陸将補ですね!
「ここだ。俺は扉の外にいる」
「サンキュー。まあ迷惑をかけるような事にはしないつもりだから、安心して見張っててくれ」
「ち。頼むぜ」
連れてこられたのは、警察の取り調べ室みたいなとこが見える部屋だった。ほら、マジックミラーになってる部屋。俺たちは取り調べ室をマジックミラー越しに見られる部屋の方にいるわけだ。
「迷惑ってなに?」
「お前の質問、ホントに俺を恐怖させるな。お前、とにかく俺が命令した事以外すんなよ。お前は今から女型ドローンだ。俺が操作しないと動けない。そう自分に言い聞かせろ」
「えー、そうやってさ、またエロい命令するんでしょー?」
「またって何だ! そんなんした事ねーだろ! エロ同人誌の読み過ぎなんじゃねぇのかお前!」
「本当でしょうね、准尉? もし嘘だったら殺しますよ?」
「遠山くん!?」
なんなんこいつら! 何遍でも思うんだけど、俺、上官なんですよ! なのに普通に殺すとか言われたけど! もうまともに相手してられんわ!
「ああもう嘘だったら殺せばいいだろ。それより、ほれ。取り調べが始まるとこみたいだぞ」
「あ、誰か来た」
「ん? あれは?」
すぐに取り調べ室に入ってきたやつがいる。金髪の少年は、パイプ椅子に座らされ、ぐったりしていた。まだ気絶したままらしい。他には誰もいなかった。
「あれ、誰だか知ってるのか、遠山?」
入室したのは、スラリとした神経質そうな男だった。びしっと七三分けされた髪と銀縁の眼鏡がテラテラと光っている。制服にある階級章を確認すると、陸将補だった。ええ、随分と偉い人が出てきたな。将官なんて初めて見たぞ。
「……情報科の、司令ですね。確か、山南陸将補」
「へー、良く知ってたな」
なにしろ特務戦隊は孤立気味だ。機密の多さから、あえてそうして他の部隊とは距離を取っている。なので、他所の事情に詳しい隊員はあまりいない。
駐屯地内にある居酒屋とか売店も、特務戦隊は食堂に併設された専用店にしか入るなってお達しがあるからなあ。酒場みたいな社交場まで隔離されているのは、プロデューサーとしてぶっちゃけ困る。駐屯地の隊員たちって、一番身近なリサーチ対象でもあるからな。
「ねえ准尉、なんでそんな偉い人があんな子どもの一般人の為に出てきたの? ヒマなの?」
「知らんがな。それを今調べてんだろ。ヒマなのかどうかもまだ分からん」
高嶺がマジックミラーを覗く俺の背中に覆い被さりまた呑気な事を言っている。だけど、本当にそうだったらいいなあとは思う。暇潰しで来てるだけなら平和に済むし。
「准尉、ハナから離れてもらえませんか? 殺しますよ?」
「ちょっと待て。見て分からない? 俺が高嶺にひっついてんじゃないんだよ。高嶺が俺にひっついてんの? 分かるだろ?」
殺気放つのやめれ。肌がピリピリして痛いから。あと簡単に殺すとか言うのやめて。俺はお前らみたいに生き返ったり出来ないんですよ。
「ハナ、准尉が迷惑してるぞ。離れろ」
「そうかな? でも命令されないと離れられないんだもん。ねー、准尉?」
「ひっつけって命令した覚えも無いけどな。あとお前、背中におっぱい押し付けるのやめてくれ。ちょっと気持ちいいだろが」
「ほら迷惑してるだろ。早く、早く離れろ、ハナ。准尉も、早くハナに命令を!」
「しーっ! デカい声出すなよ遠山! 俺たちがいるの、バレるだろ!」
「気持ちいいって言ってるしー! もー、准尉ったら、やっぱりおっぱい好きだよねー!」
「うおおおおお!! 准尉いいいい!!!!」
「おいいいい!!! 静かにしろってえ!!!」
どうした遠山!! お前、なんかおかしいぞ!! クールなイケメンキャラだろお前は!!
「……何をしているのかね、君たちは?」
「「「あ」」」
なんてやってたら、いつの間にか山南陸将補がマジックミラー越しに俺たちの目の前に立っていた。忘れてたけど、このマジックミラー、スイッチ一つでただのガラスになんだよね。
とか思ってる間に、山南陸将補が、ぬうっとこちらの部屋へ入ってきた。この人もデカい!
「君は、あのテレビに出演していた准尉だな」
「あ、はい」
後ろ手に俺を見下ろす銀縁の眼鏡が冷たく光った。瞬間、俺の本能が察知した。こいつは、俺の天敵だ、と。つまり、俺が一番苦手とするタイプだ。
「テレビでも感じたが、君たちは本当に仲がいいな。年頃の男女が、そんなに無防備に密着出来るものなのかね? なかなかに興味深い関係性だ、私にとって」
言われてみれば、俺がおんぶしているのは、見た目普通の女の子だ。しかも、一応アイドルとかもやっているくらいには可愛い部類の女の子。端から見れば、かなり懐かれているように思えるだろう。まるで、兄妹のように。
「は。そうでありましょうか? 私には、山南陸将補がそのような事に興味を持たれる方が、かなり意外であります」
馬渕司令相手でもそうだけど、俺は偉い人にはちゃんとする。ほら、俺って典型的な日本人だし? 権威には弱いってゆーか、従順になっちゃうわけで。なんなら、犬のように媚びちゃうし。
「そうかね? まあ、それはいいとして、さっきの質問の答えを聞こうか。君たちは、ここで、何を、しているのかね?」
「はっ、それは……」
どうする? こんな大物が出てくるとは思ってなかった。山南陸将補がどんな人物なのかも全く知らん。ここはどう答えるべきなのか、まるで見当がつかないぞ。これ、間違えるとかなりマズい事になりそうな予感がある。
そもそも、こんな少年、すぐに基地から追い出して終わりだったんじゃないのか? 特科連隊本部に連行し、尋問する必要性がどこにある? 念の為と言えばそれまでだけど、なんか不自然なんだよな。
だから、ぶっちゃけただの勘なんだ。俺の勘が、この少年には何かあると告げていた。そうだ。官舎まで誰にも見つからずに侵入していたのがもうおかしい。だから一応警備課を呼んだんだが、やつらの態度も変だった。なんかフラフラとここまで来たけど、整理してみるとやっぱりおかしい。
「なんで黙ってるの、准尉? 私が代わりに答えてあげようか? えへへっ」
「しっ。ハナ、黙って」
「えー?」
またもやかかり気味の高嶺を、遠山がそっと制してくれた。さりげなく肩に手なんか置いて、嬉しそう。こいつ、チャンスだと思っただけかも知らんな。
「どうした? 答えろ」
低く静かに山南陸将補が促した。うわあ、やっぱり苦手なやつだ。声に感情が無いんだよ。
「答えないか? 分かっているはずだが、ここは自衛隊であり、憲法的な解釈はともかく、実態は軍隊だ。軍隊に一般社会のような常識は当てはまらず、職務上、上官に対しての黙秘権や拒否権などは無い。それでも答えない、従わないのであれば、軍人として不適格と判断するしかなくなる。そうなると、どうするか? 言わずとも分かるだろう」
「…………」
ああ、もういいや。防御したってしょうがない。だいたい、こんなとこに将官クラスがいるのがおかしいんだ。もうこれ後ろ暗いですって言ってるようなもんだろ。なら!
「はっ。お言葉ではありますが」
「む?」
俺の腹は据わった。こうなると強いぜ俺は!
「山南陸将補殿こそ、なぜこのような所におられるのですか?」
「……なんだと?」
山南陸将補の眉が、ぴくりと跳ね上がった。
いやああああ怖いいいいい!!




