65話 ひまりの悩み事
香織が転校してから、妙にひまりの元気がない。
家に帰ってきても、いつものように光輝に甘えてくることもない。
「どうしたんだ?」
「ちょっと香織のことを考えていたの……もしかすると、三雲高校には光輝を追いかけて転校してきて、光輝に振られたことがショックだったのかなと思って……」
そのことについては、香織の気持ちなので光輝にはわからない。
妙に話をすると、ひまりが責任を感じると思ったから、今まで光輝から香織の話題をしないようにしていた。
「香織の事情は俺も詳しくは知らない……夏休みに実家に帰った時に両親と話し合ったみたいだ」
「光輝には私がいたから……香織、何も言わずに、諦めてくれたのかも……」
「香織の性格を考えると、ひまりに宣言していたかもしれないぞ……光輝のことが好きですって」
「そうよね。香織ってそういう明るいタイプよね……少し私、考え過ぎていたかもしれない」
光輝はひまりに嘘をついた。
香織は他人から見ると明るいだけだが、気配りのできるタイプだ。
ひまりに言うと気にするだろう。
ここは、ひまりには黙っておく。
「あれだけ、光輝の小さいころを覚えていたんだもん。絶対に光輝のことを中学の時も忘れられなくて、想い続けてたんだと思う。皆には言わなかっただけで、やっぱり光輝のことが好きだったんだと思う……でも光輝の傍には私がいた……だから身を引いてくれたんだよ……きっとそう」
「ひまりの勘が当たっていたとしても、決めたのは香織だ。カラオケボックスでも言っていたように、香織はひまりと俺の幸せを願ってくれてる。もし香織が身を引いてくれたなら、俺達2人が幸せにならないとダメだ」
ひまりは妙に勘が良い所がある。
香織のことを何も聞いていないのに、全てを当てている。
ひまりは複雑そうな顔をして、ダイニングのテーブルに座る。
「私……香織に悪いことしちゃった」
「俺がひまりと付き合っていなくても、香織と付き合うことはなかったぞ。俺から見れば香織はただの幼馴染でしかなかったから……だからひまりが気に病む必要はないよ」
「それはそれ。これはこれよ。私、きちんと香織と話して、ありがとうって言っておけば良かった」
「そんなに気になるなら、香織に連絡してみろよ。ひまりも連絡先を交換していただろう」
ひまりはポケットからスマホを取り出して机の上でクルクルと回している。
自分でもどうしていいのか、わからないのだろう。
仕方がない、ここは光輝から連絡して、香織とひまりを話させるしかない。
ポケットからスマホを取り出して、香織に連絡する。
《あれ? 光輝? どないしたん? こんな時間に?》
《ひまりがさ……香織は俺のことが好きで三雲高校へ転校してきたけど……その時にはひまりが俺の隣にいたから、香織が気をきかせて、身を引いてくれたんじゃないかって言ってるんだ。それで香織にありがとうって言えなかったって悔やんでいてさ。今、ひまりと話してくれないか?》
《ええよ。そのことやったら夏休み中に心の整理はつけてあるし……ひまりと話するわ……代わって》
光輝はスマホをひまりに渡す。
ひまりと香織が今回の転校について話し合っている。
ひまりは黙って、香織の話を聞いて、時々、頷いている。
「香織の言う通りだね……私が暗くなってたら、光輝も心配になっちゃうもんね。私が香織の分まで、明るくならないとダメ。光輝を幸せにするのは私なんだから……香織、色々とありがとう。また会いましょうね」
そう言って、光輝にスマホを返してくる。
どうやら、ひまりの機嫌が直ったようだ。
ひまりは着替えのため、隣の部屋へ入っていく。
《ひまりにどんな話をしたんだ?》
《光輝は幼稚園の頃からの初恋の男子やったって正直に話した……それで転校先を光輝と同じ三雲高校にしたことも伝えた。ちょっとだけ光輝に恋心もあったことも伝えたけど……もう隣にひまりがおったし、光輝も小さな頃に比べて変わってしもうてたから、光輝に恋することはなかったって伝えたんよ》
なるほど……確かに高校生になっているので、小さな頃よりも自分も大きく違ってしまっている。
小さい頃に比べて、自分がどれだけ、何が変化しているのかは、自分ではわからないが。
これなら、ひまりも納得してくれるだろう。
《せやから、光輝は初恋の男子やって、ひまりに伝えてん。高校生になった光輝は少し好みのタイプが違うって言っておいたんよ。光輝にはひまりが一番似合ってるから……元気だして光輝の傍におりって言っておいたわ》
ひまりは機嫌を良くして、エプロンをつけて夕食の準備を始めている。
香織と連絡できたことで、ひまりの中のモヤモヤが消えたようだ。
テキパキと夕飯の準備を始めた。
《香織のおかげで助かったよ。そっちの学校はどうだ?》
《まだ転校したばかりやから、わからんわ。雄太や武彦みたいな面白そうな生徒はおらんわ》
《光輝も学校では冷静な顔をしてるのに、ひまりが関わるとダメになるんやね。面白い面を見せてもろうたわ》
《変な所を見せたな……学校が落ち着いたら、連絡をくれ。俺とひまりは香織の味方だ。何でも相談に乗るからな》
《ありがとう……困った時は連絡するわ。ひまりに頑張ってと言うておいて》
そう言って香織との連絡は切れた。
するとキッチンで夕食の用意をしているひまりが嬉しそうに微笑む。
「光輝は香織の初恋の男子だったんだって。だから想い続けてたのは確からしいけど……高校で出会った時は少し感じが違っていて、恋心はなかったんだって……香織が嘘をついてるのがすぐにわかった。香織は今でも光輝のことが好きだよ。でも私に譲ってくれた。頑張れっていってくれた。だから私、香織の分まで頑張るね」
香織……うまく言ったつもりだろうが……全てひまりに見抜かれているぞ。
やはり香織に高度な嘘は無理だったか。
それとも、ひまりが勘が良いだけなのだろうか。
「香織の電話から、今は光輝のことが吹っ切れていることが伝わってきた。それだけでも私は香織に感謝するし、その分、私は光輝を頑張って幸せにするね」
ひまりは、夕飯の用意を整えた後、光輝の傍まで歩いてくると、光輝の膝の上に体を乗せる。
そして光輝の首に手を回して、キスを交わした。




