マシンガンをぶっ放せ!
「私が、いつ、貴様の質問を許可したのかね?」
山南陸将補は、抑揚のない声でそう言った。この人、やはり苦手だ。隙のない正論で押してくる。こんな相手には、事前の準備が大事なんだが。
しかし、今回、俺にそんな備えは無い。だから、アドリブで切り抜けるしか手が無いのだ。これはかなり頭を使うし、やたら疲れるから嫌なんだ。
「失礼しました。自衛隊に於いて、これは許されない事でした」
俺は素直に謝罪した。考えろ、考えろ。このわずかなやり取りで、活路を見い出せ!
「うむ。分かっているのならば良い。では、先の質問に答えろ。何度も言わせるのではない」
だが、山南陸将補は、打てば響くように話してくる。くそ、考える時間も与えてくれん。なら、しゃーない。
「は。失礼ついでにまたお聞き致しますが、山南陸将補こそ、なぜこちらに? これに答えて頂ければ、私も命令に従います」
「!! 貴様!!」
「なぜなら!!」
「む!!」
こういうタイプが一番嫌う相手を、俺は知っている。それは!
「その少年、もし単なる一般人であれば、情報科のトップが出てくるはずがありません! これは、明らかに不可解であります!」
「貴様、下士官の分際で、将官の詮索か! そんな事が」
そら来た! 悪いがそんな正論は聞く耳持たん! 一切無視して喋ってやる! それも、お前みたいなやつが嫌う、大声量でな!
「私がこちらに来た理由は、その少年がここにいる遠山一曹の大切なファンだからであります! それが、このような物々しい場所に連行されては、心配するのが人情なのではないでしょうか? 我々がここにいるのはその一心であり、何の隠すところもありません! ですが、山南陸将補がこの少年に興味を示す理由は、普通に考えると何も無いはずであります! 私は、特務戦隊の管理官として、その特務戦隊隊員たちを支えてくれるファンの危機を、絶対に見過ごせません! ファンは、アーミーアイドルの心臓です! ファン無くして、アーミーアイドルは戦えない! 心臓が奪われ、傷つけられるやも知れぬというのに、黙って寝ている者がいましょうか? そんな阿呆はいないでしょう? 従って、我々はここにあり、その少年の行く末を、断固として見守りたい! ただ、それだけなのであります!」
ぬぐぐ、言い返されないように喋り続けるの、マジ疲れる。でも、とにかく喋れ、喋るんだ。次に止められたら、絶対に何かキツい状態に持っていかれる。
「じ、准尉? ツバ飛んでるよ?」
高嶺が唖然としている。
「お、おお……、こ、こんな准尉、初めて見る……!」
遠山は、捲し立てる俺に圧倒されているようだ。
ヒーローものでも良くある、敵が人質を取った時とかのシチュエーション。あれ、「抵抗したらこいつを殺す」って言われる前に敵を攻撃しちゃえば、人質の意味が無くなるんだよな。あれも一種の契約だ。物凄く不利な契約だ。
だから、俺が今やっているのは、それを言わせない為だ。そんな契約、条件すら提示させない。言われる前に、マシンガンをぶっ放すんだ!
「そして、いま一つは、この少年を連行した、警備隊員たちであります! 彼らは、我が特務戦隊の至宝とも言えるアグレッサー、江吉良エリ絵一尉に、許されざる無礼を働きました! その償いを促すにも、私はここに来ざるを得ませんでした! よって、その隊員2名の引き渡しも、譲れない目的だったのであります! この旨、万が一容れられない時は!」
「もういい、分かった」
「私は、て、は?」
山南陸将補が手を挙げて俺の演説を遮った。あれ? なんか、苦笑いしてますけど? いいや、負けるな!
「いえ、まだ私は!」
「分かったと言っている」
「はひいっ!」
山南陸将補に頭突きされた! 上から! 痛い!
「はっはははは。なるほど、馬渕の言った通りのやつだな、君は」
「は? 馬渕三佐、でありますか?」
うおお、目が眩む。この人、こんなに細いのに。見かけよりかなり強いぞ、このオッサン。
「ああ」
山南陸将補は、俺の耳元に口を寄せると、
「だから馬渕は、君にライオット・スタンシーバーを託したのだ」
と囁いた。俺は思いがけないその台詞に「え?」と硬直してしまう。そして、
「遠山一曹! 高嶺三曹!」
「は、はっ!」
「は、はいっ!」
遠山と高嶺を、雷撃のような声で呼びつけた。これには、さすがの二人も反射的に直立だ。うわ、この人凄え。これが大部隊を統べる者の力、か。
「君たちは、外に出ろ。私は、准尉と話がある」
「「了解しました!」」
高嶺と遠山は、敬礼すると一瞬で部屋から出て行った。ほへー、あの二人が、あんなに従順に……。俺、ちょっと落ち込むなあ。
「さて。では、始めよう」
「は、はあ?」
山南陸将補は、少年の部屋に戻って俺を手招きした。口元には、微かな笑み。返って不気味。
「まず、この少年を連行した隊員たちは、私が責任を持ってそちらへ向かわせる。この件はそれでいいな?」
「あ、はい」
山南陸将補は、言いながら俺に着席を促した。号令とかじゃなく、普通に手で勧めてくれるの、自衛隊だと逆に新鮮。まるで普通の会社みたいだ。
てか、さっきのって一応命令無視だし不敬に当たるはずだけど、こんなに穏やかに対応されるなんてびっくりだよ。なんなんだ、これ? この人、何を考えているんだろうか?
つーか、俺、結局山南陸将補の問いに、ただデカい声で答えただけだ。こんな普通に接してくれるなら、俺も初めから普通に答えりゃ良かった。げふっ。
「次に、この少年だが……。日下部みのりを知っているな?」
「え? 日下部みのり?」
またしても出現した意外なワードに、俺の頭は混乱した。ええ、どうしよう? これ、素直に答えていいやつか? だいたい、この少年と日下部みのりに、何の関係があるんだよ? ダメだ、分からん! ええい、もうどうにでもなれ!
「は。彼女は、特務戦隊付の情報科隊員ですので、もちろん知っておりますが……」
俺は恐る恐るそう答えた。
「彼女は、君に何か……、そう、暗号のようなものを、残していなかったかね?」
「あああああああ、暗号、で、ありましゅか?」
あばばばばば。思っきし吃った。なんて怪しい返答なんだ。俺ちゃん、誤魔化すのが下手過ぎるぅ。
「残していったんだな?」
山南陸将補の眼鏡がギラリと光った。
ヤバいぃ! 俺も消されるぅ! 助けて高嶺え!




