表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/37

バーサーカーですね!

 ここでこいつらを戦わせるわけにはいかない。そもそも、向こうも同じ自衛隊。仲間だし味方なんだ。戦うべき敵はここにはいない。そうだろ?


「まあ待て、お前ら」

「何よ、准尉? 止めないでくんないかな?」

「俺も高嶺に同じです。実力行使すると言われて、大人しく退がるわけにはいきません」


 うわあ、二人とも荒ぶってんなあ。普通の自衛隊員と違って、モノホンの命のやり取りを何度もやってきたわけだから、こいつらにとってはこんなのじゃれ合いくらいにしか思えないのかも知れないけども。


「お前らの力は極秘だ。その力を隠す為、普通の人間に見せかけながら戦えるなら止めないが、出来るのか?」


 俺は二人だけに聞こえるように小声で諭す。こいつらはこれでもはっきり聞き取れる。


「えー! そんなの無理だよ!」

「う、それは……」


 流石のこいつらでも、この条件は厳しいらしい。装備があればまた違っただろうが、平時の隊服でさらに素手では難しかろう。


「何をごちゃごちゃ話している? さっさと退がれ!」


 向こうもかなりピリピリしてきた。高嶺と遠山、二人と対峙するのは、やはり神経が削られるのだ。実戦経験が無くとも、そこは鍛え上げられた軍人。感じるところがあるのだろう。


「ははは。悪いが退がれない。俺たちはあの金髪の少年と、連行して行ったやつらに用があるんだ。何度も言わせるなよ、この下っ端が」

「な、なんだと!」


 こんなヒョロい俺に下っ端呼ばわりされたのが癪に触ったようだ。隊長らしきやつが顔色を変えた。うむ、爽快。


「なんだと、じゃねぇよ。聞こえなかったのか? 俺たちはそこを通らなければならんのだ。だからどけ。退がるのはお前らだ。俺は特務戦隊管理官、階級は准尉だ。任務に関わる重大事案の為、ここに来ている。それを邪魔だてするのであれば、然るべき所に報告し、処遇を仰ぐ事になる。分かるか?」

「応とも。好きにするがいい」


 警備隊長は即答する。これで分かった。ここの警備レベルはかなり高い。他の何者も受け付けなくていいと指示されているのだろう。だが、俺はそれでも引けない。


 気に入らないもんは、気に入らないんだ。


「良かろう。ならば、特務戦隊司令、馬渕三佐の指示を求めるとする。本部警備も各部隊持ち回りの警備科が受け持ちだろう? 戦車隊もいるようだし、なかなか面白い事になりそうだと思わないか? なあ、戦車隊?」

「なに?」


 警備隊長が振り返り戦車を見遣る。砲塔から顔を出していた車長は、明らかに渋い表情になっていた。良し、予想通りだ。あのドームコンサート、そして今回の放送事故。これだけやんちゃしても、まだ俺達への処分が何も無い理由なんて限られる。軍隊素人の俺でも、そんなのはだいたい察しがつくんだよ。


「例えばここで、俺が馬渕司令に連絡し、援護を要請したとする。すると、馬渕司令はどこに話をつけようとするだろうな? 当然、連隊長になるんじゃないか?」

「ほへ? 准尉、何が言いたいの?」


 うるさいな高嶺。向こうも黙って聞いてんだから、お前も黙れ。どうせお前には分からんだろ。ちなみに連隊長とは、ここ北富士駐屯地で一番偉い人である。名前は忘れたけど、確か階級は一佐だから、馬渕司令の2階級上になる。


「ただでさえここの無理を一手に引き受けている馬渕司令だ。この前の戦車隊の不始末も、尻拭いしたのは俺たち特務戦隊だぜ? 知ってるか? あの無謀な攻撃を仕掛けた戦車隊の隊員たちを、誰が救助したのか?」

「そ、それはっ」


 戦車の車長は狼狽した。ふん、やっぱり知っていやがった。


「それはな、ここにいる高嶺三曹だ。こいつはな、超常外来生物と戦いながら、お前らの大事な仲間まで守ってたんだ。なのに、お前らときたら、まだお礼すらしてないよな?」

「う、む」

「あ、ちょっと准尉、そういうのヤダ。私、感謝されたくて助けたわけじゃないんだから」


 高嶺は照れている。人に平気でパンツ渡しといて、これは照れるんかい。もうお前わけ分からん。て、今、こいつはどうでもいい。


「そこはまあ置いとくとして、だ。あの時、もし死者が出ていたら、果たしてどうなっていたと思う? 戦車隊司令のみならず、連隊長も立場が危うくなっていたはずだ。つまり、我々特務戦隊はこの駐屯地の救世主。各分隊司令も、きっと感謝してるだろうなあ。そろそろ、俺の言いたい事が分かるだろ?」

「うう、むむ、む」


 警備隊長が苦しみだした。良し良し、分かってきたようだな。あの無謀な作戦、戦車隊司令が連隊長を説き伏せて実行されたって聞いてるからな。結果、明らかな大失態を晒している。これを突かない手は無いだろ。


「……なるほど。准尉は、本当にいやらしい人ですね……」


 遠山は察したようだ。て、いやらしいとは失礼な。もっとライトに、エロいと言ってくれまいか。まあどちらにしてもろくでもないが。


「貴様、俺たちを脅す気かっ……」


 警備隊長も理解した。そうそう、みなまで言わせないでくれ。それでギリギリ脅したことにはならなくなるんだ。俺の中では、だけど。


「さてな? どう受け取るかはお前ら次第だ。だが、お前らの将来がどうなるのか? その鍵は、今、この瞬間、俺の手の中にある事だけは間違いない」

「き、貴様あっ!」


 俺はそう言ってこれみよがしに端末を取り出した。


「さー、どーしょっかなー? 馬渕司令に、電話、しーちゃおっかなー? 君たち、結婚してるー? お子さまはー? 進学するー? 病気とか、してないー? 大丈夫かなー? このご時世、自衛隊員の再就職先なんて、なかなか見つからないんじゃないのっかなーっ?」


 俺は端末のディスプレイをタッチして、通話画面を呼び出した。これを実行した場合、各部隊の微妙なバランスは、きっと大きく崩れる事だろう。警察署の件でも感じたが、馬渕司令はかなりのやり手だ。この事件を知らせれば、相当うまく利用するに違いない。


 そして、馬渕司令にやり込められたどこぞの司令は、現場に八つ当たりをするかも知れない。現場、それは即ちこの警備隊の連中だ。


「あ、悪魔めっ!」

「や、やめろ! その端末を仕舞え!」

「えー? そーんなこと、言われてもなー? あー、今夜は冷えるなー。手が、手が震えるぅー。手が滑るぅー。うしゃしゃしゃしゃ」

「やめろぉー! お願いだから、やめてくれぇーっ!」


 よし勝負はついた。もう警備隊は総崩れだ。お前ら、幸せな家庭があるのが命取りだったな。俺にはそんな弱点が無いので羨ましいぞ。ちくしょう、試合に勝って勝負に負けてるやん、俺ったら。泣ける。


「准尉……、あなたという人はっ……」


 高笑いする俺を見て、遠山はドン引きしている。あれ? その反応、傷つくな。いや俺だってさ、こんな卑劣な手は使いたくないんだよ? 楽しそうに見えるかも知れないけど、ホントだよ?


「……分かった。ここを通す。だが、案内は俺がやる。少年のところへは連れてゆくが、それ以外干渉しないと約束してくれ……。これが、精一杯の譲歩だ……」


 ついに警備隊長が折れた。まあねえ、もし俺たちが敵国の兵とかなら家族を人質に取られても通さなかっただろうけども。味方相手に人生懸けてまで突っ張るのは無理だよな。理由もぶっちゃけ下らないわけだし。


 あと、これはお前らを助ける為でもあるからね? 特務戦隊アーミーアイドルの真の力を他の兵科の隊員が知ったらどうなるか、まだはっきりしてないからな。そこまで分かって貰えないのは切ないです。でも我慢。


「え? なんでなんで? 戦わないの? ねえ、バトルしないの? やだ、やろうよ! 戦おうよおー!」


 これで無事収まったと思ったら、高嶺が意味不明な駄々をこね出した。


「バーサーカーかお前は!」

「あいたっ」


 ムカついたので、俺は高嶺の後頭部を思い切り引っぱたいた。


 あれ? 俺の攻撃でも当たるんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ