に攻撃する隙を狙っている。
ジェーンの布は単なる黒い靄へと戻り、ジェーンの周りを漂っている。
(あれ? なんかさっきより靄が薄いような・・・)
そう思った瞬間、シャールの右手の甲に激痛が走った。
思わずジェーンを見るが、彼女は微動だにしていない。
「え? グワーッ!」
激痛は手の甲だけに治まらず、体中の至る所で発生した。たまらずシャールは地面に倒れこんだ。
「分かったかい?」
ジェーンはサブリナに問いかけたが、さすがのサブリナも、シャールの受けた攻撃の正体がつかめなくていた。
「これがあたしの魔法の一端さね。王都で楽しみに待ってるよ。」
ジェーンはケラケラと笑うとメギドの方に向かって行った。
ーすれ違い様ー
「あんたもね。楽しみに待ってるよ。」
ジェーンの捨て台詞にも、メギドは相変わらずにブスーっとしたままである。
突然、メギドの前にリズが腕組みして立ちはだかった。




